モノとクラウドがSIMでつながる――誰もがMVNOになれる可能性を秘めた「SORACOM Air」MVNOに聞く(2/3 ページ)

» 2015年12月07日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

SIMカードの接続もコントロールできれば新しいことができる

―― どのような方法で、モノ向けの通信をサポートしようとしているのでしょうか。

玉川氏 IoTをきちんとやっていこうとすると、たくさんのモノが散らばっていて、それを管理することになります。SIMカードの管理も、そのモノ自体の管理も大変です。

 ですから、SIMカードの接続もコントロールできれば、運用も楽になるし、新しいこともやりやすくなります。1つの例を挙げると、SORACOM Airを買っていただき、SIMソケットのあるデバイスに入れ、それをRaspberry Piのようなものに挿せば、IoTのシステムが出来上がります。さらにWi-Fiモジュールを挿せば、これがゲートウェイになります。あとはデータをAWSにあげて解析する。これが、劇的な簡易さでできるようになります。

SORACOM Air SIMカードのコントロールはWebコンソールから行う

 SORACOM Airなら、さらに、挿したSIMカードをWeb上でコントロールできるようになります。(管理画面を見せながら)1つ1つがSIMカードで、ここから開始したり、休止したり、解約したりもできます。今までだと、SIMカードを手に入れて開通するには、ショップに行って買ったり、営業さんを呼んだりしていましたが、その手間もありません。

 われわれが提供しているユニークな機能として、回線ごとにスピードを変えられるというものがあります。なぜ、こうしているのかというと、IoTの中には、速度が必要ないものもあり、その分だけ安く使いたいというお客さんもいます。あまり速度が必要のない方には、お安く提供するという考え方です。ソラコムは帯域を(ドコモから)借りているので、ピークの管理が重要になりますが、こうしたピークに影響を与えない遅い速度の方は(料金的に)優遇しています。また、上りや、深夜帯も安くしています。一番遅い上りだと、1Mバイトあたり0.2円ですね。

―― 上りの方が、通信料が安いのはなぜですか。

玉川氏 統計的なデータを見ると、トラフィックの8割は下りだからです。理論的には4倍下りを高くしてもいい。逆にいうと、上りは安くすることができます。また、深夜もトラフィックがあまりないので、安くすることができます。ですから、例えば「Akerun(アケルン)」(フォトシンス)さんでは、ファームウェアのアップデートは、夜中にやるようにしているようです。

SORACOM Air 上りの通信料金は、下りの約3分の1

個人がすぐに通信事業者になることもできる

―― ここまで細かく制御できると、SORACOM Airを使えば、それを再販してMVNOができるような印象もあります。

玉川氏 IoTをビジネスしていこうとすると、いろいろな会社がMVNOになることが考えられます。そういった会社が、僕らと同じような苦労をする必要があるのか。そう考え、泥臭いことを代わりにやって、オープンに使ってもらえるようにしました。

 もちろんやり方によって電気通信事業者としての届け出が必要になりますが、SORACOM Airを使えば、個人がすぐに通信事業者になることもできます。回線管理も速度管理もできますし、1個1個のSIMカードの通信履歴も見られるようにしています。これはつまり、SIMビジネスができるということです。1Gバイトで500円のSIMカードを売るというパートナーがいたら、そういうプランを作って売ってもらえばいいのです。

 今までは、「各メニューを作成してそれぞれと契約する」となっていましたが、自分自身でどんどんビジネスを作っていける。Raspberry Piのようなハードウェアやセンサーを作っている会社は、1個売って1000円というようなビジネスをしていますが、SIMカードを入れて毎月500円いただくというようなサブスクリプションモデルに変えたり、2年間で1万円いただくというような売り方に変えたりができるようになります。

―― SORACOM Air自体が、MVNE的なプラットフォームになっているということですね。今までのお話で1つ疑問があるのですが、AWSのようなクラウドと、モバイル通信の交換機では、同じ技術といってもかなり違いがあると思います。この点は、どのようにクリアしていったのでしょうか。

玉川氏 いろいろな業界に「クラウドには乗せられない」という否定的な意見があり、それはことごとく覆されてきました。これは、テレコムについても例外ではないと思います。十分にオープンテクノロジーが進化して、ソフトウェアで実装ができるようになってきているからで、AWSをやってきたメンバーからすると、自然な流れです。

 一方で、今の(ソラコムの)メンバー構成を見ると、クラウドから来ている人間もいれば、キャリアから来ている人間もいますし、エリクソンのようなベンダーから来ている人間や、セキュリティに強い人間もいて、複合体のようなエンジニアチームになっています。このメンバーで、交換機だけでなく、課金やAPIも含め、全て提供できています。

―― なるほど。やはり、クラウドだけではなく、通信も含めた経験者がそろっているということですね。完成までは、かなり苦労も多かったのではないでしょうか。

玉川氏 ずっと大変でした(笑)。ただ、ビジョンがあり、こういうものを提供すると、お客さんやパートナーはきっと喜んでくれるという確信はありました。難しい側面という意味では、今作っているプラットフォームは、普通ではないぐらい、範囲が広いものです。ネットワークもやらなければいけないし、サーバも、アプリも、課金システムも必要で、パッケージも作って、SIMカードも売らなければなりません。振り返ってみても、相当、総合力が必要なビジネスだったと思います。

 チーム作りも苦心しました。それぞれのレイヤーの専門家が、少人数でやる必要があり、相当チャレンジングな取り組みでした。みんなが優秀だったおかげですね。テレコムのことをよく知っている人も、ベンダーのことをよく知っている人も、クラウドのことをよく知っている人も、フラットでフェアに意見を言い合っています。

―― ちなみに、今、キャリアの間でも、SDNやNFVといった、ソフトウェアで従来のネットワークを実現する技術に、注目が集まっています。SORACOM Airと比較したとき、違いはどこにあるのでしょうか。

ソラコム 玉川憲氏

玉川氏 ハードウェアの交換機を、単純に仮想化しようとしているわけではないということで、IoT向けのものを提供するために、最小限のところから順番をつけて提供しているのが、大きな違いです。クラウドネイティブといったらいいのでしょうか。仮想化とパブリッククラウドには大きな差があります。仮想化だと、あくまで足りなくなったらハードウェアを買い足す必要があります。前もって、前もって買っていくわけです。パブリッククラウドなら、そのスケーラビリティが保障されています。

 それをサービスとして提供しようとしているところも、大きな違いといえます。SDNなりNFVなりは、作ったものをキャリアさんに納めますが、僕らはそういう売り方をしません。

―― 仕組みを公開して、ユーザー1人1人に機能を提供するということですね。今までとは、まったく異なる考え方だと思いますが、サービス公開後の反響も大きかったのではないでしょうか。

玉川氏 おかげさまで、お客さんもだいぶついてきています。

 例えば、Akerun(フォトシンス)さん。うちでも使っていますが、われわれのようなベンチャー企業は、人数がどんどん増えていくので、その都度合鍵を作っていられません。Akerun(フォトシンス)さんでは、Akerun Remoteという黒い箱を出していますが、ここにうちのSIMが入っていて、親の外出中に子どもが家に入ったり、不動産屋さんが遠隔で内見できる部屋を開けたりといった用途で使っています。

 こういった使い方だと、通信するのは鍵を開けるときぐらいなので、ほとんどデータが飛びません。料金も、限りなく基本料金に近い金額になります。

 また、キヤノンさんでは、事務機器で実証実験を行っています。企業用の複合機に入れられていて、ドキュメント共有で使われていますが、課題になっていたのがネットワークです。大きな企業であるほどセキュリティポリシーが厳しく、ネットワークポリシーを変えるのが難しい。モバイルなら、それを担保したまま、データを飛ばすことができます。

 フレームワークスさんという物流をやられている会社では、現場に資材を運ぶトラックにSIMカードを入れ、GPSデータを上げ続けています。渋滞があったとき連絡をしたりといった、最適経路管理をやられています。

 タブレットでPOSレジを提供できるAirレジにも、一時的に使えるSIMカードとして利用されました。テレビ朝日の夏祭りで、本社の周りに屋台を出したときのPOSとして利用されています。われわれのSIMカードなら、1日単位で使えますからね。

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