格安SIM/スマホの向かう先は?――業界のキーパーソンが語り合った「モバイルフォーラム2016」(2/2 ページ)

» 2016年03月28日 06時00分 公開
[田中聡ITmedia]
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SIMフリーメーカーの「悩み」とは?

 続いて行われたパネルディスカッションでは、プラスワン・マーケティング 取締役の大仲泰弘氏、情報通信総合研究所 上席主任研究員の岸田重行氏、シネックスインフォテック モバイル&ホームエレクトロニクス本部 モビリティプロダクト部長の佐藤正隆氏、HTC NIPPON 代表取締役社長の玉野浩氏、マウスコンピューター 製品企画部 部長の平井健裕氏、テレコムサービス協会 MVNO委員会副委員長/インターネットイニシアティブ 取締役の島上純一が参加。石川氏がモデレーターとなり、「SIMフリー端末メーカーが抱える悩み」「ユーザーからの支持を得るために必要なこと」という2つテーマでさまざまな意見が飛び交った。

モバイルフォーラム SIMフリー業界のキーパーソンを交えたパネルディスカッションを実施
モバイルフォーラム マウスコンピューターの平井健裕氏

 最初の「悩み」について、マウスコンピューターの平井氏は、Windowsスマホ「MADOSMA」を発売して半年ほどたってから、ドコモのネットワークにつながりにくくなったことを挙げる。「MVNOの1社に協力してもらって解析をしてもらい、Microsoftと一緒に、これが原因だとやってきた」と解決に苦労したことを話す。

 マウスコンピューターは、iOSとAndroidにはないWindowsの魅力も訴求していく構えだ。「iOSの場合、買い換えてもほぼ操作性が一緒だが、Androidはメーカーをまたぐとがらっと変わってしまう。Windowsは、端末を変えても同じUI(ユーザーインタフェース)で、セキュリティレベルもある程度担保されている。セキュリティのパッチはMicrosoftが強制的にプッシュで配信するので、バグが見つかっても放置されることはない。Windowsのバリューを伝えていければいいと思う」(平井氏)

 国内では2015年後半から多数のWindowsスマホが登場したが、マウスコンピューターの強みは、PC企業として25年培ってきたノウハウを生かしたサポートだという。「コールセンターも24時間365日、しかも内製なのでフレキシブルに動ける。修理も社内でやっている」と平井氏は説明した。

 FREETELもWindowsスマホ「KATANA」を扱っており、「フルラインアップ戦略の一環であり、法人からも需要がある」とプラスワン・マーケティングの大仲氏は話す。

 HTCは米国でWindowsスマホを展開してはいるが、ラインアップの中心はAndroidだ。HTC NIPPONの玉野氏は「エンドユーザーがどれだけWindowsを使うのか、卵が先か鶏が先かの議論が社内でも続いている。ネットワークの互換性、アプリがちゃんと動くか、いろいろなことを検証しないと(日本では)出せない」と話し、日本での投入は未定だ。

 日本のSIMロックフリー市場では、さまざまな海外メーカーが参入しているが、そうしたメーカーは、日本特有の事情やニーズをどこまで理解しているのだろうか。メーカーの端末販売を支援するディストリビューター、シネックスインフォテックの佐藤氏は「ファーストコンタクトで話すと、かなりギャップがある。北米で売れているから日本でも売れるだろうと期待しているベンダーがある。どんな人に使ってもらうか、どんなメリットがあるかを明確化しないといけない。サポートについても、売りっぱなしというメーカーは海外では当たり前らしいが、日本ではそうはいかない」と実情を話す。

 また佐藤氏は「数年前は、Band1(2100MHz)しか対応していないメーカーさんが多かったが、Band19(800MHz)の重要性を説くと、『ロットが大きくなる』と言われてしまう。直近は、日本の技適を取得するベンダーも出てきている」と話し、日本市場に合わせて端末を開発する海外メーカーも増えているようだ。

モバイルフォーラムモバイルフォーラム HTC NIPPONの玉野浩氏(写真=左)、シネックスインフォテックの佐藤正隆氏(写真=右)

 情報通信総合研究所の岸田氏は「日本ではまだフィーチャーフォンを使っている人が多い。フィーチャーフォンが残っている市場は世界的にみても珍しい。まだ手探りの部分もあるが、どこから手を付けたらはまるのかは難しいマーケットだと思う」と日本が特異な市場であることを指摘した。

 一方で玉野氏は「本社からよく質問されるのが、どうして日本はここまで流通コストが高いのか? ということ。流通革命が起きないと、スマホメーカーは厳しい時代になる」と話す。これに対して佐藤氏は「結構もうけています……と言いたいが、例えばHTCさんからすると、10万台が決まれば(流通)コストは低い。PCが高かった時代は、流通コストが高くても利益が出てきた。でもPCとスマホはそれほど運賃が変わらないので、日本全国に届けるとなると、どうしてもコストが高くなる」と難しい事情であることを話した。

 日本独自のカスタマイズとして、石川氏は「カメラのシャッター音を消せないこと」を挙げる。これについては平井氏が「答えづらいけど、(シャッター音は)なくせるならなくしたい。標準では鳴るけど消せるようにする線引きはあってもいい。選択肢があるなら、歩調を合わせたい。弊社だけやると懸念がある」と答える。佐藤氏は「うちはOSの翻訳もやっているが、その中にカメラ音についても記載されている。(シネックスが扱った端末に)『パフッ』という音を入れた。音のバリエーションを増やすのはあり」とした。

 石川氏は「スペック競争と価格のバランス」についても質問。平井氏は「CA(キャリアアグリゲーション)、VoLTE、FeliCa(を載せられないこと)が具体的な悩み。特にSuicaとして使えないのが痛い。(フェリカネットワークスに)真面目に相談に行くと、『まずは話を聞きましょうか』ということにしかならない」とのことで、WindowsスマホにFeliCaを搭載することは特にハードルが高いようだ。大仲氏は「Suicaは要望もあり、やっていきたいが、やると大変なことになる。○×でいうと、○が付いている方がいいという意見もあるが……」と悩ましい胸の内を明かした。

「格安」と呼ばれてもOK?

モバイルフォーラム プラスワン・マーケティングの大仲泰弘氏

 「格安SIM」「格安スマホ」では、どうしても「格安」という言葉が先行してしまうが、MVNOや端末メーカーからは「格安」と呼ばれることに抵抗を覚えるという声をよく聞く。大仲氏は「格安と思って付けているわけではなく、端末に見合った適正な価格を付けているつもり。『格安』というと、日本人の考えの中で『安かろう悪かろう』が先行してしまうが、(FREETELでは)きちっと検証して快適に使える状態にして販売している。格安に代わるようなぴったりの名前が挙がってくるとうれしい」と話す。

 IIJの島上氏は「以前は『格安』という言い方を嫌いだと言っていたけど、『MVNO』に代わる言葉がない。格安SIMという言葉を知っている人はいるので、私も使うようになった」と考えが変わりつつあるようだ。一方で「2015年度のMVNO、いわゆる格安SIMの躍進を支えたのは端末。身近にあるスマートフォンを、安かろう悪かろうでいいですかというと、大半の人はノーと言うと思う。価値をきちんと認めていただけるものを作れば、格安という言葉は徐々になくなっていくと思う」との持論も披露した。

 今後の注力分野について、玉野氏は「コールセンターを提供する。『何でもこの番号に聞いてほしい』というのをやる。SIMカードを入れてどうやって簡単に接続できるかも、相談しながら改善していきたい」と話す。佐藤氏は「新しいメーカーさんを引っぱっていく予定がある」と明かした。大仲氏は「端末は、まだまだユーザー全てのニーズに応えられていない。ガラケーも含めて、全ユーザーに響くような端末を出していく」と意気込みを語った。

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