格安SIMの“レッドオーシャン化”が進む中でMVNOが取るべき戦略は?――IIJ島上氏が語るワイヤレスジャパン 2015

» 2015年05月28日 18時50分 公開
[田中聡ITmedia]

 東京・ビッグサイトで開催されている「ワイヤレスジャパン 2015」の基調講演で、インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)の専務執行役員 CTO ネットワーク本部長 島上純一氏が登壇し、「目指せ1500万契約!激動の中を突き進むMVNO」というテーマで語った。

photo IIJ 専務執行役員 CTO ネットワーク本部長 島上純一氏

SIMカード型の契約数は全体のわずか1.2%

 ここ最近のMVNOを取り巻く環境はどうなっているのか。まず、MVNOがサービスを開始した当初は低速での通信が多かったが、現在はLTE通信が普及。2013年から14年にかけて多くのプレーヤーがMVNO事業に参入し、「格安スマホ」「SIMフリー端末」「SIMロック解除」「格安SIM」という言葉も浸透しつつある。毎月利用できる通信量については、2014年後半から増量するMVNOが増え、現在はIIJが提供する「IIJmio」をはじめ、月額900円(税別)で3Gバイトが通信になるなど安くなっている。

 格安SIMの販路も、これまでは自社のWebサイトが中心だったが、家電量販店や自社の店舗で販売するところも増え、売り場を持つTSUTAYAやゲオなどでも格安SIMを取り扱うようになった。「行きにくいところにしか売っていないもの(SIM)が、ユーザーに身近で親しみがあり、対面での説明をしてくれる場所でも売られ、安心して買える環境が整ってきた」と島上氏は話す。

photophoto 格安SIMの販路も広がっている(写真=左)。一般コンシューマ層へ、MVNOの認知が進みつつある(写真=右)

 こうした環境の変化により、2015年4月に総務省が公表した調査によると、MVNOの認知度は前年比20.1ポイント増の69.5%にまで向上した。ただし裏を返せば約30%の人は、MVNOのサービスをまだ知らないことになる。島上氏も「知り合いや家族に、MVNOについて聞いたところ、言葉は知っているけどよく分からない。『そもそもSIMカード自体がよく分からない』『よく分からないから、まだ買うのは控える』という人が多い」と話す。格安SIMは、一般ユーザーにはまだハードルが高いのが現状だ。

photo ただ、まだMVNOのサービスを知らない人も多い

 2015年4月に総務省が公表したMVNOの契約数は892万。これは携帯電話全体の契約数1億5475万のうち5.8%。892万契約の中で最も多いのは、カーナビや遠隔警備などのM2Mを対象にした「モジュール型」の272万契約。量販店などで(WiMAXなど)ブランドを借りて販売する「単純再販型」が181万契約。IIJをはじめとする、SIMカードを販売している「SIMカード型」のMVNOは195万契約で、携帯電話全体のわずか1.2%に過ぎない。

photo SIMカード型のサービスは全体の1.2%に過ぎない

 そんなSIMカード型のサービスはMVNO間の競争が激化し、KDDIがグループ会社「KDDIバリューイネイブラー」を設立して「UQ mobile」を開始、ワイモバイルが自社のSIMカードを単体で販売するなど、MNO(大手キャリア)も間接的にMVNO事業に参入。こうした状況を見て島上氏は「レッドオーシャン化が進んでいる」と危機感をあらわにする。

photophoto MVNOとMNOによる、格安SIMのレッドオーシャン化が進んでいる

格安SIMの「横並び」から脱却するには?

 今後、MVNOはどんな戦略を取っていけばいいのか? 島上氏は「横並びからの脱却」「格安SIM以外の道」「外部環境要因」の3つが重要だと話す。

 横並びから脱却するには、「顧客ターゲットの差別化」が重要になると島上氏はみる。IIJはMVNEとして、ケーブルテレビ各社のMVNOサービスを支援している。「スマホは高いから」という理由で乗り換えをためらっているケーブルテレビ&フィーチャーフォンのユーザーに向けて、格安SIMを訴求することができる。「地域に密着して営業をかけられるので、ケーブルテレビは有力なチャネルになる。まだリーチできていない層にMVNOを紹介できる」(島上氏)

photo 高齢者層にも丁寧なサポートができるケーブルテレビが、格安SIMの普及に大きな役割を果たす

 もう1つは音声通話だ。現在、MVNOの音声通話サービスは、ドコモからの卸によって実現しているので、通話料は一律30秒あたり20円の従量課金となっている。「ただ、電話は最大のアプリなので、強化するのは差別化要因になる」と島上氏。例えば、050番号を使ったIP電話サービスや、IIJの「みおふぉんダイアル」や、フュージョンの「楽天でんわ」などプレフィックス番号を付けて通話料を半額にするサービスなどで各社は差別化に努めている。

photo 電話サービスでも差別化を図れる

 ほかに、端末(スマートフォンやタブレット)やコンテンツでも差別化できることを島上氏は付け加えた。

 格安SIM以外の道は、法人向けのMVNOサービスや、M2Mを対象にしたサービスだ。「人が使うだけでなく、機械に通信機能を組み込んで、付加価値や効率化を図る道もある」(島上氏)

 SIMカードを使えるのは、何もスマホやタブレットだけではない。カーナビ、ウェアラブル、スマートホーム、家電、産業機器など、いわゆるIoT(モノのインターネット)時代に入り、今はさまざまな機器からインターネットにアクセスできるようになった。「例えばTOYOTAやセコムなど、何らかのサービスを提供しているところが、MVNOに参入していくケースもどんどん増えていくだろう。まだまだMVNOは増えると信じている」(島上氏)

photophoto 法人MVNOやM2M向けの提供でも、MVNOの契約を増やせる

 外部環境要因は、SIMロック解除の義務化や光回線卸の開始、2020年の東京オリンピック、法律改正が関連する。

 SIMロック解除は、単純に考えるとSIMロックフリー端末が増えてMVNOサービスの活性化に貢献しそうだが、実際は端末によって使用できる周波数帯が異なるため、必ずしも自分の端末で目当てのSIMカードを使えるわけではない。それでも、対応バンドの多いiPhoneでのSIMロック解除が普及すれば、中古端末市場やMVNO間での乗り換えも活性化していくのではないかと島上氏はみる。

photophoto SIMロック解除義務化の効果が出るのは、もう少し先になりそう
photo 光回線+SIMサービスの組み合わせも増えていきそう

 また、4月には電気通信事業法等の一部を改正することが決定し、光回線の卸売りサービスの制度、MNOとの接続ルールなどが整備された。外国人が日本へ一時的に持ち込んだ端末が「技適」を取得していなくても違法としないよう定める。こうした環境の変化も、MVNOの発展に貢献することが期待される。

photophoto 2020年の東京オリンピックや法改正も、MVNOの普及に貢献するだろう

2016年中にMVNOの1500万契約は「行ける」

 総務省が2014年10月に発表した「モバイル創生プラン」では、2013年末時点で670万契約だったMVNOの契約数を、2016年中に1500万契約にまで倍増させることを目標にしているが、島上氏はこれは「可能だ」とみる。まず、13年12月から14年12月までのMVNOサービスの契約数は33%増加している。この推移がもう2年間続けば、16年12月には1500万契約に達する計算だ。加えて、先述した「横並びからの脱却」「格安SIM以外の道」「外部環境要因」がしっかりと実を結べば、まだMVNOが伸びる余地は大いにある。島上氏は「IIJはトップMVNOとして、イニシアティブを取り続けていく」と意気込みを語った。

photophoto 総務省の「モバイル創生プラン」では、2016年中にMVNOだけで1500万契約を目標としているが、順調に推移すれば、達成しそうだ

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