インタビュー
» 2016年06月02日 10時25分 公開

「電気通信事業法」の改正で何が変わるのか?――ドコモに聞く、MVNOとの取り組み(2/2 ページ)

[石野純也,ITmedia]
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HLR/HSSを2016年度内に開放するのは難しい

―― 今のお話を聞いていると、HLR/HSSの開放はまだ時間がかかりそうですね。

榊原氏 HLR/HSSに関しては、今、複数の事業者と協議をさせていただいています。相手のやりたいことが明確になっていないと、開発項目が多岐にわたり、お互いにとってよくありません。こちらが要望に応じて開発はしても、やはりそれは使えないとなってしまうこともあります。

 実際、HLR/HSSがあれば何でもできるというのではなく、主に3つの情報を保持できるようになると整理しています。1つ目が在圏情報。これは、利用者がどこにいるかの情報です。2つ目が電話番号、3つ目がサービス情報で、それ以外のことは、別の方法でもご要望にお応えすることもできます。先ほど申し上げた、顧客システムの連携もそうですね。

HLR/HSS HLR/HSSで管理している情報

 HLR/HSSの開放については、5つのステップがある中で、今はその2番目にいて、MVNO側が要望する内容はどのようなものなのかを、しっかり聞き込んでいるところです。ただ、ここが不明確な事業者も多く、手戻りもあって、行ったり来たりしている状況です。そうはいっても、だいぶ煮詰まってはきましたが、まだ協議をしている段階です。

 ここから開発に着手したとしても、(網改造に)1年ぐらいはかかってしまいます。先ほど顧客システム連携は2016年度中にはと申し上げましたが、加入者管理機能(HLR/HSS)は2016年度中には難しいですね。

―― なるほど。HLR/HSSの開放に関しては、正直なところ、もっと嫌がっているのではないかと思っていました。

榊原氏 以前のように「接続協議をする」しかないと、(AppleやGoogleのような)グローバルの大手企業まで接続義務で入ってくる。それが怖かった(原理的には基地局以外の通信網を完全にのっとることも可能になってしまうため)というのはあります。そうならないよう、総務省さんと協議し、今は相対でもやれることになりました。

 確かにHLR/HSSは「開放を促進すべき機能」と位置付けられていますが、これは義務ではないと明確に答えていただいています。その辺がはっきりしなかったので、われわれも最大リスクを考えてしまう。本当にMVNOが必要としていて、開放したらわれわれの事業が成り立たなくなるというようなものでなければ、対応できます。

NTTドコモ鴻池庸一郎 NTTドコモの鴻池庸一郎氏

鴻池氏 以前は慎重論でしたが、潜在リスク自体は変わっていません。設備面、制度面、その後の運用面で、初めてなので課題もあります。課題は解決していかなければならないのですが、そこについては、今、お話している事業者の方々も理解されています。どんなサービスが必要で、それに対してどんな機能を具備していかなければならないのか。例えば、仮に「セキュリティを担保する」といったとき、それは具体的に、どのような機能なのか。そういったことを、一緒にやっていきます。

ドコモのサブブランドMVNOの提供は難しいが……

―― 禁止行為規制が緩和されたことで、他には、どのようなことが可能になるのでしょうか。NDAに触れない範囲で構わないので、何かドコモとして考えていることがあれば教えてください。

榊原氏 相手があるので、非常に言いづらいのですが……(苦笑)。1つには、コールセンターの要望があります。そういったことや、スタッフの研修など、一部を請け負うこともできるようになります。ドコモは、やはり規模が大きいゆえに、いろいろな機能やノウハウを持っています。今はそれをドコモグループ内でしか使っていませんが、外で利用できるものがないのかを検討しています。やはり、総務省や有識者の方が声を上げ、法律を変えていただいた以上、われわれも結果を出していきたいですからね。

―― それは、MVNOがコールセンターをドコモに委託するというようなことですね。確かに、そこの条件が接続と同じで一律になってしまうと、厳しいところがありそうです。次に、ドコモ自身がサブブランドとしてMVNOを展開する可能性をお聞かせください。

榊原氏 検討はしていますが、なかなか難しいところがあります。もしうちが作ってしまえば、協業しているMVNOがどう見るか。自分のところばかりだと思われてしまいかねません。また、仮にドコモが子会社を作ってセカンドブランドをとなると、これは改正後の電気通信事業法でも禁止行為規制に抵触します。セカンドブランドのおいしいところは、ほかより安く卸していろいろなサービスを先にやれるところですが、そのどちらも、規制的にやりづらい面があります。

 子会社ではなく、自らがやるという形もあるにはありますが、どうしても安いものを出すと、それを全部に広げてくれという要望が出てきます。そうなると、収支へのインパクトが大きすぎるので悩ましい。とはいえ、ずっと手をこまねいているわけにもいかないというジレンマもあります。

―― IoT(モノのインターネット)に関してはいかがでしょう。今、戦略として推進している「+d」に、MVNOが加わるようなこともあるのでしょうか。

榊原氏 IoTに関しては、われわれのノウハウだけでは限界もあり、メーカーさんが先行している部分もあります。協業でいえば、メーカーさん自身がMVNOになるケースもある。(MVNOは)その際のエンジンになると思っています。今までは、禁止行為規制で、それができませんでしたからね。

―― 例えば、大手のキャリアとは全く違うことをやっている、ソラコムのようなところと組んだり……。

榊原氏 これ以上はあまりお話できませんが、いろいろな組み方を考えていきたいと思います。お互いの持つノウハウをうまくつなげれば、世界初の何かが生まれそうな予感はしています。

取材を終えて:HLR/HSSの開放に前向きな印象を受けた

 電気通信事業法が改正され、ドコモがMVNOを積極的に“活用”していく姿勢を、明確に打ち出し始めた。具体的な形が見えるのはもう少し先になりそうだが、まずはdマーケットや顧客管理システム、コールセンターといったところで、今まで以上に密接な連携をしてくようだ。年度内には、MVNO側から、何らかの発表があるかもしれない。

 一方で、HLR/HSSの開放には、さらに時間がかかるようだ。現時点では協議をしている段階で、実際に網改造に着手するとなると、年度内の実現は難しい。「開放を促進すべき機能」と位置付けられたHLR/HSSだが、これを使った「フルMVNO」の登場は、もう少し待つ必要がありそうだ。

 ただ、以前より、ドコモもHLR/HSSの開放に対し、前向きになっている様子がうかがえた。こうした点は、電気通信事業法改正の成果といえるのかもしれない。MVNOから選ばれる回線としては、現状、ドコモが独り勝ちの状態だが、他社はここに有力な対抗策を打ち出せていない。ドコモがMVNOを明確に“味方”と捉えた今、その差がさらに開いてしまう可能性も出てきた。

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