ワイモバイルがヤング割とAndroid Oneで春商戦に挑む――初心者にターゲットを絞った施策で格安スマホ市場をリード石川温のスマホ業界新聞

» 2017年01月27日 10時00分 公開
[石川温]
「石川温のスマホ業界新聞」

 1月18日、ソフトバンクが「Y!mobile 2017 Spring」を開催した。終了後、寺尾洋幸 Y!mobile事業推進本部執行役員本部長が囲みに応じた。

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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2017年1月21日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額540円・税込)の申し込みはこちらから。


―― 去年の春商戦はiPhoneが好調だったが、今年もiPhone 5sを売っていくのか。

寺尾氏 「んー。とりあえずノーコメントですね。iPhone 5sは続けていきますが、次の手は常に考えてますから」

(★ このままiPhone 5sなのか、iPhone 6に代わるのか、iPhone SEという変化球があるのか。どうなんだろうか)

―― 最近、店頭やネット販売でキャッシュバックをやっている印象がある。あれはあくまでSIMカードに紐付ているものという認識でよいのか。

寺尾氏 「お役所のガイドラインは当然守っています。(キャッシュバックも)その額です」

(★ SIMフリーと組み合わせることで、うまい抜け穴を活用している感じ)

―― Android Oneの開発はシャープ、京セラ以外とも交渉しているのか。

寺尾氏 「交渉を進めているかどうかはノーコメントだが、複数のメーカーとは常にお話をしている。我々としてはどこかのメーカーに肩入れするというより、多くのメーカーに参入してもらうことで裾野はより広がると思っている。そのなかでシャープ、京セラ以外の可能性を否定するわけではない」

(★ マイナーなメイカーも「Android One」として売れるのは大きなメリットかも)

―― ワイモバイルとしてのラインアップはAndroidとしてはAndroid Oneだけで、その他の機種が欲しければSIMフリーで、というスタンスなのか。

寺尾氏 「そこまで一気に割り切りたいところだが、基本的に我々が進めるサービスはAndroid One向けに作っていきたい。(メーカー別のUIだと)我々のショップスタッフがお客様に説明するのが難しい。どれだけわかりやすく伝えられるかが我々サービスを作る側の役割となる。できるだけAndroid Oneに揃えていくのがいろいろな面で良いのではないかと思っている。とはいえ、魅力的な端末も多い。お客さまからのニーズを見て判断していきたい」

(★ ソフトバンクがiPhoneとXperiaとAQUOSというのが主力となる中、ワイモバイルとしてはAndroid OneとSIMフリーという差別化は結構、うまい棲み分けかも)

―― Android Oneはメーカーごとの違いを打ち出しにくい。指摘したメリットは理解できるが、ユーザーからすればどのメーカーを買っても体験が変わらなくなってしまわないか。

寺尾氏 「しかし、メーカー間の差とは何でしょうね」

(★ メーカーでの差別化にすでに限界が来ているのは事実)

―― それぞれのメーカーがカメラ機能や省電力機能を開発しているが、Android Oneではそれらが使えなくなる。そういった状況をどう見ているのか。

寺尾氏 「デバイスとしての差別化、シャープではIGZO液晶を採用したり、(京セラでは)赤外線があったりするなど、いわゆるハードウェアでの違いはついてくる。いちおう、レギュレーションの中で幅を持っている。必ずしも、昔のケータイ屋さんがやっていたように、ハードウェアスペックなどをがっちりと決めているわけではない。最終的なユーザー体験が同じようになるように作ってもらっている。

 グーグルが提供するパッケージのなかにデュアルカメラが入れば、デュアルカメラを搭載したモデルも出てくるし、シングルカメラの機種もあるのではないか。みなさん、スマホをお持ちですが、すべて伏せてしまったとき、違いがわかりますか。むしろ、お客様にサービスをどのようにお届けするか。IGZOやその先の有機ELなどのハードウェアの差は出てきます。我々はハードウェアを縛るのではなく、お客様体験をグーグルにあわせたいと考えている」

(★ 寺尾さん、「グーグルが提供するパッケージのなかにデュアルカメラが入れば」と言及している。デュアルカメラが標準的になるということかな)

―― サービス面でYahoo!プレミアム無料化があったが、ソフトバンクもヤフーとの連携を強化している。両ブランドで差がなくなってくるのか。

寺尾氏 「非常にいい質問ですね。私どもワイモバイルはまだまだ小さな所帯。だれとでも定額は私、我々が発明したサービス。あっという間にみなさまに使ってもらえるようになったし、今ではドコモ、au、ソフトバンクにも導入された。先駆けたサービスの提案、考え方を我々は得意としている。そうしたアイデアをマスマーケットに広げるにはソフトバンクの力を借りる。ヤフーも我々のグループですし、数百万よりも数千万、世界で何億というほうが価値があがる。我々は棲み分けというよりも、常に先に行こうと。常に新しいことを考えて行こうという取り組みでやっている」

(★ ワイモバイルは個性を発揮しつつあるので、ソフトバンクがもうちょっと頑張らないとね)

―― ソフトバンクではスタッフ教育を熱心にやってきたが、これからはグーグルのアンバサダープログラムを導入するほうが手っ取り早いという判断なのか。

寺尾氏 「両方やるということです。必ずしもグーグルのアンバサダープログラムだけで研修できるわけではない。店舗のサポート部門やカスタマー部門といったバックヤードはソフトバンクと共通化が進んでいる。フロントエンドはワイモバイルショップだったり、ソフトバンクショップだったりする。バックエンドのコストセンター、我々を支えていただいているところはできるだけ共通化して、スペックを合わせることで効率化が進んでいる。スタッフの教育も一定のところまでは一緒にしているのが実態」

(★ ネットワークは一緒、店舗運営もスペックが共通化されているとなると、なぜワイモバイルはソフトバンクに比べて、安価な料金が提供できているのか?)

―― アンバサダープログラムはもともとインド市場向けで始まったと聞いているが。

寺尾氏 「Android Oneも新興国向けという話もありました。そこは国によって違うと思います。ただ、スタッフがお客さまと接している中でも、スマホの基本的なところが理解されていない。 

 我々のお客様はフィーチャーフォンから乗り換えた方が多い。そういう方々にいかにわかりやすく、サービスを説明するか。そこに苦労している。

 売る商品としては、S、M、Lの3つしかありませんし、ヤング割もぶっちゃけていけば、24ヶ月、1000円を引くだけ。

 実際に端末を使っていただくと、極端な話、電話のかけ方から、ご理解いただかなくてはならない。そうした場合のツールも用意しているが、そうしたものも一緒にグーグルと作ることで、もっとわかりやすいツールが作れるのではないか。我々の経験値をグーグルに戻し、グーグルの知見も我々に戻ってくる。さらにグーグルが日本、世界に広められればベストケース。これから始める話なので、こんな気持ちいいことをいっているが、半年後はどうなっているかわからない。思いはそこにあります。

 これから実現できるかは我々、頑張りますし、みなさんがこれから書いていただく一言ひとことが私を追い込みますので、よろしくお願いいたします。社内でも大変、厳しい立場に追い込まれます」

(★ 料金プランが3つしかないというのは、本当に上手いと思う。他のMVNOも見習うべき)

―― SIMフリー端末の販売で、1機種程度のボリュームになっているとあったが、何が要因としてあげられるのか。

寺尾氏 「SIMフリースマホが増えてきた。量販店の店頭でファーウェイやASUSを見かけるようになった。その端末とセットになるSIMは大手キャリアから提供されていない。

 実際に(ワイモバイルを使ってもらうと)MVNOよりも高い。ただ、我々のネットワーク品質であったり、困ったときのサポート体制を評価していただいて、我々を支持してもらえているのではないか。我々の販売店の力もあり、結果として頑張っている。量販店で一緒に売らせてもらっているケースが多い。

 我々はできるだけオープンに作ってきた。SIMだけで売れるような仕掛けを最初に入れていた。3年後、5年後に『こういう仕掛けだったんだ』となったらいいなというのを目指している」

(★ これは単にキャッシュバックの影響が大きいと思うけど)

―― 将来的にワイモバイルが調達する機種は絞っていくのか。

寺尾氏 「そうですね。そこはちょっと悩んでいます。売り方として、我々のサポーティブな端末と、グループ会社のソフトバンクC&Sが扱うSIMフリーな端末もある。そういうのとコラボして売ることもある。これからいろんなチャレンジの中でやっていきたい。我々は初心者、スマホデビューする方が多いので、わかりやすい端末、料金を提供しないといけないと思っている。そうしないと、我々の最初の思いがなくなってしまう」

(★ 選択肢の多さはSIMフリーに任せて、Android One一本で勝負していきそうだな)

―― 2017年のSIMフリー端末市場、格安スマホ市場はどうなると予測しているか。

寺尾氏 「堅調に進むと思う。しかし、相当、競争は激化している。プレイヤーの数は減っていくのではないか。我々も競争に負けてしまっては意味がない。競争の中でやっていきたい」

(★ ソフトバンクグループとしてはワイモバイルでMVNOを一網打尽にするつもりだろう)

―― 格安スマホで4割のシェアとのことだが、それ以上のシェア獲得は難しいか。

寺尾氏 

「社内の目標は常に高いです。ソフトバンクですから。常に私は『未達だ』と言われています。2.5倍売ったのですが、『おまえは未達だ』と。常に高みを目指している。

 シェアはというのは最終的な結果ですので、どれだけ多くのお客さまに我々のサービスを広められるかに力点を置きたい。数についてはいろいろな技があります。でもそれは本質じゃない。私自身、Android Oneを最初に出すときには、正直言って心配していた。端末メーカーがごりごりに作った方がいいのではないか。満足度が低いのではないかと恐れていたが、結果を見てみると、そこそこの満足度は得られているので、このスペックであれば合格点ではないか。そこで、シャープ、京セラに新たな端末を投入してもらった。

 結果としてシェアが上がっていけばいいが、ライバル会社が伸びてくるケースもあるかもしれない。まずは我々の想いを届けるところに注力したい」

(★ ワイモバイルがこのまま本気を出し続けたら、ソフトバンクも飲み込まれてしまうのではないか)

―― Yahoo!ショッピングのポイント倍率が17倍、ソフトバンクの例では最大20倍だが。

寺尾氏  「足し算にマジックがありまして。私どもはあの計算式でいうと21倍でございます。5のつく日に増えるという同じ計算をすると、プラス4になって、ワイモバイルは21倍になる。皆さんの優しい言葉遣いが私の立場を守りますので。

 今回は、Yahoo!プレミアムの特典無料が一歩先を行った取り組みといえる。宮坂(ヤフー社長)とも話しをするが、彼らは裾野の広いポータルサイトをやっていたが、その上でYahoo!プレミアム、ショッピングの上でさらに新たなサービスを伸ばしていきたい。その2階、3階というサービスを提供していく上で、プレミアムという価値は重要になってくる。

 ワイモバイルは安い料金を提供しているが、物を作るコストも安くしたい。たくさんのパートナーを使う、ヤフーが提供しているサービスをそのまま取り込めば、我々は開発コストをかけずにすむ。ヤフーと我々は同じ目線でサービスを展開できる。そこは一歩、先を行かせていただいている。

 Yahoo!プレミアムの価値はこれからも伸ばしていかねばならない。我々と組むことで売上の確保にもなり、ヤフーも伸ばしていくのではないか」

(★ ポイントが倍増されるとはいえ、ヤフーで買い物する人が増えるのかは謎。やはりAmazonの利便性からは抜けられない)

―― ワイモバイルはサブブランドのはずだが、社内的にはソフトバンクに遠慮せずに攻めていいということなのか。

寺尾氏 「あの、一切遠慮していません。が、なんと言うんでしょうね。私どもに入ってくれたお客様を調べると、解約していくお客様もいる。

 当たり前ですけど。ワイモバイルを解約して、ドコモ、au、ソフトバンクの大手キャリアに戻られる方がそこそこいらっしゃるんですね。なんでと理由を聞くと、家族だったり、サポーティブだったり、新しい端末であったり、体験価値を求めて戻られるお客様がいる。お客さまから見た時、我々のようにシンプルでわかりやすいが、逆に物足りないところはあるのかもしれない。我々はシンプルに、ソフトバンクは体験価値を上げていくことですみ分けしていきたい。これが本当にできるのか。まだまだスマホを持ちたいという方は多い。我々はじっくりと裾野を広げられたらいいと思う」

(★ KDDIもソフトバンクも体験価値といいつつ、結局はiPhone頼みになっているところが、ちょっと心配)

―― 大手3社は大容量プランを提供している。ワイモバイルは2倍のキャンペーンを展開しているが、さらにLLプランのようなものを作るという考えはないのか。

寺尾氏 「んー。これまた難しい質問ですね。昨年、学割をやってみて、(スマホの)高校デビューの人がものすごく多かったです。みなさん、お子さんがいらっしゃる方が多いかもしれませんが、スマホ代の負担ってしゃれにならないですね。

 大容量プランを提供しようと思えば、我々も同じコストがかかる。20GBにして、7000円、8000円で提供することはできるが、それをお客さんが求めているのかどうか。

 むしろ、ちょっとだけ我慢するとこの値段になる。我が家、家計も大変なんで説得するんですけども、これで我慢しろと。端末はiPhone 5sにしろ、料金はこれにしろと。家計も助かるし、家庭によってはそのぶんをお子さんのお小遣いにもできる。

 かしこく使うにはいい料金ではないか。どこかで我慢していただくことはある。

 我々は満点なキャリアではありません。

 Android Oneもここにいらっしゃって、特に前に陣取っていらっしゃる方は、物足りない、普通ですねという評価だった。普通なんです。必要かつ十分な端末なんです。それをリーズナブルな価格でお出しすることが我々のやることだと思う。質問忘れちゃいましたが、そういうことです」

(★ LLプランを出したら、ソフトバンクとの棲み分けができなくなるわけで。そこは事業者としても我慢のしどころなのかも)

―― 昨秋ごろからUQ mobileが本気を出している。影響はないのか。

寺尾氏 「あるようなないような……。もちろん、auさんが非常に力を入れられており、我々としてはひとつのライバルとして見ている。しかし実際の影響についてはよくわからない。MVNOさんの市場が伸びている中でUQさんも伸びておられるのだろう。影響があるといえばあるし、全体の市場が伸びている中で影響かなと」

(★ UQのCM好感度は上がっているようだし、影響が出るとしたらこれからかな)

―― 宣伝合戦をするなかで、お互い、伸びているということか。

寺尾氏 「どうでしょう。にぎやかになりましたよね。MVNO各社さんもテレビCMを打たれている。我々がお客さんを獲得する上で必要なのは知っていただくことが一番重要。昨年6月に小さな部屋でお話しさせていただきましたが、ワイモバイルってなに、というのがまだまだあります。UQさんや各MVNOがCMをやることによって、市場自体の認知が上がって、効果があるのではないか。全体が伸びているのではないかと思う」

(★ CMを打てないところは、結構、きつくなってきそう)

―― ストレート音声端末の「603SI」を出す意味はどこにあるのか。

寺尾氏  「The 電話です。少し年をとってくると、画面から少し目を離すと見えるようになる。スマホだとちょっと小さくて画面を離してもわからない。そうなるとタブレットをオススメしたい。

 その一方で、従来のパカパカ、折りたたみ形状は本当に必要なのか。気軽に持っていただける端末があってもいいのではないか。

 私どもの前身のウィルコム時代でも折りたたみと比べても、ストレートタイプはかなり売れていたが、今の市場にはストレートタイプはほとんどない。フィーチャーフォンとタブレットのセットというかたちで、新しい売り方ができるのではないか。実際、折りたたみとのセットもやっていたが、コストを下げてよりリーズナブルに提供できるのではないか。いろいろうやってみて、半年後にはしゃべってないかもしれない」

(★ ウィルコム時代に人気のあったストレート端末からの乗り換えを狙っているのだろう)

―― PHSにはハート型端末しかないが、その代替となるのか。

寺尾氏 「そうですね、話したいというニーズがある。我々はスマホを勧めてきたが、音声端末が何もないという状況は適切ではない。電話だけでいいという人にステップアップして欲しいが、端末はきっちり用意する。1995年から22年、ウィルコムからやってきますので、お客様の声を拾い上げていって、うまく形にしたいし、その結果が、いろんな方に広がっていくことが、我々の責務だし、我々がやらなくてはいけないこと」

(★ ここでストレート端末を出さないと、他社に逃げられてしまいかねないわけで)

―― 念のため、確認だがPHSなのか。

寺尾氏 「いえいえ違います」

―― あれでPHSを巻きとっていく感じなるのか。

寺尾氏 「んー、これから(検討)ですね。実際、エリアからすれば携帯電話のほうが使いやすいし、劣っているPHSではカバーできないところがある。音声でもVoLTEをやらせていただいています」

(★ そろそろPHSを巻き取っていく気がするが)

―― VoLTE対応なのか。

寺尾氏 「VoLTEです。Androidを使っています」

(★ みまもりケータイ4をセイコーソリューションズが作り、そのプラットフォームを活用しているんだろうな)

■取材を終えて

 寺尾さんのウィルコム時代からの知見が、ワイモバイルでうまく回り始めているんだと思う。シンプルなプランの作り方、端末ラインアップの考え方など、4番目のキャリアというかサブブランドとしてのポジションを十分に理解した上で、戦略を練っている感がある。一方で、頼りないのがソフトバンクで、もうちょっとワイモバイルを見習った方がいい気がしてきた。

 いま、面白いキャリアというかサブブランドはワイモバイルであり、業界的には台風の目になっているのは間違いない。

© DWANGO Co., Ltd.

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