NTTドコモの吉澤和弘氏が社長に就任して1年が経過した。この1年、総務省のタスクフォースを契機にした端末購入補助ルールの変更があり、サブブランドを中心としたMVNO(格安SIM)も勢力を拡大しており、携帯キャリアを取り巻く環境は変わりつつある。月額1780円の「シンプルプラン」や、毎月1500円を割り引く「docomo with」の提供を開始したのは、こうした市場の変化とも関連している。
社長就任から1年のモバイル業界を、吉澤氏はどう見ているのか。またドコモとしてどのような姿勢で取り組んでいくのか。ITmedia Mobileでは吉澤氏に単独インタビューする機会を得たので、さまざまなテーマでお話を聞いた。
―― 吉澤さんが社長に就任されてからちょうど1年がたちましたが、この1年を振り返って、どう評価しますか。
吉澤氏 タスクフォースがあり、MVNOやサブブランドが台頭してきましたが、われわれとしてやるべきことはできたかなと。それらの影響をゼロにすることはできませんが、お客さまに還元し、スマートライフ領域などで付加価値をつけながら成長していかなければなりません。利益の回復は、(前社長の)加藤から引き継いだ命題なので、どうにか達成できたのかなと。次の成長に向けての礎を築けたと思います。
―― 足元を見ますと、2017年夏商戦が始まり、新料金プランの「docomo with」も話題を集めました。端末も「Galaxy S8/S8+」や「Xperia XZ Premium」などが、販売ランキングを見ても好調に売れています。そのあたりの手応えはいかがでしょうか。
吉澤氏 2017年度も、スマートフォンの販売は好調です。当然、取り換え(機種変更)もありますし、フィーチャーフォンからスマートフォンへの取り換えも増えています。XperiaやGalaxyもそうですし、docomo withに対応した「arrows Be」と「Galaxy Feel」の2機種で12万台ほど売れています。
―― arrows BeとGalaxy Feelはどちらが売れていますか?
吉澤氏 arrows Beが6月1日、Galaxy Feelが15日発売なので、今はarrowsの方が(台数は)上ですが、1日あたりで見ると、Galaxy Feelの方が少し多いですね。
―― Xperia XZ PremiumやGalaxy S8/S8+と比べても、docomo withの2機種は売れているのでしょうか。
吉澤氏 いや、そこまでは行っていないです。Xperiaや「iPhone 7」の人気は高いですから。
―― docomo withの反響が大きかったのが、夏モデルの1つの特徴だったと。
吉澤氏 だいたい、思ったぐらいかなと。購入補助(月々サポート)はないにしても、2万円台半ば〜3万円台半ばぐらいでお買い求めいただけ、毎月1500円料金が下がりますので。これがかなり効いていますね。一番多いのは、フィーチャーフォンからスマートフォンに替える方です。そこはわれわれの狙いでもあったんですけどね。
―― docomo withの狙いで一番大きいのは、長く使う人にも割引を続けることだと思いますが、同時に、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行にも貢献できたと。
吉澤氏 そうです。フィーチャーフォンを長く使っていて、本当はスマートフォンに替えたいけど、なかなか……。あるいは外に出るか(他社に乗り換えるか)、というときに、docomo withを出せた。端末購入補助(月々サポート)だと、2年後は例えば1000円ポンと上がったりしますから。
―― 一方で、5月には「シンプルプラン」の提供も開始しました。家族で使う(シェアパック向け)という前提はありますが、これもフィーチャーフォンからの乗り換えを意識した施策なのでしょうか。
吉澤氏 そうですね。シンプルプランは、ドコモで通話をあまりされない方が変更することもありますし、外(他社)から入ってくる方もいらっしゃいます。
―― 2016年冬は、「端末購入サポート」付きで648円(税込)で購入できる「MONO」が話題を集めましたが、こちらの売れ行きはいかがですか。
吉澤氏 MONOはまだ販売していますが、数を限定した部分もあります。それでも20万台ほど売れました。20万台にはちょっと届いていませんが、だいたいそれぐらいです。MONOについては、今と同じように(端末購入サポートを付けて)売るのか、docomo withと同じようにするのか、次の機種(MONO)を出すかどうかは、検討しています。
docomo withの対象端末も、今の2機種に限るつもりはありません。拡大していきたいと思っています。
―― 一方で、iPhoneのような高額な端末をdocomo withの対象にすると、総務省の端末購入補助のガイドラインに抵触するのでは、という懸念もあります。
吉澤氏 docomo withでは端末購入補助は無しと考えています。1500円を割り引くと、2年間で3万6000円ですから、iPhoneやXperiaなどの高額なフラグシップモデルだと、今の仕組み(月々サポート)の方が有利なわけですよね。1つの機種に対して、docomo withと端末購入補助の両方が存在すると、どちらが有利なのかをお客さんが判断しないといけませんし、窓口でも案内しないといけないので、基本的には(月々サポートかdocomo withか)どちらかのプランにしようと思っています。
―― docomo withの対象端末を、3〜4万円台のミッドレンジに限定するというわけではないと。
吉澤氏 わけではないのですが、お客さまの反応を見ながらです。基本的にはミッドレンジですね。でないと、お客さんとしてのメリットがあまりありませんから。高額な端末を購入補助なしで買って、1500円の割引でいいという人がどれだけいるか……。
お客さまから、「iPhoneを9万円で買ってもいいから、docomo withを選びたい」というご要望が多ければ考えますが、今のところあまり聞かないですね。
―― iPhoneのユーザーは新機種が出るたびに、あるいは2年で買い替える人が多そうですからね。5sやSEのサイズがいいという理由で長期間使っている人もいますが……。
吉澤氏 iPhoneにこだわらなければ、例えばGalaxy Feelは5sとサイズ感が似ています。
―― arrows BeもGalaxy Feelも、docomo withは抜きにして、端末代そのものが安い気がするのですが、そこはドコモさんが頑張ったのでしょうか(arrows Beは2万8512円、Galaxy Feelは3万6288円※税込)。
吉澤氏 おっしゃる通り。ベンダーさんとはかなり調整をしました。
―― ドコモさんが端末代を余分に負担しているわけでは……。
吉澤氏 それはやっていません。仕入れ価格に一定の利益を乗せた上で価格を出していますので。
―― MONOにも適用された端末購入サポートとdocomo withが共存する可能性もあるのでしょうか?
吉澤氏 う〜ん、そこはどうするかですね。今回は共存させなかったです。MONOの後継機種が出たとして、今の考えでは、どちらかにしようと思っています。docomo withが好評であれば、そちらに寄せることもあり得るかなと。
―― ハイエンド一辺倒ではなく、MONOやarrows BEのようなミッドレンジの比率は今後さらに増えていくのでしょうか。
吉澤氏 もともとわれわれは、全てハイエンドをやっているわけではなく、ミッドレンジもやっていました。それでも以前は4万円を超えるような機種もありました。今回のdocomo with対象機種のように、売値としては3万円台半ばぐらい。これがマックスかなと。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.