「iPhone 4S」に見るスティーブ・ジョブズのDNA初日100万台突破(3/3 ページ)

» 2011年10月12日 00時00分 公開
[林信行,ITmedia]
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一新されているiPhone 4Sのデザイン

 さて、ここで本題であるiPhone 4Sのデザインについて改めて見てみたい。iPhone 4Sは、果たして本当にデザインが変わっていないのだろうか?

 一般の認識とは違い、iPhone 4Sのデザインは、実は激変している。

 これはアンテナ(つまり本体のフレームに入った切り込み)の位置が変わったという話ではない。今回のiPhone 4Sでは、CPUが従来の「A4」から「A5」というデュアルコアプロセッサに切り替わり、処理速度が劇的に速くなった。

 さらにカメラは800万画素になって……と実はここばかりが取り上げられるが、ここもアップルらしい一面が感じられる部分だ。ただ画素数を上げただけだと、暗いところの撮影が苦手になってしまう。そこでハード(センサー)、光学系(レンズ)、さらにはノイズ除去などのソフト面のいずれでも工夫をし、暗いところでもしっかり撮れるようにした。

800万画素に向上したカメラは、1080pでの動画撮影も可能。レンズ構成は5枚になり、ノイズ除去機能も搭載する

 それだけでなく、画素が上がればそれだけ写真の撮影速度も、撮影した写真の表示速度も遅くなるものだが、その分をきちんとA5のパフォーマンスでカバーし、使い勝手がいい状態までブラッシュアップしてから製品化をしている。

 もちろん、ユーザーはそんなことを意識する必要はない。ただ「iPhoneならどの世代のどの機種でも、写真をめくったり、拡大/縮小する操作を心地よくできる」ということだけを体験として積み重ねていけばいい。その裏にある面倒な、数えきれないほどの努力は、水面下でバタバタと足を動かしている白鳥のごとく、アップルが解決してくれている。

 iPhone 4Sは、そうしたしっかりとした仕事の上に完成したiPhoneであることに変わりはない。それに加えて、電波関係でもソフトバンクが採用するW-CDMA(以下、UMTS)と、KDDIが採用するCDMA 2000(以下、CDMA)という2つの通信方式に同時に対応した最初のiPhoneでもある。

 これまで実は日本でも売られていたW-CDMA版のiPhoneに加え、米国でのみVerizonという電話会社に対応したCDMA版iPhoneも存在したが、両者は別のハードウェアになっていた。しかし、2種類のハードを製造し続けるのは無駄が多い。何にでも対応できる1つのハードを用意し、ソフトウェアの変更だけで世界中で販売できるようにするのが、MacにもiPodにも共通するアップルの戦略であり、今回のiPhoneは技術の成熟によってそれを実現した。

 つまり、より電波の受信感度がいいアンテナで通信をする機能が内蔵されたといった変更だけでなく、2つの3G規格を1台に内蔵したうえで、これまでと同じ大きさ、そして何よりもあの薄さを保ち、さらに価格も手ごろにしている。

 能あるタカはなんとやら。すさまじい努力をして製品の内側に宿るデザインは激変させておきながら、シレっとした顔をして外見はまったく同じままリリースする。このよさに納得できる人にとっては、iPhone 4Sは極めて満足度の高い製品になることだろう。

 そう考えると、今回出たのが「iPhone 5ではなく、iPhone 4Sでガッカリしているのは、実は一般の消費者ではなく、マニアックな業界人や、写真で違いが見せにくいメディアの人たちくらいなんじゃないか」とも思えてくる。

 その証拠に、外見が変わらず、名前がiPhone 5でなかったとはいえ、米AT&T社ではたったの12時間で20万台の予約が入り、当面の分のiPhone 4Sを完売してしまった。また、日本でもかなりの人々が製品を予約し、行列ができた店も多数ある。実際、アップルの発表によれば、ワールドワイドでiPhone 4Sの予約は受け付け開始から24時間で100万件を突破した。このレコードは、これまでアップルが発売したどの新製品よりも多い数字だ(ちなみにiPhone 4の記録は60万件)。

 メディアがどんなにガッカリしてみせても、最終的に製品を買う顧客の間ではiPhoneのマジックは勢いを増すばかりだ。

タッチ&トライで触ったiPhone 4S

 ここまで読んでもらえれば、筆者がiPhone 4とiPhone 4Sのささいな機能の違いや、間違い探しクイズのような外観変更については、どうでもいいと考えていることが分かっていただけると思う。

 とはいっても、せっかくいち早くiPhone 4Sを触る機会を得たことでもあるので、そこでの感想を最後に少しだけ紹介することにしよう(ちなみにアップルのタッチ&トライコーナーに置かれていたiPhone 4Sは、いずれもソフトバンクの回線でつながっていた)。

 まず1つは、筆者のiPhone 4と比べても、圧倒的にWebページの表示スピードが速かったこと。これがHSDPAの効果なのかどうかは分からないが、WiMAXで接続していた筆者のiPhone 4よりも表示が速かったことを考えると、通信速度よりはCPUの効果なのかもしれない。

 もう1つ気になった点は、SMS/MMSのアイコンが新たに「メッセージ」というアイコンになり、これまで「iPod」となっていた音楽プレーヤー機能のアイコンがiPod touchと同様の「ミュージック」と改名されていたこと。

 また、「設定」には、新たにiCloudやTwitterといった項目が加わっており、「一般」設定には新たに「Siri」の機能や「iTunes Wi-Fi同期」の機能が加わっていた。設定のオン/オフスイッチなどが、丸みを帯びたものに変わっていたのも印象に残った。なお、Siriを除く機能は、すべてiOS 5の仕様になるはずなので、iPhone 4でもOSのアップデートさえ行えば恩恵を受けられるはずだ。

 カメラ機能は、HDRに加えて、グリッド表示のオプションが加わった。また、ビデオ撮影時にはジャイロセンサーを使った手ブレ補正機能が加わっている。この手ブレ補正機能はオン/オフがなく常に有効なようだ。試しに歩きながら撮影させてもらった限りでは、かなり安定している印象を受けた。しかも、動画の解像度も1080pになっている。

iPhone 4Sは800万画素のカメラを内蔵する。グリッド表示も可能になった
(表示されない場合はこちらから)


 タッチ&トライの会場では、iCloudのデモも見ることができた。iPhoneで写真を撮ってしばらくすると、それがMacでも見れるようになり、Apple TVでも見られるようになり、さらにはiPadでも見られるようになる。iPadで書類を編集し、写真の位置などをずらしてしばらくすると、それがほかのiPadでも位置がずれて表示される。この変更が反映されるまでのタイムラグは数十秒という感じだった。数人でゴリゴリ書類を共同編集するという用途には向かないが、1人作業のデータを複数のマシンで使う際には問題ないという印象だ。

iOS 5の新機能、iCloudのデモ。iOS機器どうしで自動的にデータが同期される。iPadで書類を編集してしばらくすると、別のiPadでも同じように変更されるのが分かる
(表示されない場合はこちらから)


 同じタッチ&トライの会場では、白いiPod touchやiPod nanoも見ることができた。実はこれらの製品もこれまでにあったiPod nanoやtouchと形状は変わっておらず、アクセサリをそのまま利用できる。ハードウェアは変更せずに、ソフトウェアのアップグレードで新しい機能や楽しさを提供する。まさにこれこそアップルの真骨頂ではないだろうか。

世界に本質主義を問いかけるアップルの製品

 ジョブズ氏は2007年にこんなことをいっていた。「アップルをハードウェアの会社だと思っている人も多いが、実を言うと我々はソフトウェアの会社で、iPodという“ソフトウェア”にきれいな皮をかぶせているだけに過ぎない」と。

 かつてアップルも、スティーブ・ジョブズ氏が復帰するまでは道を失い、よい製品を作り出せない状態に陥っていた。しかし、ジョブズが復帰し、製品数をゼロにリセットしてから、1歩ずつ製品作りを積み重ねていくうちに、アップル社員たちもその大切さを学んでいったのだと思う。

 何か1つ、新しい製品を出す度に世界を一喜一憂させるアップル。その度にITmediaの人気記事ランキングも乱高下が起きるが、実はそれらの製品の1つ1つが、顧客に、あるいはほかのメーカーにさえも、「本質に目を向けよう」と訴えかけているような気がしてならない。

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