示されたのは「新たな飛躍」――Appleが実現するモバイル&クラウド時代の理想像:WWDC 2011(1/3 ページ)

» 2011年06月07日 21時45分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 Appleは時代の節目節目において、未来に向かって重要な一歩を踏み出してきた。

 古くはMacOS Xへの移行やIntelチップの採用にはじまり、iPodとiTunesによるデジタルコンテンツビジネスの革新、最近ではiPhoneやiPadなどiOSデバイスでの新市場開拓などが好例だろう。Appleはコンピューティングとインターネットの未来に大胆な一歩を踏み出し、その理想を洗練された形で先取りしてきたのだ。

 そして2011年6月6日。今まさに開かれた「Apple World Wide Developpers Conference 2011」(WWDC 2011)も、未来から振り返ったときに“大きな節目”と位置付けられるだろう。iPhoneやiPadの新端末が発表されたわけではない。しかし、MacOSの新バージョン「OS X Lion」とiOSの新バージョン「iOS 5」、そしてAppleのクラウドサービスである「iCloud」が発表された今回のWWDC2011は、Appleと、モバイルIT市場全体にとっても重要な転換点であるのだ。

 筆者はWWDC 2011の会場において、Appleの次世代戦略が語られたキーノートを直接取材する機会を得た。Appleの次の一手はどのようなものなのか。そして、それは今後どのような影響を及ぼすのか。それを考えてみたい。

“モバイル化”したOS X Lionから見えるもの

Photo AppleのCEO(最高経営責任者)スティーブ・ジョブズ氏

 約2時間。

 WWDC 2011で行われた基調講演は、近年では珍しいくらいの長丁場だった。壇上にはCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズ氏を筆頭に、ワールドワイドプロダクマーケティング担当 シニアバイスプレジデントのフィリップ・シラー氏、iOS担当シニアバイスプレジデントのスコット・フォーストール氏が代わる代わる上って熱弁をふるい、会場の聴衆は最後まで真剣にその内容に耳をそばだてた。

 先述のとおり、今回のWWDC 2011で発表されたものは大きく3つ。「OS X Lion」「iOS 5」そして「iCloud」である。これらは個々で見ても重要な取り組みであり新機能の見所も多いが、それよりも今回の発表でさらに重要なのは、その“関係性が変わった”ところにある。OS X LionとiOS 5の境目は急速に消失してユーザー体験が近付き、その上で、iCloudをハブ(中核)にMacとiOSデバイスの位置付けが対等になっている。Appleはクラウドをベースに、自社のモバイルIT戦略を加速させているのだ。

Photo ワールドワイドプロダクトマーケティング担当 シニアバイスプレジデントのフィリップ・シラー氏

 この新たな方向性は、OS X Lionで顕著に見て取れる。

 OS X Lionは今回、250の新機能が実装されているが、特に大きく変わったのがユーザーインタフェース(UI)の部分である。講演で挙げられた10の注目ポイントのうち4つがUIデザインに関わるものであるが、そのどれもがiPhoneやiPadなどモバイル端末向けのiOSからフィードバックを受けたものだ。

 具体的に見てみよう。

 まず、分かりやすいのものが「Multi-Touch Gestures」と「Launchpad」である。

 前者はMacのトラックパッド上で、iPhoneやiPadと同様のスクロールやタップ、ピンチイン・ピンチアウト、スワイプといった“指によるUI”を全面的に導入するもの。単に操作方法が追加されるだけでなく、OS X上のウィンドウからスクロールバーがなくなるなど、UI全般において昔ながらのマウスによるUIからマルチタッチUIへの移行を推進している。

 後者は、iPhoneやiPadに似たアプリランチャーである。Mac OS Xに従来からあったDockやFinderからのアプリ管理・起動に比べて直感的に操作でき、Launchpadでフォルダを作ってアプリを管理することもできる。さらにMac App Storeから購入したアプリは自動的にLaunchpadに登録されるため、従来のMac(PC)でのソフトウェア管理に比べると、よりシンプルで分かりやすいものになっている。

PhotoPhoto 「Multi-Touch Gestures」「Full Screen Apps」「Mission Control」によって、MacOS X LionはモバイルノートPCの画面サイズでも抜群に使いやすいUIデザインに進化した。「Launchpad」ではiPhone/iPadのようにアプリが管理できる。Mac App Storeとも連携し、購入・ダウンロードされたアプリは自動で登録される

 「Full Screen Apps」と「Mission Control」は、さらに“Macのモバイルシフト”を示唆している。前者はMac用のアプリをiPhone/iPadと同様に全画面表示で使うもの。そして後者は、デスクトップや複数の仮想スクリーン、起動中のアプリ、ダッシュボード(ウィジェット)、フルスクリーンや各アプリのウィンドウなどを鳥瞰して1画面に表示するというものだ。この2つの機能によりOS X Lionは、MacBook AirやMacBook Proの11インチ〜15インチのスクリーンサイズで、従来よりも効率的かつ快適にアプリや各種操作が利用できるようになっている。もちろん、大画面・高解像度のiMacならばさらに広々とスクリーンが使えるだろうが、ノートPC(特にモバイルノートPC)の画面サイズに最適化したUIデザインを導入したことは注目すべきところだろう。

すべてのスクリーンを1画面で制御する「Mission Control」。「Full Screen Apps」では“完全な”全画面表示が可能。しかも「Multi-Touch Gestures」のスワイプで、いつでもデスクトップや他のウィンドウに切り替えられる

 iPhoneの投入以降、AppleはモバイルIT市場を中心に成功を収めており、2010年1月の初代iPad発表時にはスティーブ・ジョブズ氏自身が「Appleは、いまや世界最大のモバイルデバイス・カンパニーになった。ソニーよりも、Samsungよりも、Nokiaよりも大きい」と語るに至った。今回のOS X Lionの進化は、過去30年続いたデスクトップPCのくびきを断ち切り、これから急速に拡大するモバイルIT時代に合わせてリ・デザインしたものといえるだろう。OS X Lionが“モバイルOS”として最適化・再設計され、iOSと同列に位置づけられたことは非常に象徴的なのである。

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