ガーラックから車で約30分、地平線が見えそうなほど広大なブラックロック砂漠に到着した。どれほどへき地なのかと覚悟していたのだが、砂漠の入口までの2車線道路は舗装されており、車さえあれば簡単にアクセスできるようだ。だが一歩砂漠の中に入ってしまえば、もはや道らしきものは一切ない。固めの土に覆われたブラックロック砂漠は、風が吹けば大きな土埃が舞い上がっており、GPSを使わなければ自分がどこにいるか迷ってしまうだろう。そんな砂漠内を走ること10数分、遠くに車が10数台集まっている場所が見えてきた。ここがSpace Balloon プロジェクトの中継本部だ。
到着したのは15時過ぎ。日没前までにはリハーサルを終えなくてはならず、現地からのインターネット配信回線、打ち上げる気球本体と搭載するGALAXY S IIの調整、そして風を気にしながら気球を膨らますタイミングを図るなど、現場には緊張した空気が流れていた。すでに何度かテスト打ち上げを行っており、その都度出てきた問題もほぼ解決されているとのことで、今回は本番前最後のテスト打ち上げとなる。大きなアンテナを屋根に取り付けた中継車を中心に、スタッフたちはあわただしく準備に勤しんでいた。
現地ではこのブラックロック砂漠で気球打ち上げを長年行っているプロ集団、JP AEROSPACE社をパートナーとして迎えている。気球は同社が担当しており、風向や風速をこまめに計りながら1万5000リットルのヘリウムガスが気球に注入された。当日は風がやや強いものの打ち上げには支障はないとのこと。Ustream配信の調整も何とか終わり、あとはカメラやGALAXY S II、無線機を搭載した「プラットフォーム部分」を気球に取り付けて打ち上げの時間を待つだけとなった。
「打ち上げ1分前」の声が砂漠の中に響き渡り、気球が宇宙へ向かって出発する時間がやってきた。「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ」、気球を覆っていたシートをはがすと、気球はあっという間に上空へと上がっていく。風が強いため横に流されてはいるものの、1分もすれば気球の大きさはもう米粒ほど。ぐんぐん上空へ上がっていく気球を見ながら、スタッフから歓喜の声が聞こえてくる。打ち上げは成功だ!
だがプロジェクトはこれで終わりではなく、ここからが第2の本番となる。地表の中継本部から無線でGALAXY S IIにメッセージを送信し、カメラで撮影されたHD動画を再び地表で受信、さらにはその動画をリアルタイムでUstreamに配信していくのだ。さらには配信中も「高度1万メートル」といった情報を中継本部から適時追加していくなど、配信スタッフにとってはここからが緊張の時間となる。また気球と中継局間は無線を利用するため、指向性アンテナを常に気球の方向に向けておく必要がある。気球からの動画に乱れが出てくれば人力でアンテナの位置を微調整しなくてはならず、双眼鏡を使い、砂粒ほどの大きさに見える気球を常に監視しなくてはならないのだ。
一方、多忙なスタッフを横目に取材班はモニターに映るGALAXY S IIの画面を眺めていた。気球からのメッセージの映像は途中で多少乱れることがあったものの、無事“宇宙空間”まで気球は上り切り、約100分で高度3万3000メートルまで到達。この間はモニターを見つつも、現地に用意された衛星ネット回線をお借りして手持ちのスマートフォンからFacebookやTwitterへの状況書き込みができた。
さて、気球はこの高さで破裂し、あとはプラットフォーム部分がパラシュートで地表と戻ってくる。回収はJP AEROSPACEのスタッフが行うが、当日は風のためだいぶ遠くまで流されたようだ。Ustreamの配信もここで終了し、最終リハーサルは成功に終わった。だが最後に1つだけ問題が発生。それはUstream配信時の回線の帯域が不足気味であるとのこと。そのため明日の本番時に向けて衛星のアンテナを微調整するとともに、Ustream以外のデータ通信は禁止となった。
リハーサル終了後は再びガーラックのモーテルに戻り、早めの就寝となった。翌日の本番は早朝で、取材を間に合わせるためには深夜に出発しなくてはならないのだ。幸いなことにガーラックの町は何もないため、レストランで夕食が終わればそのまま隣のバーで軽く1杯飲む程度しかすることがない。夜の22時には部屋に戻り、昼間砂漠で土埃まみれになった身体をシャワーで洗い流してからベッドに入った。
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