なぜ子供たちはつながりたがるのか(1)小寺信良「ケータイの力学」

» 2013年10月28日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 本連載ではおよそ1年前に、7回に渡って世界のネット依存研究の情報をまとめたことがある(第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回)。当時は日本のネット依存研究はそれほど進んでいなかったが、実際依存者が少なかったという事情もある。

 ところが今年8月に、厚労省の調査として中高生のネット依存が51万8千人と報道されて以降、多くのメディアが「大変だ大変だ」といってがぜんネット依存が注目を集めるようになった。個人的にはこの数字の信憑性も含め、もうちょっと冷静になれよという気もするが、社会問題としてきちんと研究者に予算が付くようになれば、それはそれでいいことかもしれない。

 一般財団法人コンピュータ教育推進センター(CEC)では、「ネットのベターユース促進委員会(仮称)」を発足させ、子供たちのつながり依存に対する防止・解決策を探ることとなった。筆者も委員として末席を汚すこととなった。

 10月10日に開かれた第1回目の委員会では、委員である筑波大学 大学院人文社会系教授 土井隆義先生の講演を拝聴する機会を得た。土井先生はかねてから青少年の行動を社会学的に分析されており、2008年のちくま新書『友だち地獄 - 「空気を読む」世代のサバイバル』は、いじめの問題を社会学的に解きほぐした名著である。

 今回は土井先生のご講演を参考に、改めて日本の青少年における"つながり依存"という現象について考えてみたい。

価値観の変化に伴う社会行動の変遷

 子供たちがつながりを求めるという行動の根底には、必ず心理的な要因がある。まず子供たちの孤独化としてよく引き合いに出される資料が、2007年に発表されたUnicefの“An overview of child well-being in rich countries”(PDF)である。これによれば、15歳で孤独を感じると回答した結果が、日本のみ突出して高いという結果が出ている。

photo 「15歳の孤独感」2003年Unicef調査

 日本のみが異常に突出しているということで、設問の設定に問題がなかったと疑う必要はあろうかと思うが、当時はずいぶん騒がれたものである。ただ、この調査もすでに10年前、現在25歳になっている人のものなので、状況はだいぶ変わっていると思われる。

追記

直感的にこの調査に問題があるのではないか、と指摘したが、やはり調査方法に重大な誤りがあったようだ。元々の設問"I feel lonely"は、日本語の質問紙では「学校はいつも退屈だ」となっていた。「孤独を感じる」と「学校はいつも退屈だ」では質問のニュアンスに大きな隔たりがあり、この資料は国際比較として意味をなしてしない。


 一方で、子供たちの価値観の変化も見逃せない要素だ。2009年の厚労省「全国家庭児童調査」(PDF)によれば、「大切だと思うこと」として、「友達がたくさんいる」「健康である」「将来に夢を持っている」が3大要素となっている。年齢が下がるほど友達が多い事を大事に思っているのは、学校における指導の成果が強く表われているということだろう。

photo 「大切だと思うこと」2009年厚労省調査(グラフ出典:内閣府 平成25年版 子ども・若者白書

 ただ高校生でも、「勉強ができる」「いろいろなことを知っている」「お金がたくさんある」といった、大人が想定しがちな価値観をメインに置いておらず、それよりも友達が多いことに価値を見出していることも分かる。

 ここから分かってくるのは、知識や経済力といった「個」の属性はあまり重要視されず、「群」の中に居られるか、あるいは居続けられるかというところを重要視していることである。

 子供たちばかりでなく、大人でも、行動基準に変化が現われている。統計数理研究所の「日本人の国民性調査」では、20歳以上の男女個人に長期間にわたって意識調査を行なっている。

 この中では、「しきたりに従うか」という設問に対し、正しいことを押し通すと考える人は1968年以降減少傾向にある。それに変わって台頭してきたのが、「場合による」という人達である。

photo 「しきたりに従うか」統計数理研究所調査(グラフ出典:社会実情データ図録

 1988年以降、大人でも周囲の状況に合わせて意見や態度を変えるということが普通になってきた。当時20歳だった人でも現在45歳、子を持つ親になっている人も多いだろう。このような大人世代の考え方の変化も、子供たちの価値判断に影響を与えているはずだ。

 ベネッセが2009年に調査した「友だちのかかわり」では、「友だちが悪いことをしたときに注意する」といった正義感は持ち合わせているものの、「仲間はずれにされないように話を合わせる」や「グループの仲間同士で固まっていたい」という傾向もそれなりに強く表われている。このあたりの回答の絶妙なバランス感覚も、実に「空気を読んで」いる。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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