2016年の1500万契約を目指して――総務省 富岡氏に聞く、MVNO政策の展望と課題(1/2 ページ)

» 2015年02月13日 17時18分 公開
[石野純也,ITmedia]

 「格安SIM」や「格安スマホ」として注目を集め、契約者数も伸びているMVNOだが、元をたどると、この市場は総務省の競争政策の成果ともいえる。同省では、2000年代前半から、MVNOを政策課題の1つとして着目し、各種制度作りを行ってきた。例えば、今のMVNOが躍進している背景にある「相互接続」という仕組みも、総務省がMNOとMVNOの双方を仲介して生まれたものだ。

 こうした仕組み作りは、今も続いている。直近では、NTTドコモにかけられた禁止行為規制を緩和する方針を打ち出しており、ネットワークのさらなる開放にも取り組んでいる。SIMロック解除の義務化も、2015年5月から実施される。総務省では、2016年に契約者全体の10%までMVNOを拡大させる目標を掲げており、MVNOが今のペースで伸び続けられるかどうかが鍵となる。

 一方で、今後進めていくネットワークのさらなる開放やSIMロック解除の義務化には、クリアしなければならない課題があることも事実だ。また、MVNOが急増する中、ネットワークの品質や、その打ち出し方で、ユーザーに誤解を与えるケースも出ている。推進一方のMVNOだったが、新たな規制などは必要ないのか。このような疑問を含め、MVNOの成り立ちから今後についてを、総務省でMVNO政策を担当する総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 企画官の富岡秀夫氏に聞いた。

MNOとMVNOが共に発展していくことが大事

photo 総務省の富岡氏

―― まずはMVNOの成り立ちについて教えてください。総務省がMVNOを推進するようになった経緯を含めて、改めてご紹介いただければと思います。

富岡氏 総務省では、競争を通じたモバイル市場の活性化を目指しており、MVNOはその有力なプレーヤーになると考えています。もちろん、MVNOだけに肩入れしているのではなく、あくまでもMNOとMVNOが共に発展していくことが大事です。MVNOはMNOのネットワークに依存するビジネスモデルなので、仲介役として行政が関与する役割は大きいと思っています。

 総務省が政策課題としてMVNOに着目したのは、2000年代に入ったころになります。当初から、今のような料金の低廉化もありましたが、サービスが多様化することも狙いにしていました。もう1つはMNOが端末、コンテンツ、ネットワークまでの垂直統合構造を作っている中で、MVNOが協働型でほかのプレーヤーとコラボレーションして、各レイヤーで市場が活性化することを狙いにしていました。

 一番最初に政策として大きな動きをしたのが、2002年の「MVNO事業化ガイドライン」(正式名称「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」/外部リンク※PDF参照)を策定したことで、ここが本格的なMVNO政策の誕生といえるのだと思います。

 その後、MNOの新規参入もあり、MNO同士のさらなる競争も期待されましたが、結局は3グループに収れんしてしまい、協調的寡占と呼ばれる状況に陥っています。総務省やOECD(経済協力開発機構)の調査でも、特にライトユーザー向けの料金が国際的に高いという結果が出ていますし、3社のプランもほぼ横並びです。料金やサービスの競争も期待したいところですが、長期利用者の不利益になるキャッシュバック競争も行われています。また、MNOの新規参入は、電波の有限希少という特徴もあり、設備投資も大きくなります。そこで、改めて料金低廉化やサービス多様化のために(MVNOに)取り組んでいます。

 総務省としては、料金の低廉化やサービスの多様化だけでなく、M2MやIoT(Internet of Things)なども、MVNOが盛り上げていければと考えています。話をさかのぼると、もともとのMVNOはPHSがメインで、日本通信さんなどはそのころからやられていました。自動車会社のカーナビや、警備会社のホームセキュリティにもMVNOの回線が使われていました。ああいう形のものも、想定しています。

―― 今のように、SIMカードを単体で販売するMVNOが出てくることも、最初から想定されていたのでしょうか。

富岡氏 当時議論していたのはヨーロッパにバージンモバイルが出てきたあたりで、自分は国際関係の担当をしていていろいろ調べたのですが、自前でHLR(Home Location Register:ユーザーを管理するためのデータベース)を持つ「フルMVNO」から、単純な再販まで、さまざまな形がありました。いろいろなタイプのMVNOがあることは、想定しています。

―― 海外の事例でいうと、日本のようにMNOにネットワークの開放義務がかかっているのは珍しいという話も聞きます。この部分は、なぜ今のような形になったのかを教えてください。

富岡氏 ネットワークの開放義務は、2007年にMVNO事業化ガイドラインを改定して、「接続」という形を明記したときに明確化しました。2002年にガイドラインを作ったときは、卸電気通信役務を想定していました。卸の場合は、当事者間の相対の交渉の中でとなりますが、接続は接続請求の応諾義務があります。接続という整理もあるとガイドラインに位置づけたことが、ネットワーク開放にとっての重要なマイルストーンでした。

 開放義務とは別に、第二種指定電気通信設備制度を設けて、一定規模以上のMNOにはネットワークの開放について、料金や条件を接続約款という形で定めて、それを公表してくださいというルールがあります。また、ネットワークを提供するときは、接続約款ベースの条件で一律にしてくださいというルールにしています。

 これは、接続についての透明性や公平性を担保するためです。当初の対象事業者は、ドコモと沖縄セルラーだけでしたが、今ではドコモ、KDDI、沖縄セルラー、ソフトバンクモバイルがここに該当します。ワイモバイルだけは違いますが、4月からはソフトバンクモバイルと一緒になり、ここも同じになります。

 また、当時はMVNOといえば基本的にPHSのものでした。純粋な携帯事業者のネットワークの提供が進んでいないこともあり、改めて電気通信事業法の解釈を整理し、応諾義務のある接続が含まれるということを明確化しています。

photo MVNOへのネットワーク開放についての現在のルール

MVNOのゴールに対しては、まだ五合目ほど

―― 最終的に、MVNOはどの程度まで伸びると考えているのでしょうか。その目標から見て、今は何合目ぐらいなのでしょうか。

富岡氏 今は、全モバイルの契約者数に占めるMVNOの割合が5%ちょっとです。海外を見ても1割ぐらいシェアを取っている国があります。そこの数字だけを見れば、まだ五合目といったところですね。もちろん、シェアだけがすべてではありませんが、最終的にはそれくらい(海外の10%ぐらい)にはなるだろうと思っています。

―― すでに5%ということは、もうあまり残されたパイはないようにも思えます。

富岡氏 IoTやM2Mについては、まだまだこれから開拓される市場です。ただ、いわゆる普通のスマホについては、すでに飽和しつつあるのは事実で、既存の事業者からの乗り換えもある程度はあるのではと思っています。

―― 日本に居住している人以外でパイを取るという手もありますね。

富岡氏 2020年には東京でオリンピックやパラリンピックもあり、政府も観光政策に力を入れています。今までは訪日外国人の利用というと国際ローミングが想定されていましたが、日本の事業者のSIMカードを彼らが母国で持っている端末に挿して使う方が、おそらくは安くできます。そういったシーンも、MVNOの1つの新しいニーズになるのではないかと思います。

―― ただ、そこが非常に伸びる分野であれば、MNOも参入してくるように思います。

富岡氏 実際のMVNOを見ると、MNOがなかなか手を出しにくいところ、小回りが利くところに進出している例が多いですね。MNOにとっても、そういう形でMVNOがニッチなところに出ていけば、少なくともネットワークの利用料金だけは取ることができます。その部分を取ってくれれば、少なくとも何もやらないよりはいい、ということになるのではないでしょうか。

訪日観光客が“一時的に”持ち込む端末はOKに?

―― 訪日観光客を受け入れる際に、技適を取っていない端末が持ち込まれる恐れがあります。こちらについては、制度の改定を検討しているようですが、一方で国籍のようなものでその点を区別するのは、電波環境を守るという法律本来の趣旨に沿っていない印象も受けます。

富岡氏 訪日観光客が“一時的に”持ち込むものという形で整理をしようとしています。あくまで、一時的にです。国籍が違えばいいという点に関してはおっしゃるとおりで、その点を立法論としてどうするのが適当なのかを含め、今検討しているところです。

photo 訪日外国人が日本のMVNO SIMカードを利用するうえでの課題

―― ちなみに、KDDIバリューイネイブラーやワイモバイルは、MNOのグループで、親会社や関連会社から回線を借りています。こうした、サブブランド的なMVNOはどのように見ているのでしょうか。

富岡氏 MNOがMVNOを立ち上げるのは、彼らの事業戦略によるものです。そのこと自体の評価は差し控えさせていただきたいのですが、それを通じてモバイル市場が活性化するのだとすれば、望ましいことです。

 一方で、当然、MNOが自分のMVNOを優遇して「グループ外にネットワークを貸しません」となれば、それは困ります。グループ内だけでなく、グループ外にも積極的に提供することで、競争は促進されると考えています。今の接続のスキームだと、みんな接続約款ベースで、公平に提供することが確保されます。

 逆に、卸電気通信役務だと、特段そういったルールがありません。その辺が、昨年(2014年)の情報通信審議会では論点になり、卸電気通信役務の相対取引が公平性の観点から問題ないかをチェックする仕組みを導入するべきという提言が行われ、今後制度改正を行う予定です。

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