MVNO(仮想移動体通信事業者)が提供する、いわゆる「格安SIM」を主にサービス面から定点観測する本連載。2015年度の後半(2015年10月〜2016年3月)は、どちらかというと価格面よりもサービス面を改善する動きが活発だった。年度末に当たる2016年3月も、サービスに関する話題が多かったように思う。
年度が替わり、2016年4月・5月のデータ通信用格安SIMは、MVNOの災害時対応や公衆無線LAN(Wi-Fi)サービスの強化など、料金面以外での動きが引き続き活発だった。さっそく、振り返ってみよう。
(記事中の料金は、特記のない限り税別。2016年5月31日までの情報をもとに掲載)
4月14日、熊本県を震源とする「熊本地震」が発生した。それに対し、パケット通信容量の特別増量や、料金の減免措置を実施するMVNOも登場した。
被災地での情報取得手段の1つとして、携帯電話やスマートフォンを利用する人は少なくない。これからは大手キャリアだけではなくMVNOも、緊急時に安心して使えるかどうかが問われることになるのかもしれない。
なお、災害時のMVNOサービスの利用やSIMロックフリースマホの機能に関する記事は、ITmedia Mobileでも取り上げているので参考にしてほしい。
格安SIMに限らず、スマホやタブレットのデータ容量を節約する手段としての無線LANは重要な存在だ。一部の格安SIMでは、公衆無線LANサービスを標準付帯またはオプション提供しているが、「U-mobile」と「楽天モバイル」にも公衆無線LANオプションが登場した。
U-NEXTの「U-NEXT Wi-Fi」は、NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)が提供する「Secured Wi-Fi」を利用しており、U-mobileユーザーなら申し込めば追加料金なしでで使うことができる。NTTBPが整備した公衆無線LANスポットの多くで利用できるが、SIMカードを使った認証を行うことと、専用アプリが必要なことから、現状ではAndroid 4.3以上の端末にのみ対応している(iOSへの対応は2016年夏を予定)。
楽天の「楽天モバイル WiFi by エコネクト」は、エコネクトが提供する「エコネクトWi-Fi」を利用したサービスで、月額362円(申し込み初月は無料)の有料オプションとなる。ソフトバンクの「BBモバイルポイント」と、ワイヤアンドワイヤレスの「Wi2」のアクセスポイントを利用できる。
日々増えるユーザー数とデータ通信容量に対応するため、MVNOは帯域の増強を行っているが、帯域の増強に力を入れすぎると、その費用はユーザーが支払う月額料金に転嫁され得る。一方で、先述の通りユーザーには通信容量を節約したいという思いも確実に存在する。公衆無線LANオプションの提供は、ある意味でMVNOにとってもユーザーにとっても「Win-Win」な取り組みといえるだろう。
先述の通り、MVNOが通信帯域を増やすと、費用が月額料金に転嫁されうるが、それを怠ると、ユーザーが増えた時の通信速度が遅くなってしまう。
通信速度定点観測の結果を見ると、MVNOサービスの通信速度は時間帯によって差が大きくなる傾向が見て取れるが、通信帯域を多めに確保できればこの問題もある程度は解決できる。
そこで「通信帯域確保に関するコストをあえてユーザーに転嫁してしまおう」というオプションサービスが、ケイ・オプティコムの「mineo」に登場する可能性が出てきた。
この「プレミアムコース」は、同社のコミュニティサイト「マイネ王」から生まれたオプションサービス。通常のmineoユーザーとは別に専用帯域を確保しておくことで、混雑時でもより快適な通信ができるというものだ。9月からの正式提供を目指し、既存ユーザーを対象にしたモニタープログラムを6月から順次実施する。
提供形態の詳細は、モニターの結果を踏まえて決められる。リーズナブルさ(納得感の高さ)をうまく訴求できるものになれば、先述の公衆無線LANオプション同様にMVNOとユーザーにとって「Win-Win」なサービスとなるだろう。
MVNO業界は、参入者が多すぎて飽和状態にあるという指摘もある。そんな中、MVNO事業を展開するために設立されたスタートアップ企業「エコノミカル」と、同社のMVNOサービス「ロケットモバイル」が注目を集めている。
ロケットモバイルは、上下200kbps・容量無制限で業界最安値の月額298円を実現した「神プラン」はもちろんだが、「ロケモバポイント」をためることで月額料金を最大で全額割引できることも大きな特徴だ。ポイントはアプリのダウンロード、アンケートへの回答などでためることができる。
ポイント(マイル)がたまるMVNOサービスは複数あるが、案件達成型かつ月額料金の割引に直接利用できるサービスは非常に珍しい。案件達成型の無料サービスは、一部のマンガアプリなどで導入されており、ターゲットユーザー次第では大きな成功を収める可能性もある。ただし、他の案件達成型サービスとのカニバリゼーション(共食い)の可能もゼロではない。このビジネスモデルは、どこまでユーザーの心をつかめるのか。ロケットモバイルの動向から目を離せない日々が続きそうだ。
以前は「全プラン業界最安値」をうたっていた「DMM mobile」。しかし昨今では「業界最安値水準」と若干トーンダウンをし、どちらかというとサービス改善に注力していた。
そんなDMM mobileだが、4月利用分から一部容量のプランにおいて値下げを実施した。その結果、「1GB」「8GB」「20GB」の3プランにおいて、「イオンモバイル」と同率ではあるが業界最安値に返り咲いた。
ただし、上下200kbps・容量制限なしの「ライトプラン」と、3GBプランについては、ロケットモバイルに最安値記録を奪われた。今後、DMM mobileがロケットモバイルに対抗するのかどうか、注目だ。
「DTI SIM」は従来、1GB、3GB、5GB、10GBの4容量のプランを用意してきた。このうち、10GBプランが「使い放題プラン」(ネット使い放題)としてリニューアルされることになった。料金は月額2200円で据え置きだ。6月30日まで実施中の「どっちもおトク!キャンペーン」を適用すると、契約から6カ月間は月額1220円で使える。
このプラン改定では、月間の通信容量制限が撤廃された上に、3GB/3日間の通信容量制限も、「他の利用者と比較して著しく大量のデータ通信を利用した場合」に、その当日のみ速度制限するように改めた(具体的な容量は非公表)。
速度制限なしの使い放題プラン同士で比較すると、日本通信の「b-mobile SIM 高速定額」(月額1980円)が存在するため業界最安値とは行かなかったが、U-NEXTの「U-mobile LTE 使い放題」(月額2480円)よりは安価、という設定だ。
MVNOにとって、「使い放題プラン」は帯域確保の面で負担感のあるプランには違いない。しかし、あえてここに踏み込むということはサービスの差別化要素としてかなり大きなものなのかもしれない。今後、速度制限が(額面上)ない使い放題プランが、他のMVNOに波及するのかどうか、注視したい。
プラスワン・マーケティングの「FREETEL SIM」は、データ通信量に応じて料金が6段階で変わる「使った分だけ安心プラン」を提供してきた。通信容量に応じて料金が変動するこのプランは、通信サービスに対するリテラシーの高い人を中心に支持を集めた一方で、「月額料金がはっきりとわかるプランがいい」という意見も多く寄せられたという。
そこで、同社は5月27日から固定容量の「定額プラン」の提供を開始した。1GB、3GB、5GB、10GB、20GBの5プランを用意し、20GBでは同容量で業界最安値となっている。
今後、格安SIMのユーザー層が広がるにつれて、より分かりやすい料金プラン、より分かりやすいサービスが求められるということを端的に示した動きといえるだろう。
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