イヤフォンジャック廃止や防水対応――分解して理解する「iPhone 7」の変化バラして見ずにはいられない(1/3 ページ)

» 2016年11月10日 06時00分 公開

 2016年9月16日、世界で「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」が発売された。今回、筆者は日本では発売されていない米Intel製チップを搭載した米AT&Tモデルを見る機会に恵まれた。今回は、このAT&Tモデルの中身を紹介したい。日本モデルのみ対応しているFeliCaについて、ハード面での違いがあるのかについても触れたい。

※図版の画像はカナダの解析会社チップワークスの厚意により提供された。この場をお借りして御礼申し上げる
iPhone 7 製品画像。モデル番号「A1778」はIntelチップを採用するAT&Tモデル

Intelチップが復活

 初代iPhoneには、ドイツ半導体メーカーであるInfineon Technologies製のベースバンドチップ(通信専用プロセッサ)とRFチップ(通信IC)および電源制御ICが搭載されていた。Infineonは通信ICビジネスをIntelが取得したが、Intel名の新チップの登場は遅れ、旧Infineon製チップも姿を消し、過去数年はiPhone全モデルで米Qualcomm製チップが使用されていた。

iPhone 7 復活したIntel(旧Infineon)通信チップ。「PMB」の型番はInfineon時代のものを受け継いでいる。CDMAには非対応

 Intel製チップが姿を消したのはなぜか? 理由は種々あるが、最大の理由は主要な第3世代通信規格の1つ「CDMA」に対応していなかったことだ。ライバル会社のQualcomm製ICはCDMAをはじめ世界で使用されるほぼ全ての通信規格に対応しており、少数モデルを大量に生産するAppleとの親和性において、Intelが取得した旧Infineon製チップはユーザーが限定され不利だった。

 Intelの通信ICビジネス復帰第1弾が、2016年に発売されたiPhoneだ。ついにCDMA規格に対応したのかと思ったが、仕様を見るとCDMAには非対応のままであった。この状態でカムバックを果たしたということは、Appleにとって何か他の魅力があったという事になる。それは何だろうか。

 推測の域を出ないが、最大の魅力は価格であったと思われる。一般的に通信ICの価格は5ドル、ベースバンドICの価格は10.5ドル、電源ICの価格は3ドル程度で、合計すると20ドル近くになる。IntelはCDMAに対応しない代わりに、ライバル会社Qualcommより安価でICを提供したと予想される。全米最大の通信会社AT&Tは第3世代通信規格「W-CDMA」を採用するキャリアで、第2位のVerizonが使用するCDMAは不要であったため、AT&Tモデルへの採用になったと思われる。

 なお、確認できる範囲でさまざまな情報を集めたところ、今回のiPhoneにおけるIntelチップの割合は55%とのことだ。しかし日本モデルは全てQualcommのチップセットを採用している。

iPhone 7 表面が白いICが増えた。表面のコーティング剤に銀を使用しているためで、ノイズを防ぐためである
iPhone 7 TSMCの16nm Fan-Out Wafer Level Packagingプロセスで製造された「A10」プロセッサ。小さくなる一方のICチップにより多くの基板との接続ポイントを提供する技術。基板の幅はSIMカードスロットのサイズで決まっていると思われる

イヤフォンジャック廃止が意味するもの

 イヤフォンジャックがなくたった点は外観上の大きな変更点の1つだろう。この内径3.5mmの端子が存在する限り、端末をこれ以上薄くすることは困難になる。薄型化がトレンドの1つであるスマートフォンにおいて、イヤフォンジャックの廃止は1つの解答でもある。2017年のiPhoneには、液晶パネルよりも薄い有機ELディスプレイが採用されると予想され、さらに薄くなるかもしれない。しかし本格的な薄型化にはSIMカードスロットなど物理的な厚みのある部品の変化が必要だろう。

iPhone 7 分解したところ。イヤフォンジャックが廃止された場所には2個目のスピーカが搭載されるとの予想もあったが、大型化したTaptic Engineがこの場所を使用し、スピーカは1個のままである。これとは別に通話用スピーカは以前から1個搭載されている

 多くのスマホユーザーは自分のお気に入りのヘッドフォンを持っている。これを使い続けられるよう、イヤフォンジャックをLightningコネクターに変換するケーブルが新しく付属した。しかしこれを使っている間は基本的に充電できない。どうしてもバッテリー残量が気になる人は、これを機にBluetoothを使う無線ヘッドフォンに切り替える必要があるかもしれない。

ホームボタンにTaptic Engineを搭載

 ホームボタンが固定されたことも外観上の大きな変更点の1つだ。iPhone 7/7 Plusは防水・対応(IP67等級)に対応し、従来のようにボタンを押したときの上下運動による隙間の発生で、内部に水やホコリが浸入することを防止するための構造上の設計変更と思われる。2016年のホームボタンはタッチすると「Taptic Engine」と呼ばれる重りが横に振動する。振動モーターが「コン」という振動を発生させ、ボタンを押したときに近い感触を返してくれる。

 画面を押し込んでショートカットを呼び出せる「3D Touch」に搭載されたTaptic Engineに対しては、「いまひとつ効果が分かりにくい」という意見が多かった。誰もが触れるホームボタンに対応したことで、多くのユーザーがTaptic Engineの効果を感じられるだろう。

iPhone 7 日本電産などが製造する振動モーター「Taptic Engine」。内部の重りが横滑りする
iPhone 7 ホームボタンはカバーガラスから分離しているが、押すことはできないよう固定されている。防水・防塵を考慮した構造と推定される

Taptic Engineの単価はいくら?

 多くのスマホの振動モーターは「偏心モーター」と呼ばれるタイプで、モーターの先に付いた軸の片側に半円形の重りを付け、これを回転させることで振動を発生させている。単価は25セント前後である。

 これに対し、iPhone 7の振動モーター「Taptic Engine」は前述の通り重りが横に振動する。サイズも偏心モーターより桁違いに大きい。日本電産や中国ZDTなどがTaptic Engineを生産しているが、単価については諸説ある。

 10ドル程度と見積もる一方で2ドル程度という見方もある。真相は不明だが、仮に10ドルとすれば、容量2GBのDRAMの単価に近づくことになる。超高額な製造装置のお世話になっている半導体メモリよりモーターの方が高価とは考えにくい。このため筆者は後者の2ドル程度という見方を支持している。これでも偏心モーター単価の10倍近い価格なので十分高額と思う。

256GBモデルが新設

 写真や音楽を保存するフラッシュメモリ(ストレージ)の容量も大幅に増えた。従来のiPhoneは最大128GBだったが、iPhone 7では倍増して256GBが加わった。容量は3タイプあり、32GBは韓国SK Hynix、128GBは東芝、3D-NANDという新方式の256GBはサムスン電子がメインサプライヤーである。電子部品価格は緩やかに下がる中で、フラッシュメモリやDRAMなどメモリICはスマホの高機能化や中華メーカーの活況により需給が行き詰まり、Apple向け価格は2015年比で10%程上昇した。

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