2月27日から3月2日までスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2017(以下、MWC 2017)」において、米Qualcommのブースはひときわ高い存在感を放っていた。同社は30年にわたって無線通信技術の開発に取り組む通信ベンダーであり、モバイルIT市場をけん引するリーディングカンパニーの1つ。5Gが現実味を帯びてくるなか、同社のブースはひっきりなしに参加者が訪れるほど熱気を帯びていた。
Qualcommは将来の通信を3つの切り口で見ているという。
「QualcommがMWC 2017で示す重要なテーマは5Gだが、これらを実現するためには、4G技術の知見を積んで、5Gに反映することが大前提となる」(担当者)。同社は5Gを新規のテクノロジーとは見ておらず、あくまで4Gの延長線上に5Gがあると考えている。3Gと4Gで実績を残してきた会社だからこそ、5Gでは同社の強みが優位になるという考え方だ。
「ブースのウォールに大きく書かれた『3Gと4Gを実現してきたQualcommが、5Gを可能にする』というキャッチコピーこそ、今年(2017年)のMWCで伝えたい全てだ」と担当者は明言した。
では4Gや5Gをもとにして、具体的にどのような技術が生まれているのだろうか。1つずつ見ていこう。
スマートフォン向け統合型プロセッサ「Snapdragonシリーズ」を車載向けに改良し、温度耐性や振動耐性を向上させたのが「Snapdragon 820A(AはAutomotiveの頭文字)」である。正確な位置を補足し、カメラから入ってくる情報を処理する基本的な技術をSnapdragonがサポートする。将来的に自動運転にも応用できるチップだ。
ブースではデジタル地図サービス企業のTomTomが、Snapdragon 820Aを使ったドライブデータプラットフォームを活用して地図製作を行う模様が紹介された。
地図を作るには、専用の測位機器を搭載した車を走らせ、道路などの各種位置情報を収集するのが一般的である。しかしSnapdragon 820Aを使えば、高価な専用システムと同じレベルで正確に位置情報を計測し処理できる。
このドライブデータプラットフォームを活用することで、既存の地図情報収集システムよりも低コストかつ効率的な地図の構築が可能になる。現在は地図作成というやや特殊用途で用いられているSnapdragon 820Aだが、「将来的には乗用車向けの車載端末市場にも進出したい」(担当者)という。
もう1つの自動車向け通信技術が、安全性の高い車々間通信を実現する「C-V2X(Cellular Vehicle-to-Everything」だ。
例えば対向車に気付かずに前に走る大型トラックを追い越そうとした場合、C-V2Xがメッセージを出して対向車が来ていることを知らせる。さらにウィンカーを出した場合はアラートが鳴り、衝突の危険性を分かりやすく伝えてくれる。
車車間通信や路車間通信の技術としては、自動車専用の通信システム「DSRC」などがあるが、C-V2XはLTE技術をベースとしており、将来的には5Gの技術群とも融合する。DSRCよりも汎用(はんよう)的な通信技術を使うことで部材コストの低廉化が期待できるほか、歩行者の持つスマートフォンとも連携しやすい。「DSRCからC-V2Xへ」というのは、日本以外の自動車市場では今後の主流と目されている分野だ。
Qualcommは2016年、車載半導体の世界最大企業であるNXPセミコンダクターズを破格の5兆円で買収すると発表した。現在の車載向け通信技術やSnapdragonベースのサービスに加え、将来的にはNXPのプロダクトも入り、自動車市場に向けて非常に強力な製品ラインアップとなる。
「自動車分野は重要な分野の1つであることは間違いない。モバイルで培った技術をいかに新しいマーケットに展開するかという意味では、オートモーティブは技術自体の共通性があり応用できる。われわれの強みである通信においてもC-V2Xは重要技術である」(担当者)。
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