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» 2011年09月07日 11時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:Windows Phone 7.5は「Microsoftっぽくない」――日本マイクロソフト 横井氏に聞く (1/2)

Microsoft、そして日本マイクロソフトは、Windows Phone 7.5を採用する「Windows Phone IS12T」を世界に先駆けて日本市場に投入し、第3のスクリーンであるモバイルデバイス市場での覇権争いに再度挑戦する。その意気込みと狙いを聞いた。

[神尾寿,ITmedia]

 8月25日、KDDIから「Windows Phone IS12T」が発売された。同機は世界で初めてMicrosoft製のスマートフォン向けOS「Windows Phone 7.5」を搭載。Microsoftにとっては、一般コンシューマー向けスマートフォンの“2強”であるAppleの「iOS」とGoogleの「Android」に対抗する戦略商品になる。

 Microsoft、そして日本マイクロソフトはWindows Phone 7.5の勝算をどのように考えているのか。またスマートフォン化が急速に進む日本市場に、どのような姿勢で臨むのか。

 今回のMobile+Viewsでは、日本マイクロソフト 業務執行役員 コミュニケーションズパートナー統括本部長 兼 コミュニケーションズインダストリー統括本部長の横井伸好氏に話を聞いた。

Photo 日本マイクロソフト 業務執行役員 コミュニケーションズパートナー統括本部長 兼 コミュニケーションズインダストリー統括本部長の横井伸好氏

3スクリーン戦略の重要な一手

――(聞き手:神尾寿) 今回のWindows Phone 7.5は日本市場からの投入になりました。まずはMicrosoftにおける、Windows Phone 7.5の戦略的な位置づけをお聞かせください。

横井伸好氏(以下横井氏) 少し過去を振り返りますと、Microsoftは2006年から、PC・テレビ・モバイルからクラウドを利用するという「3スクリーン戦略」を提唱しています。この基本コンセプトは変わっていません。

 グローバルで見ますと、我々はPCに大きなアドバンテージを持っています。また家庭用テレビの分野では、グローバルではXbox 360が非常に強いポジションを占めているわけです。残っているのがスマートフォンの市場で、ここを獲得するための重要なOSがWindows Phone 7.5になります。

―― マイクロソフトはスマートフォン市場では草分けですが、iPhone以降におきた“スマートフォンの一般化”には出遅れてしまった感があります。

横井氏 初期に投入したWindows MobileはPDA向けのOSに通信機能を入れたもので、「PCコンパニオン(PCの補完デバイス)」という位置づけでした。ご指摘のとおり、このWindows Mobileの進化では、今のスマートフォン市場を取ることができない。ですから、Windows Phone 7は過去をすべて捨てて、新たに作りました。Microsoftの持てる力を総動員し、(3スクリーン戦略で残された)最後のピースを取りに行くものです。

―― Microsoftの基本スタンスは「資産の継承」でした。それなのにゼロから作り直すというのは英断ですね。

横井氏 ええ、実際かなり珍しいです。我々の戦略の中では、ほぼ「やったことのない」ことですね。しかし、このままWindows Mobileを引きずっていても、お客さまにとってもメリットがない。ですから、すべて断ち切らせていただく。まったく新しいOSとして開発したのが、Windows Phone 7シリーズというわけです。

―― コンシューマー市場に再チャレンジする、と。

横井氏 そうですね。Microsoftは元々はコンシューマー市場に強い会社です。Windows 95やWord、Excelといったソフトをコンシューマー市場で成功させてビジネス市場に持っていき、エンタープライズ市場を獲得していった。しかし、エンタープライズまで含むビジネス市場を大きく獲得すると、今度は「過去の資産を断ち切る」ことが難しくなる。これが(コンシューマー向け)スマートフォンなど動きの早い市場では不利に働いてしまうのです。コンシューマー市場とビジネス市場の両方を持つ、Microsoftならではのジレンマですね。

 しかし今回のWindows Phone 7シリーズは、コンシューマー市場に合わせて開発しています。もう一度一般コンシューマーの皆さまにエキサイトしてもらいたい。ビジネス市場を捨てるというわけではありませんが、コンシューマー市場を重視することで、(ビジネス市場とコンシューマー市場の)両輪のバランスを取っていきたい。

なぜ「日本市場から」投入されたのか

―― 当初のWindows Phone 7は英語圏などシングルバイトのみの対応でしたが、今回のWindows Phone 7.5では日本語を含む多言語対応になりました。そして、その最初の投入国が日本です。ここには何か理由や背景はあるのでしょうか。

Photo 「シャシーデザインにより端末の市場導入の速度はかなり短縮されている」と横井氏

横井氏 Windows Phone 7.5は多言語対応していますので、OSとしてのリリースは世界同時です。また先代からハードウェアの基本仕様を我々が策定する「シャシーデザイン」を取り入れていますから、最新のOSが、いつ・どの地域で販売されるかは、メーカーの実装タイミングによるところになります。ちなみに今回のWindows Phone 7.5のプレビルドバージョンを採用メーカーにお渡ししたのは、今年の5月末です。

―― ハードウェア実装から製品化までは約3カ月で行ったわけですね。それはかなり早いですね。

横井氏 ええ。Windows Mobileでは考えられない短期間ですね。(Googleの)Androidと比較しても、短期間で実装・製品化できていると思います。これは先ほど述べたシャシーデザインの効果が発揮されたものです。

―― では、日本が「世界初」になったのは、単なる偶然ということでしょうか。

横井氏 いいえ。Windows Phone 7.5が、世界で初めて日本で発売されたKDDIさんの想いによるものです。KDDIさん側から「我々が世界で初めてWindows Phone 7.5を発売したい」という熱いメッセージをいただきまして、日本マイクロソフトでもその想いにできるかぎり応えよう、ということになりました。

―― なるほど。かつてのiPhoneの時もそうでしたが、新しいOS・スマートフォンが登場する時は、キャリアがローンチカスタマーとして、どれだけ熱意を持って迎えてくれるかが重要です。この点でWindows Phone 7.5は、KDDIが支援してくれたわけですね。

横井氏 我々としても、実際に端末が出ないことには始まらないので、とてもありがたいことです。Windows Phone 7.5の搭載機が発売されて、そこからアプリなどが増えていくわけですから。そういったエコシステムの観点では、日本市場にはWindows Phone 7がなかった。シングルバイト圏の国はWindows Phone 7がすでにありますのでこちらでアプリ開発ができるのですが、日本でのアプリ開発を促すために、早期にWindows Phone 7.5搭載機をリリースすることは重要だったのです。

―― Microsoftにとって、日本市場そのものは重要なのでしょうか。

横井氏 重要な市場です。まず市場規模という観点では、日本はPCのマーケットが、長らく北米に続く世界2位でした。これは次のスマートフォン市場においても同様です。数だけ見れば中国市場の台頭も注目されますが、ビジネスという観点では、日本市場は北米に次ぐ位置になるでしょう。

 また先ほど述べたとおり、今後Microsoftが提供する価値は、3スクリーンを組み合わせてこそのものになります。北米では、この3スクリーンのうち2つを、WindowsとXboxですでに獲得しているわけです。日本でも3スクリーン戦略を推進するうえで、Windows Phone 7.5の重要性はとても高いのです。

―― しかし、北米との比較で見ますと、日本市場ではXbox 360が一般市場で受け入れられていません。この点は不利ではありませんか。

横井氏 確かにご指摘の点はありますが、一方で、PC市場においてはWindowsとMicrosoft Officeの普及率がとても高い。特に後者のOfficeに関しては、世界でも群を抜く普及率になっています。これが北米市場とは違った形での(Windows Phone 7.5の)優位性になると考えています。

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