コンピュータと子どもの関係、そして情報のカタチ小寺信良「ケータイの力学」

» 2010年10月12日 11時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 学校で情報リテラシー教育の最前線に立つ技術・家庭科の先生たち。そんな先生方は情報教育にどのような問題意識を持ち、懸念を抱いているのか。前回に引き続き、筑波大学附属駒場中・高等学校の技術科、市川道和先生にお話を伺っていく。

 子供の思考形成に、コンピュータがどこまで支援できるか――。市川先生が10数年前に取り組んだのが、LOGOという言語体系である。LOGOは米国の数学者・発達心理学者であるシーモア・パパート氏が開発したプログラミング言語だ。まだ小学校にも上がらないぐらいの子どもとコンピュータとの対話を確保するために、いわゆる言葉としてのプログラミング言語ではなく、図形を言語の代わりに用いているのが特徴である。

 このLOGO言語とブロックのLEGOが組み合わさった教材として、かつて「LEGO TC logo」という製品が存在した。残念ながら現在は製造中止となっており、変わりに「LEGO Mindstorms Education」という製品になっているようだ。ただしLEGO Mindstorms Educationは、肝心の情報操作の部分がいまひとつブラックボックスになっているのだという。

 「LEGO TC logoのいいところは、モーター、センサーがディスクリート(物理物)になっているところです。プラグをポートに差し込んで、ポート番号を見ながらプログラムしていく。子供が『こうやったらこうなるんじゃないか』という疑問に合う教材なんですよ。完成形がある教材は、その先へ行けないんですね。例えばこれは4足歩行のロボットですが、単に電源を入れてうごくだけならメカニックス、機械工学止まりなんですね。そうじゃなくて、センサーを情報に変換して、プログラムで思うように動かす。これは思考力、技術科で大事な設計する力を育てるんです。子どもにやらせると大抵はなかなか上手く動かないんですが、そこがいい。失敗じゃなくて、どこがおかしいのかを教材が教えてくれる。それが対話なわけですよ」(市川氏)

Photo LOGO言語で動く「LEGO TC logo」
Photo 情報の形の図。一口に情報と言っても、見方を変えれば段階が変わる

 我々が普段扱っている情報、何気なく「情報」と呼んでいるが、実はいくつかの段階に分かれている。一番下が「データ」、次が「情報」、その上が「知識」、最上位層が「知恵」である。「データ」とは、それ自体が特別な意味を持たない事実や数値のカタマリだ。「情報」は、データを意図・目的を持って集計・加工し、意味を持たせたものだ。「知識」は、情報の中に隠された意味を読み取って整理し、特定の目的に利用できる形に体系化したものである。いわゆる「ノウハウ」がこれにあたる。「知恵」とは、知識をベースにして、未知・未来の状況に普遍的に対応できるような蓄積である。

 「実は現場の先生でも、これら全部を『情報』として捉えるケースが多い。自分が今扱っているのが、『データ』なのか『情報』なのか。見方を変えることで、段階が変わるんですね。今手元にやってきたものはなんなのか、どう見るかをきちんと子どもに経験させることが大事なんです」(市川氏)

反応しない子どもたち

 これら情報の階層は、普段我々が目にしているテキストでもあり得る。ネットのテキストは「情報」と言われているが、そこから何が読み取れるかで知識となり、知恵となり得る。また「情報」になりきれていない「データ」のようなものも存在する。こういうことをもっと早くに学べたら、社会人になってビジネス書をとっかえひっかえしながら、データマイニングやナレッジマネジメントなどというキーワードを必死に追いかける必要はなかっただろう。しかも手で触れる教材で、モノづくりの基本から学べるわけである。

 「僕の心情を言うと、こういう教材に興味を示さない子どもはいないと思うんですよ。人間は身の回りの不自由なことを、なんとかならないかと解決して、ここまで生活を豊かにしてきた。作るのが人間の本能、欲望みたいなものなんです。ところが現実問題として、こういうものに興味を示さない子が多い、むしろそういう子のほうがメジャーになってしまっているんですね。だから心配だし、問題なんです」(市川氏)

 一体何がそうさせてしまったのだろうか。テレビ? ゲーム? おそらく今の論調では、やはりネットやケータイのせいになってしまうのだろう。市川先生は、ずっと前に問題は根深くなっていて、それに気づかないままネットの時代になってしまったのではないかと指摘する。

 優秀な筑波大学附属駒場中・高の生徒にも、飛び抜けてコンピュータの知識がある一部の生徒と、その他の生徒の差が開きつつあるという。多くの生徒は平均的なことしかできないどころではなく、興味も関心もなく、できれば避けて通りたい、「コンピュータに深入りしてそれが将来役に立つのか?」と思っている。

 「今は『これからの世代、情報教育は不可欠である』という定義ですが、これに対しても疑問を持った方がいいのかもしれませんね。『本当にそうなの?』という。もしこの懸念が当たってるとすると、今のこの子どもたちの状況も説明が付くのではないでしょうか」(市川氏)

 情報が「正しく利活用」できれば、原理原則は知らなくていいのか。次々に現われる情報を右に左に捌いていくだけで、子どもたちから創る力が失われているとしたら、日本の未来は暗い。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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