前回まで、デジタルアーツが公開した実態調査資料に基づいて、子どもとスマートフォンの関係を考えてきた。今回からはその中でも、急速に利用者を増やしているコミュニケーションプラットフォームについて少し整理してみたい。
筆者およびMIAUが青少年のネット利用に関してコミットしはじめた2008年頃は、もっぱらケータイの「プロフ」が問題視されていた。いわゆる「出会い系」として機能しているという点である。これも2010年頃にはブームが過ぎ、その代わりに過去問題だった「学校裏サイト」が再び問題として浮上してくるといった現象も見られた。
もしかすると3年程度でサービスに浮沈があるのは、中学、高校が三年制であることと何か関係があるかもしれないが、これはまだ個人的な推測の域を出ていない。
さて、現在保護者の間で懸念されている子どものスマートフォン利用は、ハードウェアの移行に伴う構造変化で、これは近年まれに見る大きなプラットフォームチェンジだ。これを機会に、これまでの問題点とは性質の違ったものが次々に起こってくると思われる。その1つがソーシャルゲームであり、もう1つは個人ベースのコミュニケーションプラットフォームである。中でもネイバージャパンの「LINE」は、世界231カ国で登録ユーザー数5200万人突破という規模で、拡大し続けている。さらに日本国内ユーザーが約2400万人と、事実上日本のユーザーがベースになっているという点も特徴的である。
一見ものすごい数に見えるが、大手ソーシャルメディアと比較すると、そう多い数字でもない。Facebookの公称8.5億人、Twitterの5億人と比べると、登録者数ベースでもまだ十分の一程度である。ただ成長スピードが著しく、5000万人獲得までにかかった日数は、399日。そういう見方では、Twitterは1096日、Facebookは1325日かかっており、いかに急激にユーザーを増やしているかが分かる。
ただ、LINEは個人対個人をつなぐためのプラットフォームであるため、SNSと同じくくりで語るのはおそらく正しくないだろう。いずれにしても、新しい対個人コミュニケーションの巨大プラットフォームが登場したという認識で間違いない。
LINEが何なのか、どういうサービスなのかというのは、実はそれほどわかりやすくはないのが実情だ。一般的にはSkypeやWindows Live Messengerのような、インターネット経由で通話とチャットができるプラットフォームだと説明されているが、それだけではこれほどまでに急激に成長した理由の説明にはならない。
これに関してはすでに諸説あるが、筆者が考えるところでは、導入から実際の運用開始までのハードルの低さがあるようだ。例えばSkypeやWindows Live Messengerを使い始めたとき、あなたはどうやって知り合いを見つけただろうか。まずアカウントを作った時点では、友だち、知り合いはゼロだったはずである。
連絡を取りたい人からIDを教えてもらったり、名前やメールアドレスで探したりして友だちを見つけ、友だち申請などの行為を経て、少しずつ人間関係を広げていったはずだ。おそらくまた新しいプラットフォームが現われれば、また友だちを探すところから始めなければならない。何度もプラットフォームの乗り換えを経験した人なら、うんざりすることだろう。
LINEがこの点で大きく違うところは、個人の電話機内に保存してあるアドレス帳の電話番号を使い、自動的に友だち認証を行なうところである。したがって、アドレス帳データの利用を許諾すれば、あなたのアドレス帳の中でLINEを使っている人が、すぐに友だちとしてLINEの中に現われる。
この根拠は、「アドレス帳に電話番号があるような人はきっと友だち」という、ある意味、非常にデリケートなところに踏み込んできたサービスだと言える。まあ子どもであれば、電話番号まで知っている関係は友だちぐらいしかいないだろうから、それで済むかもしれない。
しかし大人のアドレス帳には仕事の取引先も載っているだろうし、そんなに好きじゃないけどかかってきたのが分かるようにアドレス帳に登録している微妙な相手もいるだろう。そういう関係の人も、LINEを使い始めると、ガバッと友だち状態になる可能性がある。
この、電話番号ベースで友だち関係が決定するシステムであるところに、さまざまな火種が内包されていると言える。次回から順を追って、LINEのシステムがどうなっているのかを見ていこう。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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