既存キャリアの料金プランが硬直化しているのは、音声通話についても同様だ。ここに目をつけたのが、楽天グループのフュージョン・コミュニケーションズ。同社の代表取締役社長 相木孝仁氏が「LTEでは、30秒21円のプランしか選ぶことができなくなっている。フィーチャーフォンでは、基本料に無料通話も含まれていた」と指摘するように、通話の多いユーザーは、LTEスマートフォンに変えると料金が割高になる。3Gでは、通話の量に合わせたプランを選択できたが、LTEへ移行するにあたってそれがなくなってしまった。auとソフトバンクには通話料を半額にするオプションがあるが、基本使用料と同額の料金が毎月かかってしまう。
こうしたキャリアの料金プランに対し、フュージョンの「楽天でんわ」は、30秒10.5円という料金を打ち出した。基本使用料はかからず、利用しなければ料金は発生しない。仕組みは固定電話の「マイライン」に近く、フュージョンの設備を経由させ、その電話を発信先に転送するというものだ。プレフィックス番号を電話番号の頭に付けると、こうしたことが可能になる。
このサービスは「フュージョンと各電話会社の相互接続協定に基づき、着信呼を転送することで成り立っている。アクセスチャージもお支払している」(相木氏)という。ビジネスモデルはシンプルで、相木氏は「接続料は大体30秒で2円。(発信側と着信側の両方に支払いがある)我々は、10円いただいて4円支払っている」と明かしている。
ただ、プレフィックスの設定はフィーチャーフォンだと分かりにくく、そもそもユーザーに概念を伝えにくい。スマートフォンの場合、こうした問題をアプリで解決できる。「アプリを入れて電話すれば通話料が安くなる」という見せ方が可能になったわけだ。
この仕組みを使う場合、IP電話とは異なり通話は回線交換で行うことになる。「スマートフォンの契約を変更することなく、そのまま楽天でんわを使える」(相木氏)うえに、「インターネット回線より安定した品質を提供できる」(同)のは、ユーザーにとって大きなメリットといえるだろう。
同様の仕組みを採用したサービスに、「G-Call」や「やすてる」などがある。また、フュージョン自身も、法人向けに「フュージョン・モバイルチョイス」を提供している。G-Callは楽天でんわと同様、基本使用料がかからず、料金自体にも大きな差はない。こうしたライバルとの差別化には“楽天”ブランドを生かしていく方針だ。会見で、相木氏は次のように語っている。
「大々的に楽天のブランドを打ち出し、8000万のユーザーに向けていくのが大きな違い。会員とのシナジーがあるサービスを作り上げたい」
楽天でんわには、楽天スーパーポイントを利用できる。また、「100円につき1ポイントを還元する」(相木氏)というように、通話することで楽天スーパーポイントがたまる仕組みも用意した。
万能に見えるサービスだが、利用にあたっては注意したい点もある。まず、国際電話や国際ローミング中の利用、緊急通話には非対応となる。楽天でんわは、フュージョンの設備を経由するため、キャリアが提供する同一キャリア間の通話が無料になる特典も受けられない。
例えば、ソフトバンクのホワイトプランを使っているユーザーが1時から21時の間に、同じソフトバンクのユーザーに電話する場合、楽天でんわを経由すると本来払う必要のなかった料金がかかってしまう。アプリ側に、指定した人への発信にキャリアの回線を使う設定がある。ここに同一キャリアのユーザーを登録しておけば、契約キャリアの回線で発信し、通話無料が適用される。
仕組みをきちんと理解して使えば得になるというのは、先に挙げたMVNOの特徴とも共通している。こうしたサービスが、キャリアの音声通話にどの程度影響を与えるのかは未知数だが、ユーザー数の多い楽天グループが始めたことで反響を呼びそうだ。
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