世界の変化はいつもここから――WWDC 2015で見えた「ユーザー体験の高み」と「新たなエコシステムの芽生え」神尾寿のMobile+Views(1/4 ページ)

» 2015年06月09日 20時41分 公開
[神尾寿ITmedia]

 シンプルで力強く。

 Apple World Wide Developers Conference(WWDC)では、世界中に集まった開発者に対して、いつもひとつのフレーズが投げかけられる。これは開催前から会場内で確認することができ、Apple CEO(最高経営責任者)であるティム・クック氏のキーノートが始まるその瞬間まで、人々はその意味に思いをはせることになる。そして、スピーチの終わりとともに深く胸に刻まれるのだ。

 The epicenter of change.

 2015年、テーマとして掲げられていたのはこの言葉だった。直訳すれば「変化の震源地」。極めてシンプルで核心的なフレーズに、世界中の開発者とメディア関係者の心がつかまれる。

 WWDC 2015。世界中のイノベーションとテクノロジーの「震源地」となったこの場所で、何が指し示されるのか。キーノートを中心にリポートしていきたい。

photo Apple CEOのティム・クック氏

市場拡大に伴い、盛りあがるWWDC

 6月8日 (現地時間)、サンフランシスコ。その中心街にあるモスコーン・センターに、2015年もまた約6000人以上の開発者が詰めかけた。Appleが未来を語り、開発者同士が情報交換と交流をするWWDCへの参加は、近年ずっと“プラチナチケット”状態だ。ここ数年は抽選制を導入し、新たな開発者にも広く門戸を開くようにしている。2015年は70カ国から開発者が集まり、そのうち80%が初めてWWDCに参加する開発者たちである。

photo 毎年WWDCの会場となるサンフランシスコのモスコーン・センター

 また、新たな取り組みとして「奨学制度として、350人の学生アプリ開発者をWWDCに招待した」(ティム・クック氏)という。ベテランの開発者層が充実する一方で、新参や学生の開発者を積極的に支援し、ソフトウェア開発者層全体の“若返り”を図る。WWDCの現状やAppleの取り組みを見れば、iOSやOS Xのアプリ市場がなぜ先進的かつ良質なのかが分かるだろう。

photo 年々規模が拡大するWWDC。抽選制が導入されて以降は、WWDC初参加の開発者が過半を占めるようになっている。また学生も招へいし、開発者の若返りにも積極的だ

 アプリ市場全体も活況だ。今回のキーノートでは、App Storeでのダウンロード件数が立ち上げから7年で累計1000億本を超え、開発者に支払われた売上総額が300億ドルを突破したと公表された。

 そして今回のWWDCでは、最初に大きく3つのOSが掲げられた。MacbookやiMacなどPC向けの「OS X」、iPhone/iPad向けの「iOS」、Apple Watch向けの「watchOS」である。

photo 今回は「OS X」「iOS」「watchOS」という3つのOSにフォーカス。どれも2015年秋にメジャーバージョンアップする予定だ

 Appleではここ数年をかけて、Mac向けのOS Xと、iPhone/iPad向けのiOSの親和性を高め、開発の足並みをそろえてきた。それが奏効し、Appleの3つのOSは、ほぼ同時期となる今秋にメジャーバージョンアップする運びとなった。

堅実に使いやすく――OS X「El Capitan」のすごみ

 それでは個々のOSについて見ていこう。

 最初に紹介されたのは、Mac向けOS Xの新バージョン「El Capitan」である。OS Xは2013年から猫科の名称をやめて、カリフォルニア州の地名にちなんだものになっている。Apple ソフトウェアエンジニアリング担当 シニアバイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏は新しい名称を探すために行ったさまざまな取り組み(ジョーク)を写真で紹介して会場内を爆笑の渦に包んだ後に、今回はヨセミテ公園にあるロッククライミングの名所「El Capitan」を新たな名称にすると発表した。

photo OS Xは「El Capitan」と命名された。

 このEl Capitanの特徴は、極めてシンプルだ。

 注力されたのは「ユーザー体験(Experience)」と「性能(Performance)」の向上。Appleでは現行バージョンである「Yosemite」まで、デザインと機能・サービスをiOSと統合する取り組みをしてきた。それが一段落し、OSとしての本質的な進化を図った形である。

photo El Capitanで取り組まれたのは、「ユーザー体験」と「性能」の向上という本質的なものだ

 そして、この本質的な進化は、OS Xの魅力を大きく底上げするものになりそうだ。とりわけユーザー体験の進化・向上では、YosemiteでUIデザインとしてはひとつの完成を見たと思っていた筆者が、「そんなアプローチがまだあったのか!!」と舌を巻くものばかりだった。

 その筆頭に来るのが、新たな画面管理方式の「スプリット・ビュー」だろう。OS Xでは以前から1画面に複数のアプリウィンドウを表示するウィンドウ表示に加えて、1つのアプリを画面全体に表示するフルスクリーン表示を強化していた。スプリット・ビューはこのフルスクリーン表示をさらに進化させたもので、“フルスクリーン化したふたつのアプリを1画面に表示する”ことができる。マルチウィンドウ表示に戻すのではなく、あくまでフルスクリーン表示のまま画面分割するため、表示領域は2つのアプリウィンドウを並べるよりも広くなる。また表示サイズを手動でいちいち調整する必要がないのも便利そうだ。

photo スプリット・ビューではフルスクリーンでの2画面表示に対応した

 Webブラウザの「Safari」やメールソフトの「Mail」など、ユーザーが日常的に使うアプリも使いやすく進化する。

 Safariでは、Webサイトのタブ表示をさらに小さく表示する「ピン表示」を導入。ピン化したWebサイトもバックグラウンドで情報更新が行われるので、FacebookやTwitterなどSNSサイトを表示するのにピン化は重宝するだろう。

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photo 「Safari」で導入されたピン表示。タブより表示面積が小さい上に、バックグラウンドできちんと情報更新されている。SNSの利用に便利だ

 Mailはメール管理でiOSライクなスワイプ操作に対応したほか、フルスクリーン表示した状態でのメール作成画面で、作成中のメールを一時的に隠して受信メールを確認したり、タブ表示で複数のメールを同時並行で作成したりできるようになった。これにより、フルスクリーン状態でのMailの使い勝手が、かなりよくなりそうだ。

 このほかにも、Spotlightが大幅に機能強化されて、単純なキーワード検索だけでなく、自然言語でさまざまなコンテンツと連携して適切な検索結果を表示できるようになるという。日本語環境でこのSpotlight機能の強化がどこまで適用されるかは今のところ不分明だが、どこまで賢くなるか、製品版に期待したい。

 一方、性能向上の部分では、アプリケーションの起動速度が最大1.4倍、アプリケーションの切り替えが最大2倍、最初のEメール表示速度が最大2倍、PDFプレビュー時の速度が最大4倍と、着実に高速化される。しかも、これらは新OSのEl Capitanをインストールするだけで実現されるのだ。

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photo El CapitanではOS全体でのハードウェアへの最適化が進み、実効速度が大きく向上するという。バージョンアップするだけで高速化するというのは、Appleならでは

 先述のとおり、El Capitanは「基本機能の着実な向上」に重きが置かれている。派手な新機能・新サービスがないので地味に見えるのだが、会場内で行われたデモンストレーションでは、ひとつひとつの動作に会場からどよめきが起こるほど洗練されたものだった。El Capitanによって、「使いやすさと使い心地のよさ」というPC市場におけるMacの優位性がさらに増すことは間違いないだろう。

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