7月15日から7月17日にかけて、中国・上海でMobile World Congress(MWC)のアジア版といえるMobile World Congress Shanghai(MWC上海)が開催された。グローバルを対象にした本家MWCより規模ははるかに小さいものの、アジア各国からキャリア、メーカーのCEOが集結しており、特に通信分野についてはキーノートスピーチなどのイベントを通じて、幅広い議論が交わされていた。
また、MWC上海に合わせて、会場内ではサブイベントのMVNO Summitが開催された。日本からはIIJのネットワーク本部 技術企画室の佐々木太志氏が登壇。日本のMVNOビジネスや、同社の目指す姿が語られた。これらのイベントを通じて見えてきたのが、MNO、MVNOがそれぞれの将来像だ。
MWC上海では、初日の7月14日に「モバイルの未来」と題した基調講演が行われた。ここには、ドコモの代表取締役社長 加藤薫氏のほか、中国移動、Telenor、Telstraといった世界を代表するキャリアのCEOが集い、4G普及後に目指す世界を聴衆にアピールしていた。各社とも置かれている状況が異なるため、講演の詳細も異なっていたが、共通していたのは他社との協業によって、モバイルの領域をさらに拡大していくということだ。
例えば、中国移動の会長、シー・グオホワ(奚国華)氏は、「これからのインターネットは産業のインターネットの時代に入りつつある」としながら、次のように語っている。
「キャリアの強みは通信能力。もう1つが、データのリソースを蓄積してきたことで、これこそがコアになる。2つを踏まえて、オープンな力を生かす。キャリアだけではなく、社会にある核となる事業者の発展を促す」
中国では、政府が「インターネットプラス」という概念を打ち出しており、モバイルをさまざまな分野に広げていく。M2M(マシン・トゥ・マシン)やIoT(モノのインターネット)と呼ばれる分野も、ここに当てはまる。中国移動と同様、TelenorのCEO、ジョン・フレドリック・バクサース氏も、上位レイヤーのサービス解説に時間を割いた。バクサース氏は、キャリアによる金融サービスや、GSMAが進めている「モバイルコネクト」という認証の仕組みを紹介しつつ、「音声からデータの時代に入った」と語っている。
背景には、「(キャリアの)従来のビジネスが衰退しつつある」(シー氏)という危機感がある。シー氏によると、「音声通話とショートメッセージは15〜20%、下がり続けている」そうで、データサービスからのサービスも安泰ではない。そのため、デジタルサービスを提供して、収益を確保していくというのが中国移動の方針だ。
こうした状況を先取りして、すでに事例を蓄積してきたのが、ドコモだ。基調講演では、加藤氏が「dマーケット」に加え、2015年度に新たに打ち出した「+d」の事例を次々と紹介。ローソンとの提携やタカラトミーと共同開発したロボットの「OHaNAS」、IoT分野でのGEとの協同など、幅広い取り組みを紹介した。世界各国のキャリア関係者が多いGSMAのイベントだけに、関係者の関心は高かったようだ。真剣にメモを取る聴衆も多く、講演終了時には大きな拍手が起こった。
誤解を恐れず言えば、「dマーケット」や「+d」の取り組みは、日本のユーザーにとって、そこまで目新しいものではない。キャリアが手がけるコンテンツプラットフォームという意味では、iモードがすでにあり、KDDIなどはフィーチャーフォン時代から自前のコンテンツの整備に力を入れていた。
+dについては「決済、支払いなどのプラットフォームを通して、パートナーが多くのサービスを提供することができる」(加藤氏)という点は新しいかもしれないが、提携など他社と手を組んでサービスを提供することは以前から行っていた。むしろ、+dはこうした一連の取り組みをブランド化して、改めてドコモの戦略として整理する動きといえる。一方で、これが海外キャリアには目新しい成功事例に見えるということだろう。
スマートフォン時代に入り、LTEの普及も世界各国で進んでいる。日本のキャリアが独自のプラットフォームを持ち、通信についても3Gで先行していたころとは異なり、世界との距離も近くなった。だからこそ、各国のキャリアの悩みや、打ち出す戦略が似てくるのかもしれない。
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