IIJ(インターネットイニシアティブ)が6月29日に、メディア向けにMVNOに関する勉強会を開催。ネットワーク本部 技術企画室の佐々木大志氏が、格安SIMの仕組みやMVNOの必要性について説明した。
MVNOとは「Mobile Virtual Network Operator」略で、日本語では「仮想移動体通信事業者」を意味すること、基地局を運営することなく、MNO(Mobile Network Operator、大手キャリア)からネットワークの貸出を受けて携帯事業を展開する――といった基本事項を、佐々木氏はまず説明。無線基地局、交換機、ゲートウェイはMNOから借り、MVNOはサーバなどを運用する。
MNOの通信サービスをMVNOが契約をする「卸電気通信役務」の場合、MVNOの料金プランはMNOとほぼ同等になるが、MVNOとMNOが「相互接続」(レイヤー2接続ともいう)をすることで、より付加価値の高い料金プランを提供できる。付加価値というのは「安さ」もそうだが、「独自色の高さ」も含まれる。
例えばIIJでは、クーポンをオン/オフにすることで、高速/低速の通信を切り替えられる、MNOにはない仕組みを導入している。これは、独自の交換機と速度制御用サーバを構築していることで実現している。IIJの交換機は速度管理用サーバ、クーポン管理用サーバとつながっており、これらのサーバは顧客管理サーバとつながっている。「みおぽん」アプリでクーポンをオン/オフにすると、顧客管理サーバに命令が飛んで即対応できることに加え、各ユーザーがどれほどクーポンを使ったのか、現在高速通信をしているのかなどもリアルタイムに把握できる。
ちなみにMVNOでは、SIMカードも電気通信設備の一部として扱われる。SIMカードはMNOが貸し与えるもので、MVNOがSIMカードを発行することはできない。
MVNOが提供する「格安SIM」のサービスは、料金の安さがよく取り沙汰される。例えばIIJmioの音声付きサービス「みおふぉん」の「ミニマムスタートプラン」は、月額1600円(税別、以下同)で3Gバイトまでの通信が可能だが、通信キャリアの同等プランは、月額6500円(月2Gバイトまで)と約4倍の差がある。では、なぜMVNOのサービスは安いのか?
佐々木氏は、まずMVNOは機能がシンプルであることを安さの理由に挙げる。パケット通信と音声通話サービスはMVNOでも提供しているが、キャリアメールや通話の定額サービス、おサイフケータイをはじめとする決済サービスなどは提供していない。端末事業もMNOの方がはるかに力を入れている。
もう1つが販売コスト。MNOは全国津々浦々に店舗を構えており、テレビCMも毎日のように投下しているが、MVNOはリアル店舗数が少なく、オンラインの「通販型」モデルが主流だ。宣伝もMNOほどではない。通信キャリアの料金が相対的に高く見えるのは「いろいろな付加価値を含めているため」(佐々木氏)。
もちろんMVNOは、無料でMNOの設備を利用しているわけではなく、「接続料」という形でネットワーク原価をMNOへ支払っているが、MNOの設備投資にかかるコストは年間で数千億円にも上り、MVNOが支払う接続料とはケタが違う。MNOが投資をしてきたネットワークにMVNOが相乗りさせてもらっている、ともいえるが、佐々木氏はMVNOもMNOとは違う分野に投資をすべきだと考える。
「ドコモさんはキャリアアグリゲーションや5Gなどへ積極的に投資をしている。今のMVNOの仕組みでは、キャリア(MNO)の後追いになっているところはあるが、キャリアにない視点のサービスも当然入ってくると思う。我々が積極的に5Gを推すことはあり得ないが、投資すべき分野は、キャリアとは違うところに存在している。未来に対する投資を怠ったところに未来はないと思う」(佐々木氏)
佐々木氏は「MVNOは、MNOとお客さんの間に入って、それぞれからお金をもらって、キャリアにお金を支払う、事実上の中間事業者。MNO間の競争が十分であり、多様かつ競争的な料金が実現するのなら、中間事業者のMVNOは存在しない方が合理的」と話す。
しかしMNO間の競争が十分でないのは、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの料金プランを見ても分かる。電波は有限のため多数の事業者に割り当てると細切れになってしまい、たくさんの帯域を必要とする高速通信サービスを提供できなくなってしまう。一方で少数の事業者しか存在しないと「協調的寡占が起き、暗黙のうちに事業者間で競争の抑制が働く」(佐々木氏)。
そこで誕生したのがMVNO。MVNOが多様なサービスを提供してユーザーの利便性を向上させることで、MNO間の協調的寡占を打破することが期待されており、総務省もMVNO政策を推進している。
また、MNOが端末からサービス、プラットフォームまでを独占的に提供する「垂直統合」から、各分野でそれぞれのプレーヤーがしのぎを削る「水平分業」へとビジネスモデルが変化していることも、MVNOにとって追い風になっている、と佐々木氏はみる。2014年にはiPhone 6/6 PlusのSIMロックフリーモデルが3キャリア版と同時に発売されたほか、SIMロックフリー端末も続々と発売され、格安SIMが使える端末が増えた。さまざまな外的要因が、格安SIMの普及を後押ししているともいえる。
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