3月9日に開催されたFREETEL(プラスワン・マーケティング)の発表会では、新製品、新サービスが相次いで発表された。新製品としては、表と裏にそれぞれディスプレイを搭載した折りたたみスマートフォンの「MUSASHI」が発表された。通信サービスについては、部分定額を実現する「FREETELでんわ」や、メッセンジャーサービスの通信を無料にする施策が披露されている。※本稿の価格はいずれも税別。
通信という観点で最もインパクトが大きかったのが、FREETEL SIMで、メッセンジャーの通信を、通信量としてカウントしないという発表だろう。もともとFREETELは、段階制で料金が上がっていく仕組みを採用している。料金は100MBまでが299円、1GBまでが499円、3GBまでが900円、5GBまでが1520円、8GBまでが2140円で、10GBに達すると、2470円で高速通信が打ち止めになる。容量超過後は、200kbpsに速度が制限される仕様だ。音声通話対応のSIMカードはプラス700円、SMS対応SIMはプラス140円の上乗せとなる。
このデータ容量から、メッセンジャーサービスの一部の通信を除外するというのが、FREETELの新たなサービスだ。対象となるアプリはLINE、WhatsApp、WeChatの3種類。それぞれ、テキストメッセージとスタンプ(絵文字)に加え、画像が無料通信の対象となる。動画や音声メッセージ、IP電話サービスなどは非対応。メッセンジャーサービスの中の、比較的データ容量が小さなものだけが、無料の対象になるというわけだ。
ユーザーにとっては、データ容量の節約につながり、結果として料金を安く抑えることが可能になる。例えば、もともと3.5GBを使っていた人が、LINE分の600MBが引かれ、2.9GBになったとしよう。この場合、料金は1520円から900円に下がる格好だ。プラスワン・マーケティングで通信事業を担当する、取締役の藤田聡敏氏によると、「多い方は数GB使う」ため、節約効果はより大きくなるかもしれない。
一方で、画像を除けば、データの量はそれほど多くない。仮に月5GB程度使っている人が数100MB引かれても、料金はまったく変わらないことになる。恩恵を受けられるのは、LINEなどのサービスをある程度ヘビーに使っていて、画像などを頻繁にやりとりするユーザーということになりそうだ。
では、なぜFREETELは、このようなサービスの提供に踏み切ったのか。プラスワン・マーケティングの代表取締役社長 増田薫氏は、このサービスを提供した目的を、次のように語っている。
「そもそも、通信とは何のためにあるのか。利用目的があるからインターネットを使っている。目的に合ったプランを(われわれが)提供する、それが新しいSIMの売り方。世界的に、1GBいくら、2GBいくらとなっているが、絶対に違うと思う」
ユーザーには、通信の目的がある。それに合わせて、料金を抑えられる仕組みを作っていくというのが、FREETELの戦略だ。メッセンジャーサービス以前に、同社はApp Storeとの通信が無料になる「FREETEL SIM for iPhone/iPad」を導入している。今回の施策は、それをメッセンジャーサービスに拡大し、対象となるSIMカードも広げたという位置付けだ。
現時点では、対象となるアプリは、上記のLINE、WhatsApp、WeChatに限定されているが、同社では拡大も検討しているという。増田氏が「これで終わりではない。第3弾、第4弾と拡充していきたい」と述べているように、さらなる施策も検討しているようだ。コンテンツプロバイダー側からの提案にも、「喜んで話を聞く」と前向きな姿勢を示している。
LINEなどのメッセージサービスを無料にする施策は、発表日の3月9日に開始。新規ユーザーだけでなく、既にFREETEL SIMを契約しているユーザーも、自動的に対象になっている。
同様のサービスを提供しているのは、FREETELだけではない。例えば、J:COMが始めた「J:COM MOBILE」は、同社の動画サービスの通信を無料にして、話題を集めた。ケーブルテレビの延長としてモバイルを提供し、外出先で映像を見てほしいというのが、J:COMの狙いだ。同様に、NTTコミュニケーションズの「OCN モバイル ONE」も、自社サービスと連携。IP電話サービスの「050 Plus」や、オンラインストレージサービスの「マイポケット」などとの通信をカウントしない施策を行っている。
MVNOの競争はまず料金で起こったが、現状でも3GBで900円前後が相場になっており、値下げは限界を迎えつつある。また、「格安SIMブーム」もあって参入が相次ぎ、差別化が難しくなっている。こうした中、サービスを手掛けてきたMVNOが、通信と連動させる手として、「通信量をカウントしない」施策を打ち出してきた。FREETELの場合、もともとが端末メーカーであったため、App StoreやLINE、WhatsApp、WeChatなど、無料の対象が他社のアプリだが、主流となっているのは自社サービスとの連携といえる。
コンテンツ事業者がMVNOに参入する際にも、こうした施策を導入する可能性がある。例えば、AmazonがKindleの通信料を無料で提供したのも、そのいち形態といえるだろう。海外では先行事例もあり、メッセージアプリの通信だけを安価に提供する「ChatSIM」のようなサービスも存在する。
米国では、T-Mobileが音楽や動画のストリーミングを無料にする「Music Freedom」や「Binge On」といったサービスを提供している。動画の場合、画質はある程度制限されるものの、対象となるサービスも広く、HuluやNetflixといった大手ストリーミング事業者もこの枠組みの中に入っており、ユーザーに大きな衝撃を与えた。
動画はもちろん、Apple MusicやGoogle Play Musicなど、オンラインを前提にした音楽サービスも広がりを見せている中、それを利用するためのデータ通信容量が足りなくなるという不満は、日本でも健在化している。大手3キャリアがこの春に導入した学割も、そうしたサービスのヘビーユーザーである若年層の不満に応えたものだ。こうしたサービスの通信そのものを無料にしてしまうというサービスがもし登場すれば、人気を博すことになるかもしれない。
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