BUILDの基調講演では、Windows 8のアプリケーション実行環境のブロックダイアグラムが初めて公開された。基本となるWindows Kernel ServiceがWindows 8でも存在する一方で、その上では従来のデスクトップアプリケーションを動作させる“Win32”や“.NET”などのAPIとは別に、「Metroスタイル」と呼ばれる新しい世代のアプリケーションを動作させる専用のランタイム環境「WinRT」を用意する。
すでに掲載している「Windows 8速攻レビュー」でも触れたように、WinRTの開発言語は既存のC、C++、C#、VBに加え、いま話題のHTML5+CSS+JavaScriptまで、好きな言語を選択できる。「新しい開発モデルを覚える」といった作業は必要だが、既存の知識を生かしてそのままWinRTを利用するアプリケーションを作れるのは、開発者に向けた強みだ。
問題は、WinRTの存在が多くの一般ユーザーにとって何を意味するのか、だ。まず、既存のアプリケーション実行環境とWinRTという新しいランタイム環境が併存することで、既存のアプリケーション資産はほぼそのまま継承できる。シノフスキー氏が強調するように「Windows 7で動くものはWindows 8でも動く」ことが原則とされている。しかし、Adobe PhotoshopやMicrosoft Officeのように、Metroといった新しいタイプのUIに向いていないアプリケーションも存在する。
基調講演では、Microsoft Officeについて言及しなかったが、Adobe Photoshopについては、マウスやキーボードショートカットなど細かい操作を要求するので、必ずしもタッチ操作には向いていないとシノフスキー氏も認めている。だが、今後登場する多くのアプリケーションは、WinRTで実行することを想定したMetroスタイルに移行していくとみられ、Windows 8のリリース後に順次増えていくと思われる。
AppleがiOSデバイス向けにApp Storeを、Mac向けにMac App Storeを提供しているように、GoogleはAndroidデバイス向けにAndroid Marketを提供している。そして、MicrosoftもWindows Phone向けにMarketplaceを1年前から開始している。今回、Windows 8でもアプリケーションのダウンロード販売を前提とした専用のアプリストア環境を提供する。このアプリストアの名称について、基調講演では何度も「Windows Store」と呼んでいる。正式な名称は明らかにしていないものの、おそらく最終的にこのままでいく可能性が高い。Windows Storeは、開発ツールのVisual Studio 11と連携していて、開発したアプリケーションをパッケージ化してそのままストア登録の審査申し込みまで行えるようになっている。
Windows Storeの特徴には、「無料試用期間」の設定項目があることと、審査プロセスが可視化されている点が挙げられる。AppleのApp Storeでは、その審査基準についてたびたび不透明さや不公平さが指摘されていたが、Windows Storeでは審査がどのように行われているかを逐次確認できるだけでなく、問題があった場合は開発者にフィードバックする仕組みまで用意している。問題がなければ申請から最短1日でストアに登録できる。
ユーザーは、Windows 8上に存在する「Store」タイルをクリックすることで、Windows Storeが利用できる。ただ、開発者向けに配布された評価機材では、「Store」が動作せず「Coming Soon」と表示されていた。Microsoftによれば「このWindows Storeを作るのは開発者のみなさんの力にかかっている」と、現時点でオープンしていない理由を説明しているが、実際には、デザインを含めて、まだ確定していない部分が残っている可能性もある。Windows Storeは、Metroスタイルのアプリケーション以外に、従来型のデスクトップアプリケーションの登録も可能だという。「何Gバイトもするアプリケーションがオンラインに登録できるのか?」といった問題はあるが、このあたりはこれから具体的に説明されていくことだろう。
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