この高品位な液晶ディスプレイの魅力をさらに高めているのが、タッチパネルとペン入力への対応だ。10点同時のマルチタッチに対応した静電容量式タッチパネルを内蔵していることに加えて、256段階の筆圧検知が可能な電磁誘導式デジタイザスタイラスによるペン入力も行える(ペン自体は電磁誘導式のものを使っているが、電磁誘導で電力供給をしておらず、電波でペンの座標を認識しているため、正確には電磁誘導で駆動しているわけではない/2012年10月31日17時追記)。
指でのタッチ操作とペン入力の使い勝手を両立するため、液晶ディスプレイの強化ガラス表面にはコーティングが施されている。例えば、指の滑りやすさを重視し過ぎると、ペンも滑りすぎて書き味が悪くなることから、どちらも使いやすいような触感のバランスに仕上げたという。
実際に手で画面に触れてみると、しっとりとした触感ながら指がつかえる印象がなく、かなりスムーズに滑られることができる。1本指での上下/左右スクロールや、2本指を開いたりつまんだりすることでの拡大/縮小といった、タブレットデバイスではおなじみのタッチ操作もWindows 8スタイルで快適にこなせる。
指の操作と画面の追従性は良好で違和感がなく、画面の右端から内側に向かって指を滑らせるチャームなど、Windows 8独特の操作もやりやすい。Windowsストアアプリ版のIE10でWebブラウズした際の慣性スクロールもイメージに近い動きだ。もちろん、デスクトップのUIでもタッチ操作は可能だが、特にWindows 8スタイルでのマルチタッチ操作は軽快に行え、キーボードを収納したタブレットモードの利用価値を高めている。
さらに純正アクセサリの液晶保護シートを貼り付けると、表面がサラサラとした触感に変わり、指をより心地よく滑らせることができるのに加えて、ペン入力での抵抗が高まるため、ペンが滑りにくくなり、より紙に近い書き味が得られる。輝度や発色の面では不利な液晶保護シートだが、外光の反射や映り込みを抑えつつ、画面を傷や汚れから守り、しかもタッチ操作やペン入力がしやすくなるため、メリットは大きい。
ペン入力の使い勝手も満足できるレベルにある。付属のデジタイザスタイラスを画面から約5ミリの距離まで近づけると、画面上にペン入力用の小さいポインタが表示され、指でのマルチタッチモードからペンモードに入力が自動で切り替わる。
この状態では手の入力を受け付けないため、手のひらを画面に載せてペンで文字や図形を書いても、手が触れている部分にも線が描かれるような誤動作は発生しない(ペン先を近づけるより先に手のひらを画面に載せてしまうと、当然反応してしまうが)。再びペンを画面上から離せば、即座に指でのマルチタッチ操作が可能になり、ユーザーが指でのマルチタッチとペン入力の切り替えを意識することなく、自然に併用できるのは便利だ。
デジタイザスタイラスは長さが117ミリ、直径が9.5ミリ、重量が電池込みで約15グラム(キャップをつけた状態での実測値は、長さが127ミリ、重量が約18グラム)と、コンパクトながら金属製でしっかりした存在感があり、本体のデザインとよくなじむ。
チープな質感のペンでは常用する気もそがれるが、指紋のつきにくいマット調のメタルボディはなかなかの高級感で、ちょっといいボールペンのような感覚で愛用できそうだ。ペン入力は256段階の筆圧検知に対応しており、電源として、日本ではあまり使われない単6形電池1本を採用している。単6形アルカリ乾電池を使用した場合、公称の電池寿命は約18カ月だ(1日4時間で週7日使用した目安)。
難点は本体側にデジタイザスタイラスを収納したり、ストラップを付けて装着するような機構がないことだが、レビューの前編で紹介した通り、純正アクセサリのシートバッテリーやキャリングケースには専用の収納機構が設けられているため、ペン入力を多用するユーザーはそれらも検討するといいだろう。
デジタイザスタイラスには硬さが異なるペン先が2種類付属しており、ブラックが硬め、グレーが柔らかめになっている。ペン先は手でつまんで簡単に着脱できる仕組みだ。ちなみに純正アクセサリとして付属品と同じデジタイザスタイラス「VGP-STD1/B」を購入することもできるが、こちらにはペン先が合計4本(各色2本ずつ)添付される。実売想定価格は5000円前後だ。
どちらのペン先も画面上での滑りはよいが、滑りすぎて困るようなことはない。ペン先が細く、高精度で遅延の少ないペン入力が可能なため、VAIO Duo 11ならではの高精細な表示を生かして、かなり細い線も正確に素早く引くことができ、細かい文字も書き込める。軽く画面をなぞる程度ではペン先の違いが分かりにくいが、少し力を入れて書いてみると、硬さの違いが感じられるはずだ。
デジタイザスタイラスは、デスクトップでのタッチ操作にも意外に役立つ。ウィンドウの小さなボタンやメニューなど、狭いエリアを狙って正確にタッチできるため、指では隣接するボタンをミスタッチしてしまいそうな場合でも、ペンなら押しやすいのだ。もちろん、タブレットモードでの手書き文字入力にも重宝する。
こうした高精度なペン操作を実現する工夫の1つに、前述のオプティコントラストパネルが挙げられる。液晶パネルとガラス面(タッチパネル)の間にある空気層を省き、樹脂で満たすことで、液晶パネルとガラス面の間の距離を縮めつつ、ペンで触れた場所と実際に点が描かれる場所の見た目のズレ(視差)を抑えているのだ。これにより、ペンで触れた場所にかなり近い位置に点が描かれるため、直感的かつ細かなペン入力が行える。
タッチパネルとデジタイザスタイラスのベースとなる技術は、イスラエルのN-trig(エヌトリッグ)によるものだ。ソニーは公表していないが、デジタイザスタイラスにN-trigのロゴが刻まれていることからも、そのことが分かる。N-trigは静電容量式タッチパネルと筆圧検知対応のアクティブペンを組み合わせたユーザーインタフェースの「DuoSense」をOEM供給するメーカーとして知られている。
VAIO Duo 11ではこのDuoSenseを採用しているようだが、そのうえで、液晶ディスプレイやタッチパネル、デジタイザスタイラスの各部において、ハードウェアとソフトウェアの両面で独自の作り込みを行うことにより、指でのマルチタッチとペン入力の高レベルでの両立を図っているのはさすがだ。
デジタイザスタイラスには2つのボタンがあり、ペン先に近いほうのボタンを押すと付属アプリのActive Clipが起動し、遠いほうのボタンを押しながら書くと消しゴム機能となる。Active Clipとは、ペン操作で画像を囲むだけで輪郭を自動検出して切り抜ける画像合成アプリだ。カメラで撮影した写真の一部を切り出し、ほかの画像やプレゼン資料に貼り付けるといった作業が簡単に行える。
そのほか、デジタイザスタイラスを活用できるソフトとしては、手書き文字入力用のWindows 8標準IMEとMetaMoJiのmazec-T for Windows、オフィススイートを構成するOneNote 2010とPowerPoint 2010を用意している。標準IMEやOneNote 2010、PowerPoint 2010では筆圧検知による強弱を付けた描画が可能だ。
また、発売後には手書きノートを作成・管理するNote Anytime for VAIOや、PowerPointでプレゼン中のスライドに手書きでメモを加えられるSlide Show add-inも提供される予定だ。Note AnytimeはiPad版がすでに提供されているMetaMoJi製アプリで、既存のPDFや画像を読み込んで手書きの情報を追記することも簡単できる。Note Anytime for VAIOではVAIO Duo 11のデジタイザスタイラスにソフト側が最適化されており、軽快かつ高精度な手書き入力が可能という(筆圧検知には非対応とのこと)。
ただし、N-trigのペン入力は付属のフォトレタッチソフトであるPhotoshop Elements 10の筆圧検知には対応していない。筆圧検知のソフト対応状況がワコムなどのペンタブレット製品と異なる点は、イラスト用途を考えているユーザーにとって注意が必要だ。筆圧検知のレベルが256段階となっていることも含め、単体の液晶ペンタブレットと同じような環境で精緻なイラストが描けるような仕様にはなっていない点を覚えておきたい。
とはいえ、仕事と遊びの両方において、メモ書きや資料作り、簡単なイラスト作成、操作の補助など、多方面でペン入力は活躍してくれるに違いない。
なお、マルチタッチ操作とペン入力はキーボードを収納したタブレットモードでも、液晶を立ち上げたキーボードモードでも利用できるが、キーボードモードで液晶ディスプレイの角度が固定される仕様の理由が、ペンを使ってみるとよく分かる。普通の液晶ディスプレイのようにチルト角度の調整ができる機構では、ペンで強めに書いたときに画面が後ろに倒れてしまい、使いにくくなってしまうのだ。
また、Surf Sliderデザインと名付けられたVAIO Duo 11のスライド式ボディは、画面とキーボードの距離が通常のクラムシェル型ノートPCよりグッと近づくため、キーボードを使いながら、画面に指でタッチしたり、ペンで書き込むといった操作がしやすい。使い込むほどに、マルチタッチとペン入力、キーボードの同時利用を考えたうえで、実に合理的なデザインであることを納得させられた。
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