HTML5か、ネイティブアプリか、ハイブリッドか、それが問題だOpen Mobile Summit London 2012(2/2 ページ)

» 2012年06月18日 15時47分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
前のページへ 1|2       

HTML5の課題、コストや開発難易度の高さ

Photo You Tubeのアンドレー・ドロニチェフ氏

 しかしHTML5も“バラ色の技術”というわけではない。例えば別のパネルディスカッションで、あるモバイルアプリ開発企業は、HTML5が離陸しない理由について「ユーザー体験など、われわれがこれまで(ネイティブアプリで)実現してきたことを提供できない。HTML5はハードウェアとやり取りするレイヤーやプレゼンテーションなど、すべてのレイヤーには使えない。ぐちゃぐちゃだ」と不満を漏らす。また、ユーザーのリーチについても、「重要なプラットフォームはごくわずか(iOSとAndroid)に限定されている」という見方だ。

 このパネルディスカッションで挙がったHTML5の課題は、スキル不足とコスト高といった点だ。YouTubeのドロニチェフ氏は「HTML5のスキルを持つ開発者は少ない」といい、NYTのフロンス氏も「開発は簡単ではない」と同意する。HTML5を全面的に支持するFTのグリムショー氏は「コスト高の点は同感」としたが、スキルを持つ開発者は今後増えるだろうと楽観視している。なお、グリムショー氏はFTのような出版業にとってはHTML5は十分だが、ゲーム開発など高い機能が要求されるアプリとなるとHTML5では不十分という点には同意している。

 「アプリストアなしで、ユーザーからアプリを見つけてもらえるか」という課題についても議論がなされ、YouTubeのドロニチェフ氏は「“アプリはアプリストアで見つける”というのが定説になっている。HTML5アプリは入手できる一元的な場所がなく、どこから入手できるのかユーザーは理解していない」という点を問題視する。実際、YouTubeのHTML5アプリもマーケティングに投資したものの、効果はそれほどでもなかったという。

 FTのグリムショー氏は「オープンなWebのほうが発見されるのは簡単」と正反対の意見だ。「(AppStoreには)まったくダウンロードされていないアプリも多数ある。HTML5ではこれまで(デスクトップのWebサイトで)やってきたプロモーション手法が使える。アプリストアではAppleやGoogle任せとなるが、Webなら自分たちでコントロールできる」(グリムショー氏)。Rocket Packのクピアニネン氏も、Webでの検索が機能している点に触れ「なぜ議論になるのか分からない」と述べた。

 このほか、パネルディスカッションに参加した4社すべてが課題として、ブラウザへのHTML5の実装の足並みが揃っていない点を挙げた。

ネイティブアプリからHTML5へのマイグレーションは

 HTML5アプリを公開した場合、ネイティブアプリからスムーズに移行してもらえるのか――。この点については、FTのグリムショー氏が自社のケースを紹介している。

 HTML5アプリの公開当時、iTunes StoreからのFTアプリのダウンロードはすでに130万件に達していた。FTでは、ネイティブアプリやHTML5などといった技術面には触れず「新しいアプリをリリースしたのでぜひお試しを」と告知した。これがうまくいき、ネイティブアプリユーザーの98%がHTML5アプリに移行したという。



トレンドは、ネイティブアプリとHTML5の“ハイブリッド戦略”

Photo Rocket Pack(Disney)のイルジ・クピアニネン氏

 今回のパネルディスカッションで目新しい動きとして紹介されたのが、ネイティブアプリとHTML5の両方を展開するハイブリッド戦略だ。それぞれのプラットフォーム向けに別々にアプリを開発することは、コストがかさむ上、トレンドの移り変わりが速いモバイル業界では大きなリスクにもなりかねない。そこで、HTML5を土台にしたものをネイティブレイヤーでラッピングすることでネイティブアプリにする――という手法を採る開発者が増えているという。

 これは、「PhoneGap」(米Adobe Systems)などのツールがそろってきたことが要因となっているようで、YouTubeのドロニチェフ氏は、このハイブリッドアプリ戦略に前向きな見方を示している。FTも、「Androidアプリではコードの95%がHTML5。これをAndroidラッパーでラッピングしている」(グリムショー氏)と明かす。Rocket Packのクピアニネン氏は、「Webベースのアプリがあれば、他のプラットフォームでの展開が容易になる」と述べた。

 最後にモデレーターが、モバイルアプリ開発者へのアドバイスを求めると、FTのグリムショー氏は「われわれの存在を示すのにAppleは必要ないが、名もないスタートアップ企業にはAppStoreのルートを勧める」という。NYTのフロンス氏は「レスポンスの良いデザインは必須。HTML5でコアを作成し、これをフレームワークを使ってラッピングしてまずはAppStoreで販売することを勧める」と助言。パネリストらは、ダウンロードの点ではiOS(AppStore)とAndroid(Google Play)は大差ないとしたが、(有料アプリやアプリ内課金を通じての)収益という点ではAppStoreに高い評価を下した。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月07日 更新
  1. ヨドバシ通販は「高還元率で偽物リスク低い」──コレが“脱Amazon”した人の本音か (2025年12月06日)
  2. 「健康保険証で良いじゃないですか」──政治家ポストにマイナ保険証派が“猛反論”した理由 (2025年12月06日)
  3. NHK受信料の“督促強化”に不満や疑問の声 「訪問時のマナーは担当者に指導」と広報 (2025年12月05日)
  4. ドコモも一本化する認証方式「パスキー」 証券口座乗っ取りで普及加速も、混乱するユーザー体験を統一できるか (2025年12月06日)
  5. 飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 (2025年12月04日)
  6. 楽天の2年間データ使い放題「バラマキ端末」を入手――楽天モバイル、年内1000万契約達成は確実か (2025年11月30日)
  7. 楽天モバイルが“2025年内1000万契約”に向けて繰り出した方策とは? (2025年12月06日)
  8. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【12月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のお得な施策あり (2025年12月03日)
  9. ドコモが「dアカウント」のパスワードレス認証を「パスキー」に統一 2026年5月めどに (2025年12月05日)
  10. Amazonでガジェットを注文したら、日本で使えない“技適なし製品”が届いた 泣き寝入りしかない? (2025年07月11日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー