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» 2010年06月02日 17時30分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:「ケータイを持たせない」という選択(3)

石川県で施行された、ケータイの所持規制努力義務を盛り込んだ「いしかわ子ども総合条例」。これに対し、自分たちで情報教育をやっていくしかないと考えた販売店が、「北陸携帯電話販売店協会」を設立した。

[小寺信良,ITmedia]

 子どもがネットで違法・有害情報に触れる、あるいは誘い出しのような行為を受ける原因は、携帯電話の機能の問題ではなく、ネット上のさまざまなサービスの問題である。このことは、ある意味インターネットユーザー全員で対策を考える必要がある。しかし現実に地方部においては、ネットのネガティブな面を象徴するものが「ケータイ」であることが分かってきた。それは、ケータイで扱っているWebサービスが「インターネット」であることが、頭では理解できても体感として理解できていないという点があるのではないか。

 例えば東京に暮らしていれば、Yahoo!やGoogle、あるいはDeNAやGREEといったネット企業があり、ニュースでそれらの名前や公告を見れば、ああ、東京のどこかに本社があるんだろうな、という感覚が持てる。サービスに問題や意見があればメールを送ったりするだろうし、いざとなったら本社まで行くか、といったことも可能性としてゼロではない。

 しかし地方部においては、これらのネット企業は、どこか遠くの手の届かない会社であり、形として見えてこない。地方部で具体的な形として見えているものと言えば、それはもう目の前にあるケータイしかないのである。

 さらには、安全なネット利用の普及啓発の活動や組織自体も、全く地方部には伝わっていない。石川県では県庁、県議会議員、PTAなどに取材したが、誰も「安心ネットづくり促進協議会」(http://good-net.jp/)の名前を知らないし、「MIAU」(http://miau.jp/)は不思議そうな顔をされるだけ、「MCF」(モバイルコンテンツフォーラム)(http://www.mcf.to/mcf.html)に至っては「そんないい団体があるんなら早く教えてくださいよ」とどやされる始末であった。その一方で「EMA」(http://www.ema.or.jp/ema.html)だけは以前相当大手新聞社に叩かれたことで、悪名としてはよく伝わっていた。

キャリアから見捨てられた石川県の子どもたち

 ケータイの問題で最も矢面に立たされるのが、ケータイ販売店である。全国どこにでもあるがゆえに、さまざまなネットの問題が持ち込まれてくる。地方部では、ネットの話となると尻の持って行きどころがもうそこしかないのである。

 石川を拠点に福井、富山の北陸三県、そして京都にもまたがってauショップを展開する企業、相互移動通信(http://www.sougo-idou.co.jp/)の代表取締役 池崎正典氏は、ケータイの所持規制努力義務を盛り込んだ「いしかわ子ども総合条例」によって矢面に立たされた1人である。条例では、中学生以下のケータイの販売に関しては規制しておらず、あくまでも保護者に対する努力義務である、としている。しかし池崎氏は、そういう問題ではないと言う。

 前回もご紹介したように、野々市町のケータイ不所持運動の拠点である「“ののいちっこを育てる”町民会議」の公式サイト(http://www.e-camellia.jp/home/kaigi/)が象徴するケータイの姿は、ケータイから蛇のような牙やシッポが生えており、ケータイに対する嫌悪感が露骨に反映されたものだ。相互移動通信では、石川県の高卒者を数多く採用しており、地元の発展に貢献しているという自負がある。新卒の彼ら、彼女らが携帯の販売という仕事に従事するということは、昨日までまるで蛇蝎のように忌み嫌われてきた携帯電話を、今日からは売る側に回るということになる。

 「自分がやっている仕事に対して、誇りを持ってほしいんです。」

 従業員として多くの高卒者を預かり、時には他県にまで人を送る立場の池崎氏は、言わば親代わりである。ケータイの販売会社勤務という職業が、保護者に、まるで自分の子どもが悪事に加担しているかのような肩身の狭い思いをさせてしまうことに、やり切れない憤りを吐露する。

 池崎氏は、auを展開するKDDIに対していしかわ子ども総合条例の所持規制改正に対して意見書を提出するよう、要請した。しかし、芳しい返答は得られなかった。携帯電話の売り上げは、石川、福井、富山の北陸三県を合わせても、全国の売り上げからすれば3%程度しかない。しかも全国で初めての事例である。さらに販売に対して直接規制はないということから、ケータイキャリアは動かなかった。

 石川県教育委員会でも、ネットのパトロールは数年前から実施しているという。しかしその実態は、学校の先生方が、人差し指でポツリ、ポツリとキーを叩いている状況で、「それなら慣れているケータイショップのスタッフでボランティアをやるべきだ」という思いを強くした。

 自分たちでどうにか情報教育の扉を開くしかないと考えた池崎氏は、北陸三県のケータイ販売店全部を巻き込んだ団体を作り、安全な利用の普及啓発とネットパトロールをやるしかない、と決断した。ケータイキャリアを跨いで販売店が団結するのは、全国でも過去に例がない。やりましょうと手を握ってくれたのは、auとソフトバンク系列だけだった。発足に向けてギリギリまでNTTドコモ系列店と交渉を続けたが、理解は得られず、参加は見送られた。石川県の子どもたちは、こうして見捨てられた。

 2009年12月3日、KDDI(au)、ソフトバンク系列22社110店が参加する「北陸携帯電話販売店協会」は、最大手のドコモ系を除いた、まるで片側の翼がない飛行機のような状態で離陸するしかなかった。

※本文中に一部誤りがありましたので記述を修正しました。(6/4 23:15)

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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