インタビュー
» 2012年09月18日 10時00分 UPDATE

ソフトバンクモバイル宮川氏にLTEネットワークの現状と“テザリングなし”の真相を聞く (1/2)

「iPhone 5でも完全定額を維持したい」。ソフトバンクモバイルがiPhone 5でもテザリングを“封印”したのには、こんな理由があった。先進ユーザーではなく、むしろいまだケータイを使う一般ユーザーを見据えるソフトバンクモバイル。同社のLTEネットワークの今とテザリングを解放しない理由を宮川潤一氏に聞いた。

[園部修,ITmedia]

 AppleがLTE対応の「iPhone 5」を発表したことで、KDDIとソフトバンクモバイルからもLTEサービスが提供されることになり、日本のLTEネットワークの選択肢が一気に4社に広がることになった。

 2011年の「iPhone 4S」発売時、KDDIはエリアの広さ、つながりやすさをウリに他のAndroidスマートフォンと変わらない、ソフトバンクモバイルよりも若干高めの料金でサービスを提供した。しかしiPhone 5では、発売に合わせて「4G LTE」サービスを開始。iPhone 5向けには、2年契約で基本料金980円、インターネット接続サービス315円、LTE対応パケット通信料は5460円のフラットプランを用意した。4G LTEは、月間の通信量が7Gバイトを超えると通信速度が128kbpsになる(2620円を払うと追加で2Gバイト分利用できる)というドコモと同じ体系だが、iPhone 5向けにはAndroidスマートフォン向けの月額5985円よりも安い特別なプランを設定。いち早くテザリングを定額料+月525円(最大2年間は無料)で提供するなど、かなり思い切った料金を設定してきた。

 一方、「iPhone 3G」発売時から日本のiPhone市場を開拓してきたソフトバンクモバイルは、2年契約で基本料金980円、インターネット接続サービス315円に、パケット通信料は5460円とほぼ同等の料金を設定。iPhone 4Sまでは、ケータイと変わらない4410円でパケット通信料の定額サービスを提供していたが、LTE対応で1000円強高くなった格好だ。ただし、機種変更の場合は1年間基本料金を半額に、MNPの場合は2年間基本料金を無料にするキャンペーンを用意し、“攻め”に転じたKDDIを迎え撃つ。またソフトバンクモバイルはiPhone 5でのテザリングは今のところ予定なしとしているため、この点はKDDIに対して不利になるとの見方もある。

※初出時に「機種変更の場合はパケット通信料を1年間月額4970円、MNPの場合は2年間月額4480円に減額する」との記載がありましたが、誤りでした。正しくは、修正済みの本文にあるとおり、キャンペーンを提供することで基本料金の値引きが受けられるという意味です。お詫びして訂正いたします。(9/18 22:55)

 ソフトバンクモバイルがあえて「テザリングなし」を選んだ理由はどこにあるのか。LTEネットワークの現状はどうなっているのか。そしてKDDIに対して、ソフトバンクモバイルにはどんな優位性があるのか。ソフトバンクモバイル 取締役 専務執行役員 CTOの宮川潤一氏に聞いた。

ソフトバンクモバイルのLTEネットワークの現在

 ソフトバンクモバイルは、今でこそ「プラチナバンド」の900MHz帯や、主にULTRA SPEED(HSPA+やDC-HSDPA)で利用している1.5GHz帯の割り当てを受けているが、3Gのネットワークはずっと2.1GHz帯を中心に展開してきた。だからこそ、2.1GHz帯に関するノウハウは決して他社には負けないと宮川氏は言う。

 「iPhone 5が2.1GHz帯でLTEをサポートすることは分かっていたので、相当前からLTEネットワークの工事はしていました。2013年3月までには、全国政令指定都市人口カバー率は100%を達成する見込みです。KDDIさんがおっしゃっている実人口カバー率に近い計算の仕方をすると、だいたい91%から92%くらいになると思います」(宮川氏)

 KDDIの4G LTEサービスのエリアは、2013年3月までに実人口カバー率約96%にまで広げる計画だが、この96%とは、2.1GHz帯だけの数字ではなく、800MHz帯や1.5GHz帯のカバレッジも合わせてのものとされている。宮川氏はKDDIの2.1GHz帯対応のエリアは「今聞いている数字なら、正直たいしたことないのではないかと思っている」と話す。

 「2.1GHz帯で90%を超える人口カバー率を実現するのはとても大変です。1万やそこらの基地局では全然カバーできません。かなりの数の基地局を建てる必要があります。我々はもともと2.1GHz帯でサービスをしていますから、3Gの屋外基地局は7万弱くらいあります。このうち9割以上の設備は、すでにLTEに対応できるものになっています。W-CDMAの基地局はソフトウェアをリモートで書き換えるだけでLTEの基地局に切り替えられますので、順次その作業を行っています」(宮川氏)

 トラフィックに余裕があるエリアでは、2.1GHz帯に順次LTEを導入しており、iPhone 5を発売する9月21日までには、それなりのエリアができていると話す。

 「現在、ソフトバンクモバイルの2.1GHz帯のネットワークは、40MHz(上りと下りで20MHzずつ)の帯域幅で展開しています。10MHz幅で4つの電波を発射しているわけです。この周波数の中でLTEを展開するために、新しく割り当てを受けた900MHz帯のうち、現在使える10MHz幅の電波を1波追加して、5波の電波を用意し、2.1GHz帯の電波のうち1波分(10MHz)を止めて、LTEに切り替えるという作業を行っています。既存のトラフィックへの影響を抑えつつ、LTEへの切り替えを進めているわけです。そのため900MHz帯の基地局展開を加速させており、毎月2000局を超えるスピードで工事をしています。もちろん2.1GHz帯のLTEの基地局も月2000局は軽く超える数を開設しています」(宮川氏)

山手線の南側で苦戦

 既存の基地局をLTE化することは簡単――。宮川氏はそう言うが、ことはそれほど単純ではない。3Gの基地局をLTEに切り替えるためには、一度電波を止める必要がある。収容力に余裕がある地域では、3Gの電波を止めてLTEに変更するのは容易だが、東京都心部のようなトラフィックの多い地域では、周波数のやりくりが大変で、宮川氏も「かなり手こずっている」ことを認める。東京23区の南部は、全国的に見てもかなり特殊な電波事情がある。

 「山手線の品川から新宿くらいまでのエリアは、トラフィックが非常に多く、フル活用されている2.1GHz帯の4波に900MHz帯の1波を追加しても、2.1GHz帯の1波を止められるだけの余裕ができないところがあるのです。そういう場所が、山手線の南側で100局くらいあって、この辺でLTEへの移行に苦労しています。山手線は、スマートフォンの普及に伴って、ものすごいトラフィックが発生するようになりました。移動中の電車が基地局のエリアに入ると一気にトラフィックを占有し、外に出ると一気に減るんです」(宮川氏)

 ただ、山手線の周りはなんとか9月第3週の間に1波の確保が終わる見込みで、9月末までにLTEの電波は吹けるようになる見通しだという。都心部でも一通りLTEの周波数を1波確保できた後は、LTEのための電波を捻出するため、10月から東京都内を中心にパラメータを変え、積極的に900MHz帯の電波にトラフィックを移行させると宮川氏は言う。LTEの電波を1波確保できると、LTEは3G(W-CDMA)と比べて3倍程度効率がいいことから、iPhone 5のようなLTE対応の端末が増えれば、3Gのトラフィックにはもっと余裕ができると宮川氏は見ている。そうすると、もう1波(合計2波)LTEの電波を確保できるところが出てくるので、そこでLTEを20MHz化し、下り最大75Mbpsで利用できるようにしていく。2013年度中に、20MHz(75Mbps)のサービスを全国に展開する計画だ。ただし、「都内は苦しいので1波(37.5Mbps)運用が多くなります」(宮川氏)という。

 さらに2014年7月には、現在利用できない900MHz帯の残り20MHzが利用可能になるので、この周波数をLTEに割り当てる。開設計画書にあるとおり、900MHz帯は人口カバー率99.9%までエリアを拡大させる。宮川氏は「プラチナバンド(900MHz帯)では、ドコモさんのエリアを越えるくらいのエリアを作ろうとしています。将来的には3Gに割り当てている10MHz幅もLTEに切り替えて、ソフトバンクモバイルのサービスエリアでの最大値は900MHzのLTEで実現する構想です」と話した。

 とはいえ、ソフトバンクモバイルの周波数のやりくりはかなり大変そうだ。宮川氏も「逆境には強いと思っていますが、正直今が苦しさのピークです」と苦笑いする。

 「2.1GHz帯のLTEは、ソフトバンクモバイルでも当面iPhone 5で利用していくことになります。Androidには2.5GHz帯のAXGPを中心に入れていく計画なので、2.1GHz帯の出番はないかもしれません。将来的にはすべての周波数をLTE化すべくやりくりしていますが、いろいろな周波数でいろいろな事情があります。1.5GHz帯はBSの干渉がけっこう大変で、時間がかかっています。これは片付いてから次のステップへ移行することになります。900MHz帯も今巻き取りをやっていますので、終わらないと使えません。2.1GHzはすでに3Gでパンパンです。

 とはいえ、3Gで全国しっかりつながるようなエリアを作っていくことを最優先で考えています。LTEの人口カバー率も99%まではやっていきますが、その端っこまでほんとうにLTEが必要なのかは慎重に考えていきます。さすがに3GがつながらないのにLTEの方がエリアが広いとは言えません。ちょっと胸を張って、みなさんに『やっとできました』とお話しできるのはあと2年後くらいだと思います。その頃には、一通りやりたかったことが完成します」(宮川氏)

 今、ソフトバンクモバイルのネットワークは「ものすごい綱渡り」(宮川氏)で持っているという。

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