ソフトバンクモバイル宮川氏にLTEネットワークの現状と“テザリングなし”の真相を聞く(2/2 ページ)

» 2012年09月18日 10時00分 公開
[園部修,ITmedia]
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 ちなみにAXGPのネットワークも、月に2000局くらいのペースで設置しており、こちらは都内でも30Mbpsくらいのスループットが出るほど、うまく作り込めているという。だからこそ、Appleに対してTD-LTEへの対応もリクエストしているが、なかなか世界のマーケットでTD-LTEのネットワークをしっかり持っているところがソフトバンクモバイル以外にないため、AppleにはYesと言ってもらえないのが現状だ。「iPhoneがTD-LTEに対応してくれれば、時代が変わった感じの提案ができる」(宮川氏)ので、これからも説得は続けたい考えだ。

テザリングを導入しない理由は「定額を維持するため」

 LTEのエリアでは、au版のiPhone 5には負けないと自信を見せる宮川氏だが、テザリングのサポートについては「もう少し落ち着くまでは勘弁してもらいたい」と話した。そこにはiPhoneの市場を初期から開拓してきたソフトバンクモバイルならではの悩みがあった。

 「現状では、上位4%くらいのユーザーが、ネットワークトラフィックの約50%を占有しているような状態です。ここでテザリングを解禁すると、もっと極端にトラフィックの利用が偏ることが予想されます。そうなると、使う人にはしっかりと利用料を払ってもらって、使わない人には低廉にサービスを提供するため、段階的に課金する、青天井の料金体系を導入せざるを得ません。KDDIのように、一定の容量制限を設けてテザリングを導入することは不可能ではありませんが、今はあえて制限なしの定額を提供したいと考えています」(宮川氏)

 宮川氏が制限のない定額を提供したいと話すのには理由がある。それは「これからスマートフォンに移行する人に、もっと安心感を持ってもらいたい」ということだ。iPhoneを導入し、ユーザーに積極的にスマートフォンへの移行を促してきたソフトバンクモバイルだが、それでもまだスマートフォンに買い替えていない人が、契約者の半分以上を占める。そういうユーザーに、青天井の料金体系を見せて、驚かせてスマートフォンに移行しないような人が出てくるよりは、完全な定額を維持して、着実にスマートフォンへの移行を促していきたいという。

 「Phone 3Gを最初に出したときは、思った以上にユーザーは飛びつかないという印象でした」と宮川氏。端末を初めて見たときは「これは行ける」と思ったのに、発売してみると思ったほど反応がなかったという。そこでギブアップせずに、「iPhoneマスター」制度を作り、販売店のスタッフに知識を付けてもらい、お客様とトークが弾むようになってもらった。そして使い方や活用方法を丁寧に説明し、いろいろと試行錯誤してうまくいった施策を横展開して、2年くらいの時間をかけて「iPhoneは今のケータイよりさらにいい」ということを、触ってその場で感動してもらって、ようやく売れるようになってきたそうだ。

 「iPhoneを買ったらいろいろなことができるのに、そこまでたどり着いていない方たちがまだたくさんいらっしゃるんです。そういう方々に、iPhoneになったら料金が上がるというイメージを持っていただきたくありませんでした。ですから、iPhone 5でLTEに対応した新しい料金プランを導入する際にも、iPhone 5だけは定額で利用できるようにしたのです。いずれはやる必要が出てくると思いますが、今は料金を青天井にするようなことは言いたくないと思っています」(宮川氏)

 iPhone販売に関するノウハウは、もちろんキャッチアップできないことではないので、いずれは他社もできるようになる。しかし、「iPhoneを売ることが決まって、社員からケータイを取り上げるような会社はうちくらいしかない」と宮川氏は笑う。「そういうところの感覚はまだ優位ではないかと考えています」。iPhone 5を安心して快適に使ってもらいたい。だからこそ、無理をしてテザリングを解放するよりも、誰もが定額で使えることを優先したというのだ。

ソフトバンクのiPhone 5はパケット通信と通話の同時利用が可能

 テザリングはできないソフトバンクモバイルのiPhone 5だが、au版とは異なる、W-CDMAならではの優位点もある。それが音声通信とパケット通信の同時利用が可能な点だ。

 「今回、au版とソフトバンク版のiPhone 5は、ハードウェア自体が一部異なるものですが、ソフトバンク版はiPhone 4Sと構造的には変わらないので、LTEの通信中でもちゃんと音声が着信して通話ができます。CS(回線交換)フォールバックの仕組みはちゃんと作ってきましたので、データ通信をしながら音声通話ができます」(宮川氏)

 データ通信をしながら音声通話ができる、というのは、一見当たり前のように思えるかもしれないが、CDMA版のiPhone 4SやiPhone 5ではこれができない。ソフトバンク版では電話の途中でネットで調べ物をしたりもできるわけだ。絶対的な優位点というほどではないが、ちょっとした使い勝手の面でのアピールポイントになる。

 また、前述のとおり2.1GHz帯のLTEネットワークは、3Gをずっと2.1GHz帯で展開してきた分、ソフトバンクモバイルには分があると宮川氏は強調する。「2.1GHz帯は3Gでずっとやってきたので、そこをLTE化すれば加速できます。LTEという観点だけなら、都内で2.1GHz帯の電波がどういう風に飛んでいるかはしっかり把握できていますから、ユーザーが増えたらどこの基地局をどうオン/オフしていくかはちゃんと考えています」(宮川氏)

 ただ、2.1GHz帯の逼迫度はソフトバンクモバイルの方がKDDIより上だ。KDDIは2.1GHz帯のトラフィックはすいているので、「KDDIさんもお金をかければLTE化は加速するでしょう」と宮川氏。「そこは一長一短だと思います」と謙虚に認めた。


 具体的なエリアの完成度や使い勝手は、なかなか数字や意気込みを聞いただけでは分からない。この点は改めて実機での検証が必要になるだろうが、少なくともソフトバンクモバイルには、KDDIには負けないだけの自信と努力をしてきた自負はある。宮川氏は「1年前の方が危機感は強かったですね」と振り返った。

 「KDDIさんのネットワークには追い付く自信はあります。今、エリアは追い付くべく頑張っています。もう少し待ってください」

 LTE対応で一気に勝負をかけてきたKDDIに対し、迎え撃つソフトバンクモバイルも今できる限りのことをやってiPhone 5を提供しようとしている。激烈な争いの火ぶたは、まもなく切られる。

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