音声通話SIMを提供するIIJの狙い/「MVNO2.0フォーラム」で見えたMVNOの現状と課題石野純也のMobile Eye(3月3日〜14日)(1/3 ページ)

» 2014年03月16日 14時08分 公開
[石野純也,ITmedia]

 3月6日に総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が「MVNO2.0フォーラム」を開催したのと前後して、インターネットイニシアティブ(IIJ)が音声通話つきのSIMカードを発表するなど、3月3日から14日の2週間は、“格安SIM”として注目を集めるMVNOに関する話題が相次いだ2週間だった。IIJのほかにも、ASAHIネットやSo-net、hi-hoなどが、新プランの発表やプランの改定に踏み切っている。

 そこで今回の連載では、IIJの新たなプランを紹介しつつ、その発表やMVNO2.0フォーラムから見えてきたMVNOの現状や、MVNOが抱える課題についてまとめていきたい。また、ほかのMVNOが発表したプランについても、適宜触れていく。

データ量の増加、音声通話対応SIMの発行とサービスを強化するIIJ

 IIJは3月7日、同社の提供する個人向けサービス「IIJmio高速モバイル/Dサービス」のラインアップとして、音声通話対応のSIMカードを追加すると発表した。あわせて、現在提供中の「ミニマムスタートプラン」(税別900円)は500Mバイトから1Gバイトに、「ファミリーシェアプラン」(税別2560円)は2Gバイトから3Gバイトにと、4月1日からそれぞれ利用できる容量を増加させる。

photophotophoto 音声対応SIMカードの提供を開始するIIJ。イオンやビックカメラの店頭でも購入可能だ。MVNOで回線交換の音声通話まで用意しているところはまだまだ少なく、IIJのほかには日本通信やSo-netなどが対応している
photo 500Mバイトだった「ミニマムスタートプラン」を1Gバイトに、2Gバイトだった「ファミリーシェアプラン」を3Gバイトにと、それぞれのクーポンを増量する

 音声通話はSIMカードの交換が必要となるが、既存のプランに1000円(税別)をプラスすることでつけらる仕組みで、通話料は30秒20円(税別)。無料通話はなく、国際ローミング時には音声通話のみ利用できる。このタイミングでIIJが音声通話対応のSIMカードを始める背景には、次のようなユーザーのニーズがある。

 「お客様の使い方を見ていると、(SIMを)スマホに挿している方が多い。家族や友達との会話はLINEやFacebookで済んでしまい、Gmailをはじめとするフリーメールが利用拡大し、モバイルキャリアが提供するメールへの依存も少しずつ緩くなっている。一方で、サポートやTwitterには、『いつ電話をやるのか』とかなり言われてきた。必要なときに電話で話せるニーズは根強い」(サービス戦略部 サービス企画1課 青山直継氏)

photo 音声対応SIMカードやクーポン増量の狙いを語るIIJの青山氏

 もちろん、スマートフォンではアプリとしてIP電話サービスを利用し、データ通信のみのSIMカードでコストを抑えるという手もあることはあるが、「スマホで従来の080、090(あるいは070)を使いたいという漠然とした不安や需要がある。無料のIP電話は操作性だったり、使いたいときにつながらず、通話が途切れる、音声が聞こえにくかったりするという問題がある」(青山氏)。

 通信の仕組みをひも解けば分かるが、アプリレイヤーのみのIP電話とは異なり、回線交換はそれ用に帯域がきちんと確保されている。無線である以上、完璧はないが、それでもユーザーが極端に多くなると速度が低下し、パケットの流れが止まってしまうデータ通信網より安定性が高い。青山氏の言葉を借りれば、「いつでもちゃんとつながり、一定の品質が保たれる」というのが回線交換式の音声通話の魅力だ。

 また、音声通話を始めることで、MNPでIIJへのポートインも可能になる。音声通話がないデータのSIMカードはあくまで今までの電話番号を移せない2回線目以降。音声通話を始めることで、1回線目需要を見込めるようになるというわけだ。

photophoto 回線交換の電話や、そのIDとなる電話番号への信頼はまだまだ高い。IIJが音声通話をサービスとして提供するのには、こうした背景がある

 IIJはアプリで制御し、必要なときだけ通信を高速化する「クーポン」という仕組みを採用しているが、これを500Mバイトから1Gバイトに増量する。単純比較すると、933円(税別)で1Gバイトのプランを始めたBIGLOBEよりも割安となる。これについて、青山氏は「市場において1000円を切る1Gバイトのプランが先行している。市場動向を見ていると、そこに魅力を感じ、評価されているということはマーケティングの上でも出ている」と追随を認めた。

 1Gバイトで約1000円という価格が可能になった背景は、青山氏によると「帯域単価の下落、あるいはその見通しも含め、1Gバイトであっても(1000円前後で)ご提供できるバランスが取れるようになりつつある」ことにあるという。利用者やトラフィックが増えれば接続料も上がるため、単純な比較はできないが、実際、2007年度には10Mbpsあたり1441万4939円だったドコモの接続料は、2012年度に284万6478円まで値下がりしている。また、総務省は今後、接続料のさらなる値下げを行う方針を掲げているといい、これに伴い、日本通信は1月に総務大臣に求めていた裁定を取り下げている。

photo MVNOはネットワークを貸し出すキャリアに対して、接続料を支払っている。このコストが下がっていることが、容量増加の一因であるという

 こうした事情が相まって、各社1Gバイトで1000円程度の価格設定に落ち着きつつあり、今のMVNO市場の“相場”になっている。3月7日には、同じくドコモ網でサービスを提供するhi-hoが月額933円(税別)の「ミニマムスタート」プランのデータ量を4月1日から500Mバイトが1Gバイトに上げると発表した。同様に、ASAHIネットは、「1ギガプラン」の価格を、4月1日から1858円(税別)から900円(税別)に値下げるする。

 価格帯の相場が形成されつつある中、IIJは他のMVNOとどこで差別化していくのか。青山氏によると、「1000円未満が売れ筋で注目を集めてはいるが、1000円以下であれば1000円以下で料金体系と品質、使い勝手のバランスをいかに取っていけるか。IIJではサービス事業者、通信事業者としてこれに取り組んでいる」という。

photo IIJのネットワークに対する取り組みを語る佐々木氏

 先に挙げた、ユーザーが自分の判断でオン・オフを切り替えられるシステムもその1つ。また、IIJでは「低速通信はペナルティではない」(ネットワークサービス部 モバイルサービス課 担当課長 佐々木太志氏)と考えており、クーポンをオフにした場合でも、以下のような「バーストトラフィック」では高速に通信ができるような仕組みを取り入れている。

 「IIJはクーポンオフでも(200Kbpsになっても)案外使えるとご評価いただいている。この帯域を遅くしても、長い間設備が占有されてしまうと、その効果が打ち消されてしまい、なんらコスト削減にならない。そのため、(帯域制限をかけない)バーストの転送をさせてあげて、呼を早く解放するようにしている」(佐々木氏)

photophoto MVNO同士の価格競争がひと段落しつつある今、今後の差別化の軸は品質になっていくという

 MNOとは料金で、MVNOとは品質で勝負していくというのが、IIJの戦略といえるだろう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月07日 更新
  1. ヨドバシ通販は「高還元率で偽物リスク低い」──コレが“脱Amazon”した人の本音か (2025年12月06日)
  2. 「健康保険証で良いじゃないですか」──政治家ポストにマイナ保険証派が“猛反論”した理由 (2025年12月06日)
  3. NHK受信料の“督促強化”に不満や疑問の声 「訪問時のマナーは担当者に指導」と広報 (2025年12月05日)
  4. ドコモも一本化する認証方式「パスキー」 証券口座乗っ取りで普及加速も、混乱するユーザー体験を統一できるか (2025年12月06日)
  5. 飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 (2025年12月04日)
  6. 楽天の2年間データ使い放題「バラマキ端末」を入手――楽天モバイル、年内1000万契約達成は確実か (2025年11月30日)
  7. 楽天モバイルが“2025年内1000万契約”に向けて繰り出した方策とは? (2025年12月06日)
  8. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【12月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のお得な施策あり (2025年12月03日)
  9. ドコモが「dアカウント」のパスワードレス認証を「パスキー」に統一 2026年5月めどに (2025年12月05日)
  10. Amazonでガジェットを注文したら、日本で使えない“技適なし製品”が届いた 泣き寝入りしかない? (2025年07月11日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー