世界を変える5G

「5G」で日常生活はどう変わるのか? 10Gbps以上の通信を可能にする秘密とは?(2/2 ページ)

» 2015年12月09日 06時00分 公開
[田中聡ITmedia]
前のページへ 1|2       

超高速&超大容量化を実現する「Massive MIMO」

 Huaweiとは、1つの場所に多数のユーザーがいる環境でも5Gの高速通信が可能かどうかの実験も行っている。ここで導入する技術の1つが、「Massive MIMO」=「超多素子アンテナ技術」だ。複数のアンテナを利用する「MIMO」は、これまでは送信×受信で2×2や4×4が主流だったが、ここでは64×64という多数のアンテナ素子を利用する。

 Massive MIMOの目的は「1人のユーザーにたくさんのデータを同時に送って通信速度を上げること」と「多くのユーザーが同時に通信できるよう、全体のシステムの容量を上げること」の2つだが、今回は後者を検証すべく、中国・成都でフィールド実験を行った。実験の結果、24の移動機が同時に接続して約1.3Gbpsの速度を実現。これはLTE-AdvancedのマルチユーザーMIMOの屋外実験と比べて、周波数の利用効率は3.6倍に上るという。

photophoto 24の移動機が同時接続して、約1.34Gbpsを実現した

44GHz帯でのマルチビーム多重伝送実験

 Massive MIMOについては、三菱電機とも実証実験を行っている。44GHz帯で500MHz幅を使い、「アクティブ・フェーズド・アレーアンテナ(APAA)」を用いたマルチビーム多重化技術を検証している。48素子のAPAAを移動させることで、16個のビームを多重化して仮想的に768素子のMassive MIMOを実現し、通信速度を向上させるというもの。同じ環境下で4人が同時に通信すると、1人あたり5Gbps前後のスループットを記録した。

photophoto 44GHz帯でAPAAを活用したマルチビーム多重伝送実験では、1人あたり約5Gbpsの速度を実現

70GHz帯、1GHz幅の“ミリ波”伝送実験

 ノキアソリューションズ&ネットワークスとは5G超広帯域ミリ波伝送実験を進めている。ミリ波とは、30〜300GHz帯に存在する、波長が1〜10ミリの電波。800MHz帯や2GHz帯など既存周波数帯の「UHF帯」に対し、「EHF(Extremely High Frequency)帯」と呼ばれ、特に広い帯域幅を利用できる可能性が高いとされている。今回は70GHz帯の1GHz幅を使い、4K動画のストリーミングを8端末で同時に行い、スムーズに再生できることが確認できた。

photophoto ミリ波の広帯域を使って4K動画を8端末で同時に再生

 また、2社は10月13日に東京都の六本木ヒルズ森タワーの商業施設にて、基地局からの見通しを確保しにくく、電波が複雑に反射を繰り返す環境にて、下り2Gbpsを超えるデータの転送に成功した。ミリ波は広い帯域幅を使い高速通信を実現できる反面、電波の直進性が強く反射に弱いという問題がある。今回は、電波の放射エリアを特定方向へ集中させる「ビームフォーミング」と、移動する端末の動きに合わせ電波を送信する「ビーム追従機能」でこれをカバー。ミリ波の高速データ伝送が可能であることを実証した。R&Dセンターでは「ビーム可視化システム」を使い、移動局(端末)の向きに合わせてビームが動いていることが確認できた。

photophoto 専用の装置とAR(拡張現実)を使い、ビームを可視化できる

ビームフォーミングを用いた超広帯域伝送実験

 サムスン電子とは、28GHz帯の800MHz幅におけるビームフォーミングを用いた超広帯域伝送実験に取り込んでいる。

 基地局には、48個のアンテナ素子からなるアレーアンテナを2つ搭載し、それぞれのアレーアンテナから電波を出している。多数のアンテナ素子を用いたビームフォーミングにより、高周波数帯の問題とされている電波の減衰を克服するのが狙いだ。移動局は、60(幅)×120(高さ)のアンテナをスマートフォンに内蔵したものを使用した。

photophoto 実験環境

 屋内では基地局から移動局まで15メートルほど離れている見通しの良い環境で最大3.77Gbpsの速度を実現。電波の遮蔽(しゃへい)が起きて、一時的に速度が落ちても1.8Gbps以上を記録した。屋外では、ビルの屋上に基地局を配置して、韓国・水原市の公道で、自動車に移動基地局を搭載して伝送速度を計測したところ、時速約60キロで最大2.59Gbpsを記録した。ビームフォーミングの効果により、基地局から約200メートル離れた場所でも1Gbpsだった。

photophoto 屋内と屋外、どちらも数Gbpsの速度が出た

エリクソンとの15GHz帯での共同実験

 エリクソンとの共同実験では、15GHz帯の730MHz幅にて、高周波数帯に適した無線パラーメーターへと最適化することで、下り最大10Gbpsを超えるデータ転送に成功した。

photophoto R&Dセンターの電波暗室で実験し、下り11.62Gbpsを記録

 免許不要の周波数帯や、高周波数帯・広帯域の電波をいかに活用するか、ビームフォーミングでどれだけ周波数の利用効率を高められるか、基地局と電話機側のアンテナを増やすMassive MIMOで、どこまで高速化を図れるか――。ドコモ R&Dセンターでは、さまざまな最新技術を目の当たりにした。これら実証実験の技術が商用サービスでいかんなく活用されれば、モバイルで10Gbps以上という超高速通信はもちろん、冒頭の動画で見られる世界も、夢物語ではなくなるはずだ。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年