総務省の「携帯電話値下げ議論」が決着――1GBプランが登場し、実質0円がなくなる?石野純也のMobile Eye(12月7日〜18日)

» 2015年12月19日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 安倍晋三内閣総理大臣の命を受け、総務省で検討が進められていた「携帯電話の値下げ議論」が、ついに決着した。10月からタスクフォースで議論を続けており、その「とりまとめ」が12月16日に発表された。合わせて18日には、総務省から「スマートフォンの料金負担の軽減及び端末販売の適正化に関する取組方針」が出されている。

 この取組方針に従い、総務省は、大手3キャリアへの要請を18日中に行った。今後のスケジュールは、2016年2月以降に販売の適正化の窓口を設置して状況を把握、年度内にはガイドラインが策定される見通しだ。タスクフォースでは同時に、MVNOの振興策も検討されていたが、「加入者管理機能」と呼ばれる「HLR/HSS」も、「開放を促進すべき機能」に位置付けられた。

photo 有識者を集めて行われた、総務省のタスクフォース
photo 総務大臣の高市早苗氏も参加し、速やかに実行に移していく方針を語った

1GB、5000円以下の料金プランが大手3キャリアから登場か

 これを受け、大手3キャリアはライトユーザー向けの料金プランの検討に入った。ドコモは「時期は明言できないが、要請を踏まえて検討していく」(広報部)といい、KDDIも「タスクフォースの内容を踏まえて検討していく。ライトユーザーにとって、何が大事かを考えていきたい」(広報部)という方針を示した。

 やや踏み込んだ発言をしたのがソフトバンクで、「1GBで5000円以下になるようなプランを検討しているのは事実」(広報部)。「決定したことはない」(同)というものの、現行の「データ定額パック 小容量(2)」より、さらにデータ量が少なく、料金の安いプランが登場する可能性は高そうだ。ドコモ、KDDIも、ここに追随してくるかもしれない。

 そもそも、タスクフォースでは、「データ通信をあまりしないユーザーが選べるプランがない」という、公平性の観点で議論が交わされてきた。とりまとめにも、「対象年齢や機種を限定して提供されている5000円以下のライトユーザー向けプランの価格帯も参考に、年齢や機種を限定せずライトユーザーも利用しやすいスマートフォンの料金プランの提供を検討すべき」と記されている。各社がライトユーザー向けのプランを検討しているのは、そのためだ。

photo とりまとめ案の論点には、データ通信をあまり使わないユーザーへの対応が挙がっていた

 どのようなプランが登場するかは、今後のキャリアの戦略次第だが、少なくとも、恩恵があるのはいわゆるライトユーザー。スマートフォンを積極的に利用しない層といえるかもしれない。現状の平均データ使用量は、キャリアによっても異なるが、2〜3GB程度だといわれている。店頭での誘導効果が高いという側面はあるものの、各社とも、5GB以上のプランの割合が増加中だ。こうした事情を踏まえると、新プランが登場しても、恩恵を受けられるのは一部のユーザーにとどまりそうだ。

photo ライトユーザー向けのプランを新設する方向性が示された。各社とも、これに基づき、新プランの検討を進めている

 一方で、ヘビーユーザーについては大きな変化はないといえるだろう。ただし、これは料金プランに関しての話。同とりまとめでは、端末の割引に対する意見も出ており、こちらについては、幅広いユーザーに影響を与える可能性がある。

「適切」を超えるキャッシュバックは是正へ、実質0円もなくなる?

 タスクフォースでは、端末販売時の、過度な割引も問題視されていた。とりまとめには、「スマートフォンを『実質0円』にするような高額な端末購入補助は著しく不公平であり、MVNOの参入を阻害するおそれがあるため、不公平を是正する方向で補助を適正化する一方、端末購入補助を受けない利用者の通信料金の負担の軽減に取り組むべき」と記載されている。同様に、MNPに偏重した端末購入補助の適正化も、ここでうたわれている。店頭での実態調査も行われ、行き過ぎたキャッシュバックは規制される可能性がある。

 とりまとめや、総務省の取組方針を見ると、いわゆる「実質0円」が禁止されるようにも読める。実質0円とは、端末価格から毎月の通信料に対する割引を引いたとき、0円になること。具体的には、端末の本体価格から、ドコモは「月々サポート」、auは「毎月割」、ソフトバンクは「月月割」を引いたもので、割引は24回分適用されたと仮定したときに0円になる状態を指す。

photo とりまとめでは、端末の割引に対しても言及があった

 こうした文言を文字通り捉えると、今後は、実質0円を打ち出すのが難しくなる。各社とも、ここについてはまだ明確な方針を打ち出していないが、単純に考えると、毎月の割引を減らしていく方向になりそうだ。

 一方で、必ずしも実質0円がNGというわけではなく、MNPのときの大幅なキャッシュバックや、実質価格がマイナスになるようなものだけがガイドラインの対象になるというシナリオも考えられる。タスクフォースの構成員の1人である野村総合研究所の北俊一氏は、「『0円端末がなくなる』『端末価格が高騰する』ということは、誰も想定していない。0円をもぐることがないように(キャッシュバックでマイナスになることがないように)する」と述べていた。これに続けて、「数年かけて適正な端末価格になっていく。そのプロセスの始まりだと思っていただければ」とも語っていた。

photo あるショップに出ていた、キャッシュバックの案内。今後は、こうした極端な値引きはできなくなる

 とりまとめや総務省の取組方針では実質0円が、北氏の発言では一括0円が規制の対象になるように取れるが、実際のガイドラインがどのような方向になるのかは未知数だ。それ以前に、3キャリアが過剰に反応するおそれもあり、北氏の思惑とは別に、端末の価格が上昇してしまうことも十分考えられる。キャリアにとって、端末購入に伴う割引はコストにあたり、いわば、減収要因ともいえる。この負担を減らせるという意味で、むしろ総務省からの規制は渡りに船だからだ。

現実的な落としどころはどうなる?

 端末の実質価格が高騰してしまえば、市場が一気に縮小してしまうおそれがある。キャリアの回線を契約することによって割引を受けられるオプション自体は、全廃にはならないだろう。タスクフォースでも海外の事例が議論されていたが、そこで紹介されていたように、「端末価格が安く、通信料が高い」ものと、「端末価格は正価に近いが、通信料が安い」ものの選択制にするのも、1つの方向性といえるだろう。

 また、実質0円になるような、大きな割引だけがなくなっていく可能性もある。現状でも、ハイエンド端末に目を移すと、発売当初から実質0円になっているものは非常に少ない。ドコモのiPhone 6sを例に取ってみると、16GB版はMNPで1万368円(税込、以下同)、新規契約と機種変更で2万5920円だった。MNPのみ、月々サポートが優遇されている形で、ここに「のりかえボーナス」での割引を加えると、実質0円になる。こうしたMNP偏重の割引を減らし、一律に月々サポートの額をそろえる程度の変更が、現実的な解といえそうだ。そして、ここで確保した原資を、低容量プランの“埋め合わせ”に使うということになるのかもしれない。

photo ドコモのiPhone 6sも、MNPでのみ、実質0円となっていた

 通信料への割引が減っていけば、そのぶん、本体価格の占める割合が大きくなり、今まで以上に端末の“素の価格”が見えやすくなってくる。その結果、ユーザーに、ハイエンド端末が「高い」と思われれば、この価格帯のスマートフォンが縮小するおそれがある。キャリアとしては、どこまできちんとミッドレンジ以下のモデルをそろえられるかが、腕の見せ所になりそうだ。

 既に、こうした事態に備えた動きも見られる。ドコモは夏モデルで「AQUOS EVER」を、冬春モデルで「arrows Fit」を戦略的に導入しているが、いずれも端末のスペックはミッドレンジ。機能を抑えた代わりに、実質価格を安めに設定しているのが特徴だ。同様に、auも冬春モデルではハンドソープで洗える「DIGNO rafre」や、薄くて画面の大きな「Galaxy A8」を導入している。また、ソフトバンクはY!mobileブランドで、「P8lite」をベースにした「LUMIERE」を取り扱っている。

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photo ドコモ、au、ソフトバンクとも、ミッドレンジモデルを導入し始めている。今後は、こうした価格帯が主流になっていくかもしれない

 MVNOにとっては、ユーザーを獲得するチャンスも増えそうだ。現状では、MVNOに移る際に、端末価格が1つの障壁になっていた。大手キャリアで割賦を使って買えば端末の本体価格が見えづらくなる上に、割引まである。一方で、MVNOを使おうとすると、基本的にはSIMロックフリー端末が必要になってくる。その際の価格には割引がなく、ミッドレンジ端末なら3万円前後、ハイエンドなら5〜7万円程度を支払わなければならい。

 もし今後、大手キャリアの割引が抑制されれば、端末価格はキャリアで買おうが、SIMロックフリーのものを買おうが、あまり差がなくなってくる。逆に通信料を比べたときは、MVNOの安さが際立っている。先に述べたように、ソフトバンクは1GB、5000円以下のプランを検討しているが、MVNOの相場である3GBで1600円前後と比べれば、まだまだ割高だ。

 もっとも、これはかなり楽観的なシナリオでもある。毎月の割引が減り、ユーザーに高いと受け止められてしまえば、買い控えが起こる。販売総数が減り、ミッドレンジ端末の割合が増えれば、おのずと市場規模は縮小していくだろう。タスクフォースによって、「官製不況」が起こりうることも、覚悟しておかなければならない。

 今回のタスクフォースは、その影響範囲が広い半面、結論を出すまでの時間があまりにも短く、中間取りまとめでも、言葉の定義があいまいなままになっているところが随所にあった。政府主導の色合いも濃く、民間企業であるキャリアに対しての指導としては、少々行きすぎている印象も受けた。そして、結果がどちらに転ぼうと、その影響を受けるのは、ほかでもないユーザーだ。本当に“国民のため”を考えているのであれば、少なくとも、議論にはもっと時間をかけるべきだったように感じている。

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