2016年は“次のMVNO”に向けた準備期間――IIJ島上純一氏に聞く、MVNOの未来新春インタビュー(2/3 ページ)

» 2016年01月06日 06時00分 公開
[田中聡ITmedia]

「HLR/HSS」開放のメリットとは?

―― 総務省のタスクフォースで携帯料金の見直しがクローズアップされています。その中でMVNOの促進も話題に上がっていますが、一連の議論をどうご覧になっていますか。

島上氏 MVNOの振興については、2014年に「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」でも取り上げられました。そこに向けた提案はMVNO委員会でやらせていただいて、いろいろと盛り込んでいただけたと思います。

 今回のタスクフォースで、MVNO振興については2つのテーマが挙がりました。1つが「API連携」です。今まで、ドコモさんのシステムと連携するには、ドコモさんの端末を操作しないといけませんでした。例えば、留守番電話などの音声オプションを付ける際がそうです。われわれの販売店(BIC SIMカウンター)でも、IIJの端末を操作してからドコモさんの端末を操作するという処理が続いていますが、IIJの端末を操作したら、そのままドコモさんにオーダーが飛ぶようになれば、お客様を店頭でお待たせする時間が少なくなるかもしれない。あるいは、何かオプションを付ける際にも、それが瞬時にできるようになるかもしれない。

―― HLR/HSS(加入者管理装置)をMVNOに開放すべきという点は、特に日本通信さんが主張されていますけど、IIJとしてはどのようなスタンスなのでしょうか。

島上氏 HLR/HSSの開放はMVNOのあり方を変えていく話だと思いますので、当然、HLR/HSSを活用することで、どういうビジネスになるかは研究しています。

―― 開放してほしいかといえば、ほしいと。

島上氏 それはそうです。それによって新しいビジネスが広がりますが、設備投資費がかかりますので、本当にビジネスになるのかは考えています。

―― 例えばどんなビジネスが想定されるのでしょうか。音声通話の定額サービスをはじめ、よりフレキシブルな料金プランが生まれるメリットがあるという話もあります。

島上氏 1つは、HLR/HSSを持つことと完全に同義ではないのですが、“われわれのSIMになる”ことです。今はドコモさんやKDDIさんからSIMを借りているというステータスなので、一切(SIMを)いじれないんですよ。SIMの中にあるICチップの領域を使うことで、いろいろなサービスができるようになるかもしれない。「SIMをもっと活用しましょう」という話は総務省の研究会からも来ています。

―― 例えば、ドコモとKDDIの回線を、1枚のSIMカードで運用することもできるのでしょうか。

島上氏 技術的にはできます。ドコモさんやKDDIさんがそれを了解するかどうかですが。「HLR/HSSの開放」と一言で言われていますけど、どういう形で開放して、どこまでわれわれが自由に使えるのか、という話は、当然調整しながら決めていかないといけません。ないです。

 「フルMVNOになったらこういうことができますね」というのは、欧州の例を見ると、いろいろな可能性がありますが、日本のMVNOがそれに対応できるのかどうかを、いろいろ議論させてもらっています。

―― そこは、MVNOの設備やコストにも関わってくると。

島上氏 MVNOにとっては、どれだけお金をかけてどこまで作れるかという話ですが、MNOにとっては、(設備の)一部を切り出すことに対して、どれだけ費用がかかるのかという話です。

―― MNOとMVNO、双方にそれなりのコストが掛かるということですね。

島上氏 MNOに掛かったコストは、MVNOに転嫁されますから。MNOがサービスとしてやってくれるわけではありません。MVNOがやるのであれば、その分の費用を負担してくださいというのが、基本的なルールです。

―― 日本通信は音声の相互接続開放を要求されています。音声通話はプレフィックス番号を付加して半額にするサービスがありますが、基本的に従量課金で自由度が少ない中、IIJさんとしても、相互接続されたいとお考えでしょうか。

島上氏 音声の相互接続は、可能性としては考えていますけど、われわれの中でプライオリティが高いといえば、そうではありません。われわれはデータ(回線)で始めているので、得意なところで勝負します。

 加えて、データというお話をすると、もう1つ可能性があるのが「ローミング」です。今、ドコモさんのSIMを使っている以上は、例えば海外で何かをやるときに、(事業者の識別で)「ドコモ」にしか見えず、「IIJ」だと識別できないんですよ。これも同義ではありませんが、われわれがHLR/HSSを持つことで、海外の事業者さんと新しいサービスを作れるかもしれません。

 例えば今、ローミングをしようとすると、ドコモさんから卸してもらわないといけません。何かをやるにしても、ドコモさん、つまりMNOにお願いをして、MNO側でシステムを作ってもらわないといけない。(HLR/HSSを持つことで)そこから100%脱却できるかは分からないですけど、その自由度が広がると思います。

―― MVNOでデータローミングをしているところが少ないのは、そういう背景があるのですね。

島上氏 とはいえ、われわれも法人向けでは(データの)ローミングをやっているんですよ。ただ、それは音声と一緒でドコモさんの卸なんです。

―― 一言でHLR/HSSといっても、国内外でいろいろなサービスの可能性が出てくるわけですね。

島上氏 そうです。その部分はMNOの根幹に関わるので、MNOさんが「はい、分かりました」と(簡単に)言う話ではないですし、それなりの投資もかかります。でも、せっかくMVNOでここまで来た以上は、さらなる新サービスを開発するためには、ぜひともやりたいです。

―― MNOがすぐに首を縦に振らないのは、コスト面のデメリットが大きいのでしょうか。

島上氏 いや、このあたりは、2〜3年前にドコモさんが総務省の研究会で発表している資料を見ると分かるのですが、「通信は国の重要なインフラなので、あまり開放するのはいかがなものか」という物言いをされていますね。何でもかんでも開放すればいいわけではないことは、理解はしています。日本の通信インフラを支えているのはMNOさんなので、それが健全な発展をするようには持っていきたいですね。

MNOの「1GBプラン」との競合は懸念していない

―― タスクフォースでは、MNOに低料金プランがないので、それを作った方がいいのではないかという意見が出ました。実際にソフトバンクが月5000円程度で1GBのプランを出すとの情報もありますが、そうなると、MVNOのサービスと競合するという懸念もあります。

島上氏 あまり懸念はしていないですよ。例えば今、(MNO)各社さんが年配の方やお子様の方向けにプランを出していますけど、あれがそのまま出てきたところで、そんなに安いわけではないですよね。

―― 結局、1GBでもトータルで最低5000円程度はかかるでしょうからね。

島上氏 そうなんです。これは完全にパラドックスになってしまっていますけれど、IIJmioでは3GBから高速通信ができるのに対して、ドコモさんは2GBからなので、あの(低容量の)部分でMVNOが即座に大きな影響を受けるとは考えていません。(月1000円や2000円に)水準がどーんと落ちてくれば別ですけど、今までの事業構造から考えて、それはないでしょう。

―― MNOが月1000円というプランはさすがに出さないだろうと。

島上氏 MVNOがMNOと同じサービスを出せるかといえばそうではないし、MNOもMVNOと同じサービスは出せないでしょう。MNOさんはあれだけの店舗も維持して、手厚いサポートをやっていますが、MVNOにそれらをやれと言われても、できないわけですよ。ある程度、サポート面の機能を限定しているのがMVNOなので、そこはすみ分けをしていけばいいと思いますし、そこにMNOさんが降りてきて、自分の商売を壊す必要はないんじゃないかと思います。

―― 島上さんは、タスクフォースの会合で、キャッシュバックや実質0円など、MNOによるインセンティブモデルを是正すべきだとおっしゃっていました。そこは今も変わらないスタンスなのでしょうか。

島上氏 あまり強く主張しているつもりはないんですけどね。2014年の春ごろのような、過度なキャッシュバックは市場をゆがめるとは思いますが、端末販売奨励金を全く付けるなという話になると、それこそ競争にならないですよね。なので「行きすぎた」施策が、MVNOの振興を妨げる可能性があるという表現を使っています。

―― MVNOにとっても、健全な競争は良い方向に進むと。

島上氏 MVNOの立場というよりは、一般の目から見ておかしい気はします。それがMVNOの利害に直接的に関わるとは思っていません。ただ、(通信費+端末代を)トータルで見るとMVNOと変わらない、というところまで行くと、ちょっとやりすぎじゃないかと思います。

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