料金の公平負担に向けた課題は――総務省、携帯料金タスクフォースの第2回会合を開催総務大臣も出席(2/2 ページ)

» 2015年10月29日 23時00分 公開
[井上翔ITmedia]
前のページへ 1|2       

MNOの主張

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのMNO3社は、ほぼ横並びの料金プラン、ほぼ横並びの端末ラインアップの中で競争している。しかし、“ほぼ横並び”の環境が、携帯電話料金の高止まりをもたらし、競争を鈍化させているのではないか、という指摘もある。

 今回の会合では、「料金体系」「端末からサービス・料金を中心とする競争への転換」「MVNOへの取り組み」の3点について、MNOの担当者から意見を聴取した。ドコモからは取締役常務執行役員 経営企画部長の阿佐美広恭氏が、KDDIからは理事 渉外・広報部長の藤田元氏、ソフトバンクからは常務執行役員 財務副統括(国内通信事業担当)兼 渉外本部 本部長の徳永順二氏が出席し、各社の考え方や今後の方針を説明した。

ドコモの阿佐美氏KDDIの藤田氏ソフトバンクの徳永氏 左からドコモの阿佐美氏、KDDIの藤田氏、ソフトバンクの徳永氏

 各社ともに、スマホの普及やユーザーの利用動向を踏まえ、さまざまな料金施策を行っていることと、MVNOサービス普及に向けた取り組みを強化していることに理解を求めた。

NTTドコモ:料金の改善、販売面の見直しを表明

 ドコモの阿佐美氏は、長期利用者、通信量の少ない利用者、通信量が特に多い若い(学生の)利用者に対し、料金面での改善を行うことを表明した。また、端末やサービスの販売においては、販売手法の見直し、販売価格の分かりにくさの改善、ニーズに合わせたサービスの提供や、代理店への監督・指導の強化に取り組むことを明らかにした。

ドコモの料金面での取り組みドコモの販売面での取り組み ドコモは、料金面での改善と販売面の見直しに着手することを表明(ドコモ提出資料より)

KDDI:ユーザーのニーズと競争環境への対応に努力

 KDDIの藤田氏は、「お客さまのニーズに合致しないサービスは、お客さまに受入れられないとの認識」を持って、多種多様なサービスや料金プランを提供していることを説明した。その具体例として、かけ放題ではない旧プランを継続して提供していること、データ通信量が少ないシニア(高齢者)層やジュニア(子ども)層に向けた専用料金プランを設けていることなどを紹介した。販売面では、ユーザー全体の便益とのバランスに考慮した上で、行き過ぎた施策があれば是正していくことを表明した。

 全体的には、ドコモと比較すると“現在”に重きを置いた説明となった。

KDDIの料金面での考え方KDDIの端末販売の考え方 KDDIの料金面(写真=左)と端末販売面(写真=右)に関する考え方(KDDI提出資料より)
KDDIのシニア向け料金KDDIのジュニア向け料金 KDDIでは、自社の通信実績データにもとづいてデータ通信の少ないシニア向けプラン(写真=左)とジュニア向けプラン(写真=右)を用意(KDDI提出資料より)

ソフトバンク:Y!mobileでライトユーザー対応 行き過ぎたキャッシュバックは是正

 ソフトバンクの徳永氏は、同社が力を入れているiPhoneを始めとするスマホに関して、機種購入などを条件とする月々の料金割引やパケット料金の値下げ、割賦販売による負担の平準化などに取り組んできたことを説明した。また、Y!mobileブランドが低廉な料金を背景にライトユーザーに受入れられつつあることも説明した。

 今までの取り組みの“弊害”も認めている。端末購入で月額料金を割り引く仕組みによって、本来の月額料金と端末代金が分かりづらいこと、ローエンド端末よりハイエンド端末の割引を手厚くすることによって価格差がほとんどない状態となっていること、MNP契約者への優遇による不公平感がそれに当たる。

 行き過ぎたキャッシュバックなどは是正するべきである、と徳永氏は表明しつつも、是正による“弊害”も指摘する。MNPや解約新規ユーザーが年間約10%ほどいるというソフトバンクの場合、インセンティブやMNP優遇を単純に禁止する方向で規制を行われると、サービス水準を保つためのユーザー数が確保できず、コスト競争力を失うというのだ。そこで、タスクフォースでの議論を通じ、業界である程度の統一感を持って対策を行う必要性を訴えた。

ソフトバンクとY!mobileの料金Y!mobileはライトユーザーにも人気 ソフトバンクブランドでは旧料金プランを選べるようにし、Y!mobileブランドでは2980円から通話準定額・データ通信ができるようにすることで選択肢を用意(写真=左)。結果、Y!mobileブランドは、ライトユーザーに受入れられつつあることを説明(写真=右)(ソフトバンク提出資料より)
端末購入で料金を割り引く構造が分かりにくいという指摘もハイエンド・MNP優遇が不公平間につながる 端末購入で料金を割り引く「実質価格」が分かりにくさや割高感を生むこともある(写真=左)。ハイエンド端末やMNP時の割り引きが大きいことが不公平感を生んでいるが、単純に禁止すると弊害もあるという(写真=右)(ソフトバンク提出資料より)

MVNOの主張

 昨今、料金の低廉さ背景に普及が進んでいるMVNOサービス。通信料金だけではなく、通信サービスの多様性を担保する意味でも、MVNO市場のさらなる成長は必要不可欠だ。しかし、普及が進むにつれて、課題も出てきた。

 今回の会合では、「MNOとの競争環境」「MVNOサービス普及に向けた取り組みと課題」「MVNOサービスの低廉化・多様化に向けた取り組みと課題」の3点について、MVNOを代表して、インターネットイニシアティブ(IIJ)と日本通信の2社から意見を聴取した。IIJからは取締役 CTO ネットワーク本部長の島上純一氏が、日本通信からは代表取締役社長の福田尚久氏が出席し、各社の考え方や今後の方針を説明した。

IIJの島上氏日本通信の福田氏 左からIIJの島上氏、日本通信の福田氏

IIJ:MNOのインセンティブの適正化、通信と端末の分離と選択自由化が必要

 IIJの島上氏は、個人ユーザー向けを中心にMVNOサービスが拡大傾向にあり、認知度も向上していることを指摘した上で、MNOによるインセンティブモデルの適正化を行うことと、通信サービスと端末の分離を進めた上でユーザーの選択肢を増やすことがMVNOの競争力強化に必要であるという認識を示した。

IIJのプレゼンシート MNOのインセンティブモデルの適正化と、通信サービス・端末の分離を進めてユーザーの選択肢を増やすことが課題(IIJ提出資料より)

日本通信:接続料と技術的制約という「ギプス」を外すことを要求

 日本通信の福田氏は、MVNOサービスの認知度が高まった割に普及が進んでいないと指摘する。その原因を、「大リーガー養成ギプスをはめられた少年が、大リーガーに戦いに挑む」という構図で説明した。少年は、はめられたギプスのせいで大リーガーにどうやってもかなわない、というのだ。察しが付くと思うが、少年はMVNO、大リーガーはMNOのことだ。では、少年にはめられた「ギプス」とは一体何を指すのだろうか。

 1つは、「MNOとの接続料」だ。MVNOは、データ通信の接続料を通信速度(帯域)単位で支払う。NTTドコモの場合、1Mbpsあたりの接続料が2008年度は約1267万円だったものが2014年度は約95万円となり、大幅に「値下がり」している。ところが、ドコモと直契約した場合と同等の速度を出せるように接続料を支払うと、2008年度は約1267万円で済んでいたものが、2014年度は約3900万円となり、実質的に「値上げ」となっている、というのだ。

 もう1つは、「MVNOに対する技術的制約」だ。日本のMVNOでは、パケット中継装置の相互接続は「レイヤー2(L2)接続」をすることで可能となった。これにより、データ通信(パケット通信)については柔軟なサービス設計ができるようになった。しかし、音声通話についてはMNOから「卸売り」を受けているため、MNOが提示するとおりのサービスしか提供できない。また、かけ放題プランについては卸売りの対象外になっているため提供できない。これにより、通話料金がどうしてもMNOよりも安くできず、場合によってはむしろ割高になってしまう、というのだ。

 これらのギプスを外すと、どうなるのだろうか。

 1つ目のギプスは、MNOの接続料をより引き下げると外せる。そうすると、MVNOはより多くの帯域を同じ料金で購入できるので、データ通信におけるMNOとMVNOの品質差は小さくなり、競争力を高めることができる。

 2つ目のギプスは、「HLR/HSS装置」をMVNOが自前で設置できるようになれば外せる。この装置は、携帯電話事業者にとって根幹に当たる装置で、携帯電話の位置情報の把握、電話番号やユーザーの契約状況を管理するために用いられている。この装置を自前で持つことで、音声通話プランや通話料金を自社設計できるだけではなく、SIMカードの独自発行、顧客管理システムの自社管理、複数のMNOネットワークを利用できるサービスの提供など、今まで以上に柔軟で多様なサービスを提供することができる。

 これらのギプスのうち、2つ目のギプスについては、ドコモは今後の検討課題として外せるようにすることを検討している。しかし、大幅なシステム改修が必要なため、時間がかかるという。そこで、福田氏は、短期な解決策として、かけ放題プランも卸売り対象にすることをMNOに提案した。

日本通信の接続料に関するプレゼンシート日本通信の相互接続に関するプレゼンシート 接続料の実質値上げ(写真=左)と、設備開放の不完全さ(写真=右)が競争を阻害する大きな原因であると主張(日本通信提出資料より)

第3回会合は「非公開に」

 さまざまな意見表明・意見交換が行われた今回の会合。しかし、公開の場では踏み込んだ話ができない、ということで第3回会合は非公開で開催されることとなった。第3回の会合も、MNOやMVNOから意見聴取と、それに対する質疑が行われる予定だ。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月26日 更新
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年