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» 2016年01月21日 19時39分 UPDATE

「HLR/HSS」を開放すると「格安SIM」ではなくなる?

今後、MVNOが発展するうえで大きなキーワードとなるのが、「加入者管理機能」を意味する「HLR/HSS」。これを大手キャリアが開放することで、MVNOのサービス拡張が可能になるが、まだ課題も多い。開放のメリットと課題をIIJ佐々木氏が説明した。

[田中聡,ITmedia]

 2015年までに多くのプレーヤーがMVNOに参入し、「格安SIM」という言葉を一般紙や新聞でもよく目にするようになった。海外メーカーを中心にSIMロックフリースマートフォンも多数登場し、MVNO市場は大きなにぎわいを見せている。一方で、サービス形態や料金などを見ると、必ずしも差別化を図れているとは言い難い状況だ。2016年以降、MVNOはどこに向かっていくのか。

 IIJ(インターネットイニシアティブ)が1月19日にMVNOの市場動向に関する説明会を開き、ネットワーク本部技術企画室 担当課長の佐々木太志が詳細を説明した。

タスクフォースで示されたこと

 総務省が2015年10月から12月にかけて開催した、携帯電話料金に関するタスクフォースでは、MNO(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)に対して、(1GBなどの)ライトユーザー向けプランを作ること、実質0円やMNP転入の優遇措置などを見直すことなどが提案された。一方でMVNOについての言及もあり、「『加入者管理機能』の開放にについて、事業者間の協議を加速すべきこと」「『顧客管理システム』のオンライン連携について、早期の実現を目指すこと」などが示された。

IIJIIJ 2015年12月に出された、携帯電話料金タスクフォースの取りまとめ(写真=左)MVNOの動向を説明するIIJ佐々木氏(写真=右)

 顧客管理システムは、利用者の個人情報や契約情報などを管理するデーターベースのことで、ドコモが運用している「ALADIN(アラジン)」が有名だ。MVNOが保有している顧客管理システムは、KDDIのシステムとは接続できるが、ドコモのシステムとは接続できない。そこで、タスクフォースではドコモとMVNOの顧客管理システムをオンラインで連携させることが表明された。これにより、例えばIIJのシステムを操作するだけでALADINに自動で反映されるようになるので、MVNOの業務コストが削減できるほか、新規契約やオプションサービス契約の処理がよりスピーディになる。

IIJ これまで認めていなかったドコモの顧客管理システムとの連携が、2016年度に実現するかもしれない

 加入者管理機能は「HLR/HSS」と呼ばれ、SIMカードを管理するためのデータベースを指す。SIMカードが契約中のもので基地局を利用する権利があるかの「認証」と、どの交換機を経由してインターネットや音声に接続するかの「位置登録」という2つの役割を持つ。「音声の場合は、外部から電話がかかってきたときに、どの交換機の配下にいるかが分からないと携帯電話のベルを鳴らせない。(SIMが)どの交換機の管轄下にあるかを一括管理している」(佐々木氏)

IIJ HLR/HSSについて。ちなみに、HLR/HSSの正式名称は「Home Location Register/Home Subscriber Server」

 このHLR/HSSを、総務省は「開放を促進すべき機能」に位置付ける見通し。開放すること、つまりMNOがMVNOに対して設備を貸し出すことを「アンバンドル」という。アンバンドルとは「別々にする」「切り離す」ことを意味する。このアンバンドルをする際の条件は、総務省の「MVNO事業化ガイドライン」では「1.他の事業者から要望があること」「2.技術的に可能であること」「3.携帯電話事業者に過度の経済的負担を与えないこと」「4.必要性・重要性が高いこと」の4つが定められている。

IIJ MNOがMVNOに設備を貸し出すための条件

 これら4条件のうち、1と4を満たしており、2と3を満たす可能性がある場合は、「促進すべき機能」に定められる。HLR/HSSの開放がこれに該当するというわけだ。佐々木氏は「HLR/HSSがないからといって困るわけではない。現に、(MVNOは)ドコモやKDDIからSIMと管理機能をまとめて借りて事業を行っている」と話すが、MVNOがHLR/HSSを保有することで、どんなメリットが生まれるのだろうか。

 最も大きなメリットが、MVNO自らがSIMカードを調達・発行できるようになること。これによって、どの通信事業者のサービスを提供するかを、MVNOが決められるようになる。分かりやすい例が、国際ローミングだ。現状、IIJのSIMカードを挿入したスマートフォンを海外で使う場合、ドコモのローミングサービス(WORLD WING)を卸してもらうしかない。しかしIIJがSIMカードを発行できるようになれば、事業者間の調整は必要になるが、海外の通信事業者のプリペイドサービスをIIJのSIMで使ってもらう、といったことが可能になる。

IIJ HLR/HSS開放のメリット

HLR/HSS開放の課題

 ただし佐々木氏は、HLR/HSSの開放については、まだいくつもの課題があると話す。

 1つ目が、MVNOがHLR/HSSを運用するための技術的な方式が決まっておらず、特にネットワークの安定運用やセキュリティ面で、MNOが懸念を示していること。

 2つ目が、そもそもHLR/HSSの開放が必要か・重要かについての見解が、MNOとMVNOで異なること。

 3つ目が、HLR/HSS開放にかかるコストが膨大になること。「ドコモさんの設備更新が必要になり、セキュリティと安定運用を確保しないといけないので、非常に高額になることが考えられる。(少なくとも)数百万や数千万ではないという感触は持っている」(佐々木氏)とのことで、そのコストは億単位になるようだ。

 4つ目が、MVNO側でもHLR/HSS開放後にどんなサービスを提供できるかを、イメージできていないところがあること。HLR/HSS開放でMNOにかかったコストはMVNOにも転嫁されるため、コスト面で後ろ向きに感じているMVNOもいるようだ。

 5つ目が、日本の通信業界全体の空洞化、ダムパイプ化(データの受け流しだけをする土管のような存在になること)が懸念されること。

IIJ HLR/HSS開放の課題

 佐々木氏は、HLR/HSSと音声サービスの関係についても言及。MVNOがHLR/HSSを運用することで、電話かけ放題などの、より安い音声サービスが提供可能になるといわれているが、「HLR/HSSの開放」=「音声サービスが安くなる」わけではないという。ほかに、音声通話網や信号網の開放、電気通信事業法に関わる規則などの改正、MVNOによる設備投資などが必要になるからだ。またMNOの音声ARPU(1人あたりの売上)の成長が見込めない中で、MVNOにとって低廉な音声サービスが本当に必要なのかという議論もある。

IIJ 音声サービスとHLR/HSSの関係

 海外では欧州を中心に、HLR/HSSを保有していて独自のSIMカードを発行しているMVNOも存在する。そのようなMVNOは「フルMVNO」と呼ばれる。このフルMVNOとしてのビジネスを維持するには多額の投資が必要となるため、「IoT向けサービスの提供」や「海外展開」など、市場を拡大していく必要がある。その一方で、フルMVNOは、現在の日本で主流の「格安」ありきのビジネスとは、必ずしも親和性が高くなく、現在のような「月1000円未満で3GBのデータ通信」といった格安の料金体系が崩れる可能性もある。

 佐々木氏は「アンバンドルが進んでいくことに対しては、どのMVNOも前向き」ではあるが、「難しいかじ取りを迫られている」と話す。HLR/HSSが開放されて、これを保有するMVNOが現れたときに、どんな新しいサービスが生まれるのか。まだ課題は多いが、サービスの差別化につながることは確かだろう。

IIJ HLR/HSS開放後のビジネスモデル

IIJのモバイル回線は100万を突破

 なお、IIJのモバイル回線サービスは、個人向けと法人向けを合わせ、2015年12月末時点で100万回線を突破し、107.3万回線に達した。総回線数は順調に推移しており、特に2015年に大きな伸びを見せた。ネットワーク本部モバイルサービス部長の安東宏二氏は「これからも新しい技術や機能をどん欲にやっていき、インフラも拡充させていく。コンシューマー向けには自ブランド(IIJmio)をショーケースにして、法人やIoT(インターネット接続できるさまざまな端末)については、業種業態を問わず、エコシステムを構築していきたい」と意気込みを語った。

IIJ IIJモバイルサービスの契約数推移。特に2015年以降の伸びが顕著だ
IIJIIJ IIJの現状を説明する安東氏(写真=左)。100万回線突破を記念したキャンペーンを実施する予定(写真=右)

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