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» 2016年04月08日 18時53分 UPDATE

MVNOの深イイ話:「MVNE」は具体的に何をしているの?

MVNOという言葉は、読者の皆さまには少しずつそのイメージが伝わっていると思います。今回は、MVNOとよく似ている言葉、「MVNE」についてご説明したいと思っています。MVNEは「Mobile Virtual Network Enabler」の略です。では具体的に何をしているのでしょうか?

[佐々木太志,ITmedia]

MVNOとMVNE、似てるけどちょっと違う

 この連載では、これまでMVNOのことを取り上げてさまざまなテーマで解説を試みました。MVNOという言葉は、まだまだ一般に普及しているとはいいがたいですが、読者の皆さまには少しずつそのイメージが伝わっているものと思います(もし今回初めてこの記事をご覧になった方でしたら、ぜひバックナンバーをご一読ください)。今回は、MVNOとよく似ている言葉、「MVNE」についてご説明したいと思っています。

 まず辞書的な意味を調べてみましょう。MVNEは「Mobile Virtual Network Enabler」の略です。MVNOとは、最初の3文字までが全く同じで、最後のフレーズだけが異なります。MVNO(仮想移動体通信事業者)の4文字目の"Operator"は、「事業者」という訳語がここでは適切です。では"Enabler"とは何でしょう? 私の知る限り、このEnablerに相当するうまい日本語はありません。enableは「○○を可能とする」という動詞ですから、強いていえば、「可能とするための手助けをする人」、意訳では「仮想移動体事業請負人」、くらいでしょうか。うまい訳語はなくとも、MVNOを手伝う業態の事業者なのかなあ、と類推していただけるでしょう。それでは、詳しく見ていきましょう。

Enabler(イネーブラー)の仕事とは

 前回、ご紹介したように、それまでは単純再販型のMVNOとしてMVNO事業に参加していた流通業やコンテンツプロバイダーなどの事業者(電気通信事業者ではないという意味で、われわれ電気通信事業者から見れば「異業種」となります)が、次々にレイヤー2接続により登場した「格安スマホ」事業へと参入を希望するようになりました。ですが、レイヤー2接続をするためにはPGW、GGSNと呼ばれる交換機を運用してMNO(携帯電話会社のことで、ドコモやKDDI、ソフトバンクを指します)と網間接続を行う必要があり、異業種からの新規参入組にはこれが高いハードルとなっています。

 そのため、日本では、後発の異業種の事業者が、既にレイヤー2接続を実現している先行のMVNOのノウハウを元に、先行MVNOの設備に乗って、「格安スマホ」事業に参入することが増えてきています。この時、設備やノウハウを提供する先行MVNO側のビジネスを、「MVNE事業」と呼びます。MVNEをうまく活用することで、このビジネスに参入する後発の異業種の事業者にとって、本来持っているビジネス(本業)とは無関係な電気通信事業への設備投資を最低限に抑えつつ、その収益を多様化することは、非常にメリットのある話だと思います。

先行MVNOがMVNE事業を行う訳

 ここまで、後発の異業種の事業者が、先行するMVNOのノウハウや設備を必要とする理由をご説明しました。それでは、なぜ先行してレイヤー2接続を実現したMVNOが、あえてMVNE事業を行うのでしょうか?一般の業界では、先発の事業者が後発の事業者の市場参入を応援することはあまり見られません。ここに、MVNOの成長のために必要なものが隠れています。

 MVNOはその当初から、「安さ」を武器にMNOに対し勝負を挑みました。しかし、MVNOは徐々にそのシェアを伸ばしつつはあるものの、MNOの規模にはまだ遠く及んでいないのが実情です。その理由は、主にブランドアピールと営業力・サポート力の差にあります。

 ドコモ、KDDI、ソフトバンクといったMNOは、長年に渡り携帯電話事業を続けてきたため、消費者にとってなじみのあるブランド名となっています。それに比べ、MVNOは多くの消費者にとっては聞き慣れないブランドで、簡単には消費者の認知を獲得し、安心感を与えることができません。またMNOは全国に多くのショップを運営し、併売店を含めた店舗ネットワークが存在します。MVNOは、一部のMVNOが直営店や量販店内のカウンターを有しているものの、MNOがショップで提供している営業力、サポート力からみると、その実力はまだ足下にも及ばないというのが正直なところです。

 こういったブランドイメージや店舗ネットワークは、MVNOにとって一朝一夕で確立できるものではありません。そのため、先行してMNOに挑戦しているMVNOにとっても、既にブランド力や店舗ネットワークを持つ後発のパートナーのMVNO事業参入を支援するメリットがあります。こういったパートナー企業の参入は、先行MVNOが容易に獲得できない利用者層へのMVNOサービスの浸透につながります。自前で全てを行わず、自らにない力を持つパートナー企業と組むのも、MVNOらしいビジネススタイルといえるでしょう。

photo MVNOとMVNEの関係

「で、どこがMVNE?」

 最近では新規参入のMVNOの多くが、先行するMVNOをMVNEとして利用しています。そのため、新しいMVNOの事業参入のニュースが流れると、TwitterなどのSNSでは、どの先行MVNOがMVNEとなっているのかを推測する書き込みが多く見られます。中には、APN等の設定、IPアドレスの逆引き、tracerouteなどの手段で、技術的にどこがMVNEなのかを当てる人もいます。

 これほどMVNEを当てることに執心であるのは、単純な好奇心もあるのかもしれませんが、どの先行MVNOが設備を提供しているかにより、通信品質やサービスの機能に差があるからかもしれません。MVNOには事業者ごとに通信品質やサービスの機能に差があることが知られています。皆さんの中には、もしどの先行MVNOがMVNEとして設備を提供しているかが分かると、その新規参入MVNOの通信品質やサービスの機能を(事業開始前に)予測できる、と思われている方がいらっしゃるかもしれませんね。

 ただ、実のところMVNEとMVNOの契約はさまざまです。MVNEが行っているMVNOサービスと似た内容のサービスを提供していることもあれば、専用に通信帯域や通信設備を確保する、独自のサービスの機能を提供するなど、さまざまにカスタマイズした契約をしている場合もあります。MVNEがどこかを当てることで、何かの参考になる場合は多いでしょうが、それが全てではないということをご理解いただくと良いと思います。

海外のMVNE

 MVNEという業態は世界にも存在します。ただ、海外では日本と異なり、自らMVNOを営んでおらず、つまり通信設備を持っていない、また通信設備を持っていても自ら直接は消費者向けのサービスを営んでいない事業者がMVNEとなっているケースが比較的多いように感じます。

 このようなMVNEの場合は、自らの顧客であるMVNOの支援においても、例えばその国の電気通信産業に存在する法規制や効率的な市場開拓に関するコンサルティング、顧客管理システムや課金システムの開発受託、キャリアとの交渉窓口業務など、コンサルティングやインテグレーションを主に担当するというイメージです。

 これは各国の市場の特性により、MVNEとして求められることが非常に多様であることを示します。MNOの設備をそのまま利用してMVNOがビジネスを展開している例が多い国では、MVNOにとっては設備の運用を行う必要はありません。MVNOとしてビジネスを開始するにあたり一番高いハードルが、市場の分析や市場開拓であったり、法規制を順守することであったり、はたまた顧客管理システムや課金システムの運用であったりするケースが多いのです。

 また国によっては、MNOとMVNOの交渉がより洗練されていて、MVNOの規模によってはMNOから大幅なディスカウントを獲得できることが当たり前の国もあります。そういった国では、自らエンドユーザービジネスを行わず、直接エンドユーザーにサービスするMVNOの契約を束ねて一本化して規模をアップし、MNOからのディスカウントを勝ち取るタイプのMVNE(MVNA=Mobile Virtual Network Aggregatorと呼ばれる)が存在することもあります。

 日本には、後者のMVNAと呼ばれるMVNEは今のところあまり見られませんが、今後、MNOとMVNOの力関係が変わっていくと、このようなビジネスモデルが国内でも普遍化していくかもしれません。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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