HLR/HSSをMVNOに開放すると何が起きるのか?――IIJ佐々木氏が説明IIJmio meeting 11

» 2016年04月13日 19時50分 公開
[房野麻子ITmedia]
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 2015年秋に、安倍首相が携帯電話料金に関してコメントしたことから始まった、携帯電話料金に関する一連の騒動。その中で「HLR/HSS」という言葉がWebメディアで頻繁に取り上げられるようになった。HLR/HSSは「加入者管理機能」とも呼ばれ、これがMVNOが解放されることで、新たなサービスが生まれることが期待されている。

 4月9日に行われたIIJ(インターネットイニシアティブ)のイベント「IIJmio meeting 11」で、同社のネットワーク本部技術企画室 担当課長 佐々木太志氏は、HLR/HSSが注目された背景、HLR/HSSの解放についてIIJがどのように考えているかを説明した。

HLR/HSSが行う「認証」と「位置登録」

佐々木太志 IIJの佐々木太志氏

 HLR/HSSという言葉を目にする機会が増えたのは、安倍首相の「携帯電話料金が家計の負担になっている」という趣旨の発言をきっかけに、総務省が「携帯電話料金に関するタスクフォース」が開催してからだ。5回目の12月16日に有識者による報告書が取りまとめられ、その中で3つの検討課題が挙げられた。利用者のニーズや利用実態に合った料金体系、実質0円等、端末価格ではなくサービスや料金を中心とした競争への転換とともに、MVNOサービスのさらなる低廉化、多様化という課題が示された。

 このMVNOについての検討課題の中で、加入者管理機能が「開放を促進すべき機能」と位置付けられ、事業者間協議を加速すべきとされた。この加入者管理機能がHLR/HSSだ。

HLR/HSS 携帯電話料金に関するタスクフォースが行われた時期から、HLR/HSSという言葉が一般メディアで使われるようになる
HLR/HSS 報告書で3つの検討課題が取りまとめられ、MVNOに関しては加入者管理機能(HLR/HSS)の開放が促進すべき機能に位置付けられた。

 HLR/HSSとは、携帯電話ネットワーク内にある機械の名前だ。「大きいものだと高さ2メートル、幅90センチくらい、1人で持ち運べないくらいで、小さいものだとラックに差せるくらいのサーバ」(佐々木氏)で、SIMカードを管理するためのデータベースが入っている。電話番号やIMSIなどさまざまなID番号と、通信の暗号化のための鍵という、非常に重要なデータが収められている。

 ごく簡単に言ってしまえば、携帯電話の通信は、HLR/HSSの中に入っている鍵を使って音声やメールなどを暗号化して電波で送り、それを受信した端末がSIMカードの中にある鍵を使って解読して音声やメールを聞いたり見たりしている。

HLR/HSS HLR/HSSは、SIMカードを管理するためのデータベース。さまざまなID番号と暗号化の鍵が入っており「認証」と「位置登録」を行う

 このデータや鍵を使って行う代表的な2つの機能が「認証」と「位置登録」だ。認証は、端末がネットワークに接続したとき、どのサービスの利用を許すかを制御する。例えば、使えないSIMカードでアクセスしたとときに圏外にする、データ専用SIMカードなら音声通話はさせないといったように、細かく制御する。端末がどのサービスを利用できるか、有効なSIMカードなのかを問い合わせるのが認証だ。

 位置登録は、端末が、たくさんある音声交換機の中で、どの交換機の管轄下にあるかを記録する。例えば、外部から電話がかかってきたとき、ネットワークは端末がどこにあるかをHLR/HSSに問い合わせ、どの音声交換機の管轄下にあるかを確認する。位置が分かると、管轄下の交換機に電話がかかってきているので、着信音を鳴らしなさいと指示する。

HLR/HSS開放のメリットと課題

 携帯電話事業者(ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど大手キャリア)がMVNOに設備を貸し出すことを「アンバンドル」と呼ぶ。ガイドラインに記載された4条件が満たされた場合には、携帯電話事業者はMVNOに設備をアンバンドルしなくてはならない。その条件は以下の通り。

  1. 他の事業者から要望があること
  2. 技術的に可能であること
  3. 携帯電話事業者に過度の経済的負担を与えないこと
  4. 必要性・重要性が高いこと

 これら4つの条件を満たす機能は「アンバンドル機能」となり、携帯電話事業者は接続約款に貸出条件を決め、MVNOが求めた場合には設備を貸し出さなくてはならない。

HLR/HSS 4つの条件を満たす機能はアンバンドル機能として定められ、設備の貸し出しが義務付けられる

 4条件のうち、1と4が満たされ、2と3が満たされていない場合は、開放を促進すべき機能として定められ、事業者間協議による合意形成を図らなくてはならないとされる。

 HLR/HSSは開放を促進すべき機能と位置付けられるが、佐々木氏は「MVNOにとって必ずしも必要なものではないと思っている」と述べている。実際、MVNOはHLR/HSSを持たずとも、借りて事業を行っている。

HLR/HSS HLR/HSSはMVNOにとって必ずしも必要なものではない

 しかし、HLR/HSSを独自に運営するようになると、MVNOは大手キャリアからSIMカードを借りる必要がなくなり、SIMカードを独自に調達、発行できるようになる。SIMカードの外観を好きなデザインにできるということ以外に、SIMカードの中にMVNOが発行したものであることが書き込まれ、携帯電話事業者以外の通信事業者のサービスを提供するなど、MVNOがSIMカードの内部もデザインできるようになる。

 例えば、仮に海外で携帯電話を利用する場合、現状のドコモのSIMカードであればドコモの海外ローミングサービスであるWORLD WINGをMVNOは提供せざるを得ない。しかし、独自にSIMカードをデザインできるようになると、現地の通信事業者とMVNOで合意ができれば、現地通信事業者のプリペイドサービスを日本の利用者に対して、SIMカードの入れ替えなしで提供できるようになるのだ。

 しかし、HLR/HSSの開放には幾つかのハードルがある。まず、HLR/HSSを運用するための技術的な方法がまだ決まっていない。大手キャリアは、安定運用やセキュリティ面に懸念を持っている。また、大手キャリアは、HLR/HSSの開放が必要だと思っておらず、MVNOと見解が異なっている。さらに、コスト面の問題も大きい。機器導入にコストがかかるだけでなく、ネットワークを改造する必要もあり、コストは莫大なものになると予想される。

 MVNO側にも問題がある。HLR/HSSが開放されることで可能になるサービスのイメージが描けず、収益が上がるか疑問に思うMVNOもある。さらに、海外の事業者が日本に参入しやすくなることで、日本の通信事業者にとっては厳しい状況になる。「われわれが海外に出られるのであれば対等に戦うことも可能だが、海外から入ってくるだけではマズイ状況になる」(佐々木氏)

HLR/HSS HLR/HSSの開放には5つのハードルがある

 なお、MVNOが独自にSIMカードを提供するようになると、端末はSIMロック解除が必要になる。現在はIIJmioのSIMカードをドコモのロックされた端末に挿しても使えるが、独自SIMを使うようになるとそれができない。

HLR/HSSと音声サービスはあまり関係がない

 なお、HLR/HSSは音声通話サービスにはほとんど関係ないそうで、「どの交換機経由で着信音を鳴らすか管理しているくらい」(佐々木氏)だという。一部で報道されたように、HLR/HSSの開放は、通話定額や割引で音声通話サービスを低廉化するものではない。

 大手キャリア以外の事業者と提携して音声通話サービスを提供することは可能だが、携帯電話向け音声サービスを提供している事業者は日本にほとんどなく、パートナーを探しにくいという問題がある。また、最近の携帯電話ユーザーは通話をあまり利用しないため、収益性や成長性が期待できないとも指摘する。

 しかし、欧州には独自のSIMカードを調達して、それを管理するためのHLR/HSSを保有するMVNOが多数存在する。こうしたMVNOは「Full MVNO」と呼ばれている。一方、HLR/HSSを保有していないMVNOは「Light MVNO」と呼ばれ、現時点の日本のMVNOは全てLight MVNOだ。

 「Full MVNOのビジネスは、既存ビジネスに加え、IoTや国際展開など、従来の枠を超える新規事業を設定しているところが多い」と佐々木氏は指摘。Full MVNOは一般に多額の設備投資を必要とするため、事業を拡大していくケースが多いという。そのため、さらなる値下げを求められる「格安スマホ」「格安SIM」とHLR/HSSの解放は「親和性が高くない」というのが佐々木氏の考えだ。

HLR/HSS HLR/HSS開放が行われている欧州のFull MVNOは、従来の枠を超える新規事業を展開し、事業を拡大していくケースが多い。多額の投資が必要で「格安」とは親和性が高くない

 「もっといろんなビジネスをしていくMVNOが登場するときにHLR/HSSが利用され、それによって新しいサービスが提供され、ユーザーにとってメリットになると予想している」と佐々木氏は語る。そういった事業領域にチャレンジするMVNOの登場が期待されるとしながらも、現時点でIIJがHLR/HSSについて決めていることはないとのこと。しかし、「よりサービスを拡充させるための挑戦は前向きに取り組んでいく」とも佐々木氏は語った。

HLR/HSS IIJのFull MVNOに対する考え

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