連載
» 2016年05月02日 11時03分 UPDATE

MVNOの深イイ話:格安SIMは災害時でも利用できる? (1/2)

4月に発生した熊本地震では、多くの方が「MVNOのサービスは災害時でも利用できるのか?」と疑問を持ったようです。大手通信キャリアとMVNOでは事情が異なる部分があります。今回は災害時にMVNOのサービスがどんな影響を受けるのかを解説します。

[堂前清隆,ITmedia]

 2016年4月に発生した熊本県地方の震災では、多くの方が連絡手段、情報収集手段としてスマートフォンや携帯電話をご利用になったかと思います。東日本大震災が発生した2011年と比べると、今回の震災ではMVNOが提供する「格安SIM」「格安スマホ」が普及したことが大きな違いでしょう。こうした状況で、多くの方が「MVNOの提供するサービスは災害時にも利用できるのか?」という疑問を持たれたようです。

 IIJでは以前より機会を見つけて個別の事象についてお答えしてきましたが、今回の注目の高まりを受け、あらためて「災害発生時のIIJmioのご利用について」というお知らせを作成し、公開いたしました。

 ここで取り上げた事項は、大きな災害の発生直後に皆さんに意識していただきたい項目です。この記事が掲載された時点では既に通信環境はおおむね平常状態に戻っていますので、特別注意していただくことはありません。ですが、次の災害がいつ発生するか分かりませんので、今のうちに目を通しておいていただけると良いのではないかと思います。

 先に挙げた記事は、さっと目を通せるように結論のみをまとめています。ですが、幾つかの点においてドコモ、au、ソフトバンクのようなキャリアとIIJmioのようなMVNOでは事情が異なる箇所があり、ご説明を不思議に思われた方もいらっしゃったようです。今回はこの連載の場を借りて、その背景についてご説明いたします。

 なお、前述のまとめはIIJmio、およびIIJmioが利用しているドコモの設備を前提としていますが、他のMVNOでも技術的な背景はおおむね同様です。この記事ではMVNO一般の話題として取り上げます。

キャリアとMVNOの同じところ、違うところ

 この連載や他の記事でも度々取り上げられている通り、MVNOはアンテナや基地局、基地局間をつなぐ光ファイバーのネットワークをキャリアから借りています。そのため、災害によってこれらキャリアの設備が損壊すると、キャリアと同様に通信が行えなくなります。このような障害は、特定の地域ごとに発生するものです。アンテナ・基地局の障害の場合周囲数百メートルから数キロ、光ファイバーの場合はさらに広域に影響が出る場合があります。キャリアの設備の被災状況については、キャリアの障害情報が参考になるでしょう。

 一方、これらの設備に損傷がなかった場合でも、通話や通信に影響が出ることがあります。これは主に通信の集中による混雑が原因です。災害直後には通話・データ通信が急増します。これが交換機やルーターなどの通信機器の能力を超えてしまうと電話がかからなくなったり、通信速度が低下したりという現象が発生します。この現象は通話とデータ通信で事情が異なりますので、個別に説明をしたいと思います。

災害時の通話

 災害発生直後には携帯電話に限らず固定電話も含め、被災地を中心に緊急通報(110番、119番、118番)や、安否確認のための通話の利用が殺到します。殺到した通話が電話交換機の能力を超えると、あふれた分は通話ができません。それがひどくなった状況を「輻輳(ふくそう)」と呼びます。輻輳状態になってしまうと交換機が本来の能力を発揮することができなくなり、ますます混雑に拍車をかける場合があります。さらに、被災地での輻輳が他の地域にも波及することで、より広域の電話網が機能不全に陥る可能性があります。

 電話網では輻輳を避けるために、通話が殺到する被災地宛、被災地発の通話の一部をわざとつながらなくする「発信規制」「接続制限」を行います。このように予防的な措置を実施することで、緊急通報や役所間の通話など重要な通話を確保しています。携帯電話の場合、これらの規制はキャリアが実施します。

 日本のMVNOは現時点では通話のための設備を持っていません。MVNOの通話対応SIMを利用している場合でも、実際に通話のために使われる設備はキャリアのものです。そのため、通話に対する規制についてもキャリアが実施しているものがそのまま適用されます。

 通話規制が実施された場合は、通話を行おうとしてもそもそも発信できなかったり、発信できたとしても「混雑のためこの通話を接続することができない」という意味のトーキー(音声案内)が流れたりします。その場合はむやみにリダイヤルせずに、災害用伝言板やLINEやTwitterなどのメッセージアプリでの連絡を試してみてください。

 なお、VoLTEは音声通話にもデータ通信(パケット通信)を新しい使う方式ですが、通話の規制については従来と同様に行われます。VoLTEに関する設備はMVNO側にはなく、キャリアの設備が使われています。MVNO利用者がVoLTEを使っている場合でも、通話の規制はキャリアと同様に行われます。

災害時のデータ通信

 災害直後にデータ通信が殺到した場合は、音声通話と異なり、全く通信が行えなくなるような規制は行われないようです。ただし、通信の殺到に伴い通信機器の能力を超える事態が発生すると、通信速度が全体的に遅くなったり、時間切れによる通信エラーが発生しやすくなったりします。

 この現象自体はキャリアであってもMVNOであっても同様ですが、その影響範囲がキャリアとMVNOで異なります。これは、データ通信においてはMVNOは独自の設備を保有しており、MVNOのSIM利用者の通信はキャリアのSIM利用者の通信と異なる経路を流れるためです。

 データ通信で通信速度が遅くなる要因は幾つもありますが、災害発生直後のことを想定した場合、大きく次の2カ所が挙げられます(下記図版の赤で囲った部分)。

MVNO深イイ話

 基地局における混雑はキャリアのSIM・MVNOのSIMどちらの利用者にも影響しますが、影響範囲は局地的です。ある基地局が混雑していても、それはその基地局周辺にだけ影響するもので、ほかの地域の利用には影響はありません。

 一方、キャリアとMVNOの接続回線の混雑は、MVNOのSIMにだけ影響するものです。この連載の以前の記事でも紹介しましたが、MVNOは接続回線の通信容量(通信速度)に応じて費用をキャリアに支払う必要があるため、「格安SIM」「格安スマホ」として営業している多くのMVNOでは急な通信量の増強に対応できる回線を確保できていないことが多いと思われます。

 このため、災害が発生してデータ通信が殺到した場合には、接続回線が原因となって速度低下が起こる可能性があります。これはキャリアにはない弱点といえるでしょう。

MVNO深イイ話

 また、キャリアとMVNOを接続している回線は、1カ所〜2カ所です。この回線に日本全国のMVNOのSIM利用者の通信が集約されています。このため、接続回線が原因の通信速度の低下が発生した際には、日本全国で同時に速度の低下が起こることになります。

 先に挙げたIIJからのお知らせでは、こういった事情を考慮し、災害発生直後には被災地でスムーズに通信を行っていただけるように、被災地域以外での通信にも気を配っていただくようにお願いさせていただきました。

 具体的には、動画の視聴やスピードテストのような通信量が多い使い方を一時的に避けていただくということです。最近は災害発生直後にテレビ放送をスマホで視聴できるようにネットで再配信するような取り組みがありますが、もし、近くにテレビがあるならスマホではなくテレビで視聴いただいた方が通信量の節約になります。また、スピードテストのような不要不急の通信は控えていただくことにも意味があると考えています。

 なお、こういった対応は災害発生直後に限られます。ある程度状況が落ち着くと通信の需要も平常に戻りますので、通常通りの利用に戻していただいて結構です。

熊本地震でIIJmioのデータ通信はどうなった?

 2016年4月の震災直後にも、データ通信の需要は増加しました。IIJmioでの状況を観察していると、地震直後に普段の通信よりも多めの通信が行われたような傾向 は観測されましたが、接続回線を使い切るような極端な増加はなかったようです。結果的に、今回の地震ではIIJmioご利用の皆さまには接続回線の混雑で通信速度が低下するような現象は発生していなかったと考えています。


基本情報から価格比較まで――格安SIMの情報はここでチェック!→「SIM LABO

格安SIM、SIMロックフリースマホのすべてが分かる

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.