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» 2010年06月14日 08時30分 UPDATE

Ericsson Business Innovation Forum 2010:スマートフォンの普及でARPU向上の可能性も――Ericssonに聞く業界動向

iPhoneやAndroidの台頭、Googleのサービス参入など携帯電話業界には急速な世代交代の流れが押し寄せている。これはアジア市場も例外ではない。EricssonとST-Ericssonのキーパーソンに、最近の業界動向やトレンドを聞いた。

[山根康宏,ITmedia]

ケータイを使う理由の1つは“時間とお金の節約”

 世界の中でも先進的なサービスが急速に展開されつつあるアジア市場。長年にわたってアジア市場に関わってきたEricsson アジアパシフィック・イノベーションセンター社長のヤン・シグネル氏にアジア市場の動向を聞いた。

photo Ericsson アジアパシフィック・イノベーションセンター社長 ヤン・シグネル氏

――(聞き手:山根康宏) アジア市場の最近のトピックやトレンドを教えてください。

シグネル氏 私はこの20年間、アジア市場を見てきました。最近の大きな話題はインターネットと携帯電話の融合が、世界で急速に加速していることでしょう。また各国を見ると、アジアの中では日本と韓国、そして台湾や香港が他国よりも一歩進んだ先進的な市場になっています。

 私はEricssonの日本法人立ち上げの時に日本で仕事をしていましたが、特に日本の動きは当時から世界を数年リードしていました。例えば日本ではユーザーが最初にインターネットを利用する製品が携帯電話になりつつあります。これからの世界のトレンドを予測するのならば、日本市場の動向が1つの指針となると考えています。

―― ここ1〜2年でスマートフォンの普及が進んでいますが、市場にはどんな影響が見られるでしょうか。

シグネル氏 スマートフォンの普及は世界中で大きな流れとなっています。特にAppleのiPhoneはインターネットとモバイルの融合を大きく加速させました。その後に登場したAndroidもスマートフォンの意義を「インターネット端末」に変え、業界全体に大きな影響を与えています。

 そしてスマートフォンの利便性は、人々に「もっとコミュニケーションにお金を払ってもよい」という意識を与えています。従来の携帯電話向けの音楽ダウンロードサービスだけではなく、アプリケーションの販売など、新しいビジネスが登場しています。その結果、スマートフォンの利用もプロフェッショナル、ビジネス、エンターテイメントなど細分化が始まっています。

―― スマートフォンが普及して音声通話時間が減少し、データ定額が利用されることで、通信事業者のARPUが下がるといったことにはならないのでしょうか。

シグネル氏 人々が携帯端末を使う理由の1つは、時間やお金を節約できるからです。スマートフォンユーザーは、そこで節約できた分を、ほかのコストに払う傾向が見られるようです。例えば通信事業者が提供する新しいサービスを利用したり、アプリケーションを購入したりすれば、結果として消費者が支払う金額は従来と同等、あるいはそれ以上になる可能性もあります。

中国では継続的に優秀な人材を集められる

―― ここ数年、端末やサービスなどあらゆる分野で中国などの新興企業が台頭しています。業界内での競争はより激しくなるとお考えでしょうか。

シグネル氏 競争は今に始まったことではなく、はるか昔から存在しています。例えばGSMのインフラベンダーも以前は10社以上が競争していました。Ericssonはこの競争の中で長年ノウハウを蓄積し、政府や関係各社などと強い信頼関係を築き上げてきました。我々は世界中の多くの国で長くビジネスを展開しており、中国市場でも約120年の経験を持っています。この「経験」が当社の最大の強みであり、新興企業と大きく差別化できる点だと考えています。

―― 最近は携帯電話業界でもGoogleの影響力が高まっています。Googleは脅威になっていくと思いますか。

シグネル氏 携帯電話の世界はコンピュータやインターネットの世界とは違い、技術進化の根底にある思想は「共通化」です。また通信事業者が大きな影響力を持っています。すなわち携帯電話業界で重要なのは技術そのものではなく、「グローバルスタンダード」なのです。これからGoogleがどのような動きを見せるのか、その点に注目しています。

―― 御社が研究開発拠点を中国に置くメリットはどこにあるのでしょうか。

シグネル氏 当社と中国は長年のビジネス上の付き合いがありますが、それと研究所を設置する理由は関係ありません。中国に開発拠点を置く最大のメリットは、高い能力を持った人材を多数集められるからです。また、研究開発の結果を商用化するためには長い時間がかかります。継続的に優秀な人材を集められる――それが中国のアドバンテージなのです。

―― 最近は4Gの名前もメディアでよく見かけますし、LTEもTD方式とFDD方式が存在するなど、通信業界は新しい用語が次々と登場しています。ユーザーはこの状況に混乱していると思うのですが。

シグネル氏 GSMも3Gも、そしてLTEも技術的にはすべて「無線」です。例えば家庭用の電球を買うときに、ユーザーはその素材や技術的な違いを考えずに「電球」を購入しているでしょう。携帯電話業界では、今は新しい技術が次々と登場してさまざまな名称がつけられていますが、いずれは分かりやすく統一された名前が提唱されるのではないでしょうか。

Appleと競合することはない――ST-Ericsson

 一方、最近の携帯業界は、世界的にどのようなトレンドが見られるのだろうか。ST-Ericsson 上級副社長のチェリー・タングル氏に、チップセットメーカーとしての視点から話を聞いた。

photo ST-Ericsson上級副社長 チェリー・タングル氏

―― 御社は複数の携帯端末向けチップセットプラットフォームを提供していますが、開発の基本戦略を教えて下さい。

タングル氏 以前はカスタムプロダクトも手がけていましたが、最近はオープンなプラットフォームを開発し、その上で各ベンダーさんが自由にOSを選択して搭載できるように戦略を変えています。チップセットプラットフォームをオープン化、共通化することは結果として端末ベンダー側にとっても選択肢が広がるメリットがあるでしょう。ちなみに当社は端末マーケットシェア上位の4社など、メジャーベンダーとも深い関係を保っています。

※初出時に、チェリー・タングル氏の名前に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(6/16 16:26)

―― チップセットの開発には時間がかかると思いますが、どのような体制で実行しているのでしょうか。

タングル氏 当社は常に市場の動向をリサーチし、数年先にユーザーが求めるであろう機能やテクノロジーの発展を見越してチップセットを開発しています。例えばスマートフォン向けの最新チップセット「U8500」は約2年前から開発を進めていました。また当社にはプロダクト、マーケティング、ソフトウェア、研究開発部門がありますが、このうち研究開発部門に多数の人員を置いています。

―― チップセットメーカーとして、最近の携帯端末のトレンドをどう見ていますか。

タングル氏 やはりスマートフォンが急増していることが大きなトピックでしょう。特に画面の大型化やグラフィックエンジンの性能向上によりユーザーのマルチメディア利用が増えています。スマートフォンはビジネス向け、リッチコンテンツ向けなど今後はセグメント別の製品が増えていくでしょう。一方で低価格のスマートフォンも増えており、ユーザーの拡大に一役買っているようです。

 また3GからHSPAへの移行が進み、LTEの足音も聞こえています。通信速度の劇的な向上は携帯端末の新しい使い方を提唱するでしょう。一般的な携帯電話でもBluetoothやGPSに加え、最近はWi-Fiが搭載される機種も多く、近いうちに(近距離無線通信規格の)NFCも搭載されるなど、大幅に機能が強化されていくでしょう。さらに忘れてはならないのが、低エネルギーコストへの対応です。低い消費電力で稼働するだけではなく、長時間利用できる製品の要求も高まっています。当社は1000mAhのバッテリーで45日間待受可能なチップセットも用意しています。

―― スマートフォンなどのハイエンド端末は、次々と新機能を搭載した製品が登場しています。端末の高機能化によりチップセットの開発コストが上がり、それが端末価格の上昇を引き起こすことが懸念されます。

タングル氏 端末の高機能化が即コストアップを引き起こすとは限りません。新しいテクノロジーの競争によって開発コストは下がります。また、製品の出荷台数が増えれば、量産効果からもコストは下がるのです。端末の価格が今後上昇し続けることはないでしょう。

―― Appleは自社でA4プロセッサを開発するなど、独自のプラットフォームを作る動きを見せています。Appleは御社のライバルになりうると考えていますか。

タングル氏 AppleのA4は自社製品向けのものであり、当社のように端末ベンダーへの供給を前提とはしていません。また当社のチップセットはAndroidやSymbianなど多数のスマートフォン向けOSで利用できるので、Appleと競合することはないでしょう。

―― ST-Ericssonは多数のチップセットを開発していますが、例えば自社でOSを開発し、OSとチップセットを融合した製品を提供する考えはないのでしょうか。

タングル氏 当社の考えはあくまでもオープンなチップセットを提供することであり、その上でさまざまなOSを走らせることが可能です。そのため、自社で独自のOSを開発する考えは現時点ではありません。

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