3つの心得感動のイルカ(2/2 ページ)

» 2010年03月24日 14時00分 公開
[森川滋之,Business Media 誠]
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 「確かに」

 「ピンチというのはもう、ビジネスをしていて、自分が成長しつづけようと思うと必ず来るもんなんや。だから、ピンチとは友達になるのがええ。必ず来るもんを邪険にしてたら、それこそ大変や」

 「なるほど、ピンチを友達にする魔法の言葉が『ピンチは成長のチャンス』という言葉なんですね?」

 「そう。それや。猪狩君はやっぱり優秀な生徒や。だから、この言葉に関連した言葉をもう一つ教えたろ」

 「何でしょうか?」

 「それはな、どんな人にも、その人に乗り越えられない不幸は来ないということや。俺は日本の低迷はまだまだ続くと思ってる。今のは、ただの不況やない。数百年に一度の大転換期やと思うねん」

 「はあ」

 「だから、君にもこれからまだまだピンチや不幸は訪れるやろ。そのときに今の言葉を思い出してほしいんや。君に乗り越えられない不幸は来ないって、俺が言うてたってな」

 浩は聴いていて、勇気が湧いてきた。そうか、オレに乗り越えられない不幸はないのか!

 「ああ、うまいな。ほんまにしあわせや」。秋田は、いつの間にか運ばれてきた、生まれ故郷の兵庫県の地酒をガラスの杯で飲み干して、心の底から搾り出したという声でこう言った。

 「よっしゃ。それでは3つめや」

 「はい、お願いします」

 「今までのは、経営者というよりもビジネスマン、もっと言えば人間にとって必要な言葉やった。次のんは、リーダーにとってもっとも必要な言葉や。分かるか?」

 「率先垂範ですか?」。浩は最近読んだリーダーシップの本の中で、山本五十六のエピソードのまとめとして書かれていた言葉を思い出して、そう答えた。

 「まあ、それも重要やな。ただ、率先垂範はリーダーの必要条件や。実はもっと重要なことがある。それは、夢を語り続ける、ということや」

 「『夢』ですか?」

 「そうや。夢やと醒めるとかと思うんやったら、理念でも、使命でも、想いでもなんでもええ。要するに自社の存在価値が何かや。それを語り続けんとあかん」

 「語るだけではダメなんですね?」

 「そうや。続けんとな」

 「語り続けるか……」。浩にも夢や理念はある。それを自分は、語り「続けて」いただろうか?

 「俺の知り合いの社長で、いくら自分の夢を語り続けても、ぜんぜん社員に響かんというやつがおった」

 「はあ」

 「どのぐらいの頻度で語ってるんか訊いたらな、毎週全社員を、といっても20人ぐらいやけど、集めて語ってるって言うんや」

 浩は、率直にその社長は偉いと思った。自分は、そこまでやっていない。

 「俺は、あほかと言ってやった。そんなんで伝わるんやったら、おまえは歴史に残る名スピーカーやと」

 「それでもダメなんですか?」

 「常に語らんとあかん。リーダーのやるべきことは、命令や指示やない。常に熱く夢を語るということなんや。この人には一貫性があると分かってはじめて、部下は耳を貸そうという気になるんや」

 浩は、少し恥ずかしくなってきた。

 「俺はな、リーダーたるもの朝令暮改を恐れるなとも言ってる」

 「矛盾してませんか?」

 「朝令暮改はな、単なる作戦変更や。作戦は臨機応変に変えんとあかん。ただな、作戦変更ができるのは、筋が通ってるからなんや。理念の部分で一貫していたら、作戦なんか変えてもいい。でも、理念が伝わってなかったら、またあの社長は言うことが変わっとると部下は思うんや」

 なるほど、そういうことか。

 「それと語り続ける理由は、もう一つある」

 「なんでしょう?」

 「猪狩君は、俺がくそ忙しいのに、なんで講演やセミナーを時間の許す限り引き受けるか分かるか?」

 「それは、先生の教えを伝えるという使命感があるからでは?」

 「謙遜やないが、俺の話なんかあたりまえのことばっかりや。教えというほどたいそうなもんやない。どちらかというと俺の事情や」

 「分かりません」

 「語り続ける場が欲しいからなんや。人前で語り続けんとな、当たり前のことでも、いつか忘れてしまう。それを俺は一番恐れてるんや」

 そうか。自分に向かって語り続けるのか。だから、この人はブレないんだ。

 「猪狩君。3つ、憶えてるか?」

 「はい。あきらめない、ピンチは成長のチャンス、夢を語り続ける」

 「そうや、すんなり入ったか?」

 「はい、納得しました」

 「うん、君は素直やな。これはすごく大事な資質や。今のままでええぞ、君は」

 涙が出た。そうなのか。今の自分でいいのか。

 「君は、もしかしたら自分がずっと地獄にいたと思ってたかもしれん。でも、本当は、君はずっと天国にいたんや。だからそんなにすばらしい君がいる。いい修行をしてきたな」

 「ありがとうございます」

 浩は、秋田が差し伸べてきた手を強く握り返した。涙がとまらなかった。

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 著者・森川滋之が、あの「吉田和人」のモデルである吉見範一氏と新規開拓営業の決定版と言える営業法を開発しました。3時間で打ち手が分かるYM式クロスSWOT分析と、3週間で手応えがある自分軸マーケティングと、3カ月で成果の出る集客ノウハウをまとめた連続メール講座(無料)をまずお読みください。確信を持って行動し始めたい方のためのセミナーはこちらです。

著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)

 ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。

 奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。

 現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。


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