「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」 3G+WiMAX端末の“中身”を分解して知るバラして見ずにはいられない(2/2 ページ)

» 2012年06月12日 00時00分 公開
[柏尾南壮(フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ),ITmedia]
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3G・WiMAX・無線LAN、それぞれにチップを搭載

 冒頭で紹介した通り、モバイルWiMAXは携帯電話と無線LANの長所を取り入れたものだ。それだけに完全にどちらかと同じではなく、結果として独自の部品が必要だ。しかも部品サイズは大きい。ISW11SCにはCDMA用通信チップ、WiMAX用通信チップ、それに無線LAN用通信チップが搭載されている。これに加え、NFC(次世代近距離無線)も搭載しており、これも通信を行う。まさに通信機の塊である。無線LANのルータ、WiMAX用USB端末、携帯電話の3台を1つのボディに押し込んだような状態だ。通信の種類が増えると、通信をつかさどる水晶部品も増加すると言われており、ISW11SCには10個搭載されている。京セラ、シチズン、リバーエレテックなどの国内メーカーが外国勢とともに製品を供給している。iPhone 4Sの水晶員数が4個であることを考えると興味深い。

 主役のWiMAX通信チップは東芝製「TC31501」で、このチップ単体でWiMAX送受信とそのやりとり管理するベースバンド処理を担当する。さらに専用のフィルタやパワーアンプを周囲に配置している。アンテナも専用だ。これは、日本でのWiMAX用周波数が2.5GHzであり、携帯電話(3G)の周波数とは異なるため、違う長さのアンテナが必要になるためと思われる。

 CDMA送受信チップはQualcommの多機能チップ「QSC6085」で、ベースバンド処理、電源管理、GPSを兼ねている。ISW11SCのようなハイエンドスマートフォンでは、CDMA送受信は専用チップで行い、ベースバンド処理や電源管理などはさらに別個のチップで担当する場合が多いが、本機ではWiMAX用の部品スペースを確保するため、このような部品構成になったと考えられる。QSC6085の周囲にはノイズを除去するフィルタがちりばめられている。村田製作所やTDKが製造しており、Samsung電子製に限らず世界の多くの端末で使用されており、こうした企業が移動体通信を影で支えていることが分かる。

 無線LANは村田製作所製の長いモジュールだ。中には通信チップや周辺部品が詰まっている(今回は実施しないが、X線写真を撮影したり硝酸でパッケージを溶解したりすると、中が見られる)。基板に直接部品を実装する場合、基板に設定されている配線幅に合わせて部品を置く必要がある。部品を多数搭載しようとすると広い実装エリアが必要だ。しかしモジュール化してしまえば、モジュール上でさまざまな最先端の手法を駆使し、狭いエリアに多数の部品を詰め込む事が可能であり、端末の薄型化、小型化に貢献する。同社の無線LANモジュールは、世界の多くの端末で使用されている。

PhotoPhoto メイン基板再掲

背面のカバーにNFCのアンテナを搭載

 日本で「おサイフケータイ」の愛称で親しまれている電子決済サービスは2004年に始まった。これはNTTドコモの商標である。ソニーの「FeliCa」というチップを用いており、最近はAndroidスマートフォンにも搭載する機種が増えた。サービス開始当初はスマートフォンも少なく、しばらくはフィーチャーフォン(従来型携帯電話)専用の機能であった。離れた場所にある電子タグの情報を無線で読み取るRFID(Radio Frequency IDentification)技術の1つである。この技術の次世代版がNFC(Near Field Communication)で、送受信できるデータも増え、赤外線通信を利用したアドレス交換のように、端末同士を近づけてデータのやりとりをしたり、NFCでの電子決済を利用したりできるようになる。

 日本では大人気のおサイフケータイだが、電子決済機能を携帯電話やスマートフォンに持たせるという点で海外の普及はいまひとつである。今回分解したISW11SCは韓国Samsung電子の製品だが、その韓国でも、地下鉄などではSuicaのようなプリペイドカードや携帯ストラップのような電子トークンを利用する人が多い。普及のためには、紛失時の安全対策や、大ブレイクするようなサービスの準備が必要なのかもしれない。NFC用のICはオランダに本社を置くNXP Semiconductorが供給しており、今の時点ではNFCに対応するほとんどの端末が同社の製品を採用している。

 NFCの通信にアンテナは必須である。ISW11SCには、筐体、カバー、隙間にびっしりとアンテナが装備されている。

PhotoPhoto 筐体内のスペースにはアンテナがあちこちに張り巡らされている。3Gのアンテナは本体下部に、無線LANとBluetoothのアンテナは本体の左側面に位置する。NFCのアンテナはカバー側にあり、端子を介して本体とつながっている

 国内機能の1つとして定着しつつあるワンセグは、2011年3月11日の東日本大震災の折、携帯電話の発着信が制限される中で、デジタルテレビ放送の特性をフルに生かし、詰まることなく豊富な情報を発信しつづけ、ラジオと並び貴重な情報源となった。韓国でもSilicon Motionがワンセグ放送受信用ICを手がけているが、ISW11SCはワンセグ放送に対応していない。ワンセグも通信を行うため、専用チップに加え水晶部品など周辺部品を必要とする。アンテナも別途必要だ。基板スペースの関係から搭載が見送られたのかもしれない。

プロセッサはApple A4に類似するものと推定

 弊著「iPhoneのすごい中身」で、Apple A4プロセッサがSamsung電子製だと推定できたいきさつを述べている。海外の研究チームと共同でICチップを溶かして解析し、さまざまな調査を行った結果、関連性が確認されSamsung電子製と判断された。今回分解したISW11SCに搭載されているプロセッサ「Exynos C210」はこのチップの流れを受けたもので、Apple A5プロセッサに近いものと推測されている。

 Samsung電子製プロセッサの上には同じくSamsung電子製のDRAMがPoP(Package on Package)実装されおり、同社のフラッシュメモリと並び比較的大型で高額な部品を自社製品で揃えている。

ほぼ一人勝ちの富士通

 「KOREA」の刻印があるが、高画質カメラ用イメージプロセッサの分野で富士通(現 富士通セミコンダクター)は一人勝ちの状態である。ISW11SCには、富士通製の「MBG043」が搭載されている。富士通セミコンダクターはファブレス化(設計に専念し、製造は外部委託する業務形態)を打ち出しているため、韓国で製造されたようだが、設計は富士通で「Milbeaut(ミルビュー)」という名前で商品展開を行っている。通常は基板の上に実装されるが、ISW11SCでは本当にスペースがなかったためか、カメラモジュールの隣に小さな基板が設けられ、そこに実装されている。

PhotoPhoto KOREAの刻印があるチップが富士通セミコンダクターの「MBG043」。「Milbeaut」の愛称を持つこのカメラ用ソリューションは、富士通製スマートフォンにも採用されている

今後“ホット”になるもの

Photo ISW11SCのSUPER AMOLEDディスプレイの下には放熱のためのカーボングラファイト製シートが貼り付けられていた

 高性能化されるプロセッサ、大容量化するDRAM、微細化するディスプレイは文字通り温度が上昇し、ホットになるだろう。フルスピードで稼働中のプロセッサ直上は80度近くまで温度が上がるケースもある。PCと違い、冷却ファンを持たない携帯電話やスマートフォンの熱処理は今後重要性が高まり、関連技術はまさに「ホット」なビジネスである。現状でもさまざまな熱対策が試みられているが、とりわけ注目を浴びているのが炭素黒鉛(カーボングラファイト)だ。

 自然界の物質で最も熱効率が良いのはダイヤモンドといわれており、それと同じ素材の炭素が注目されている。本機でも炭素黒鉛のシートがディスプレイの下に貼付されていた。シートなのでスペースは最小限ですみ、原料は炭素なので入手も難しくない。放熱材料としてかなり前から製品化されていたようだが、ここにきて急速に注目を浴びている。現在のところ国内メーカのシェアが大きく、電子部品ではないが、日本が世界をリードする分野の1つと思われる。

 携帯端末の出荷台数でノキアを抜いて世界一になった事が報道されたSamsung電子。その影で意外と語られない数字がある。Samsung電子は今年、スマートフォンの生産台数でAppleを抜く見通しだ。とはいえ両社の差はまだわずか。端末のラインアップがほぼ1種類のAppleとバリエーションに富むSamsung電子のどちらが頭1つ抜け出すのか、注目である。

著者プロフィール:柏尾南壮(かしお みなたけ)

 タイ生まれのタイ育ちで自称「Made in Thailand」。1994年10月、フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズを設立し、法人格は有していないが、フリーならではのフットワークの軽さで文系から理工系まで広い範囲の業務をこなす。顧客の多くは海外企業である。文系の代表作は1999年までに制作された劇場版「ルパン三世」各作品の英訳。iPhone 4の中身を解説した「iPhoneのすごい中身」も好評発売中。主力の理工系では、携帯電話機の分解調査や分析、移動体通信を利用したビジネスモデルの研究に携わる。通称「Sniper Patent」 JP4729666の発明者。


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