インタビュー
» 2012年09月11日 09時34分 公開

LTE対応からクアッドコア、発熱問題まで――Snapdragonの“今と未来”を聞くQualcommインタビュー(2/3 ページ)

[田中聡,ITmedia]

クアッドコアCPU搭載の1チップ製品も開発中

photo QualcommのクアッドコアCPU付き「APQ8064」を備える「Optimus G L-01E」

 ここ最近、スマートフォンやタブレットにおけるトレンドの1つとして「クアッドコア」を耳にする機会が増えた。クアッドコアといえばNVIDIAの「Tegra 3」が有名だが、QualcommもクアッドコアCPUを備えるプロセッサー「APQ8064」を開発、供給している。日本ではNTTドコモがAPQ8064搭載のLGエレクトロニクス製スマートフォン「Optimus G L-01E」を10〜11月に発売する予定で、世界でも2012年末にAPQ8064搭載機が投入される。

 「スマートフォンにクアッドコアが必要か」という議論もあるが、Qualcommはどのように考えているのだろうか。須永氏は「コアの数が本質的なものかは別として、マーケティング的にもクアッドコアがフォーカスされています。クアッドの方が良い、優位性があるというイメージが、いろんな媒体を通じてエンドユーザーに広がっているところがあります。2012年末には、プレミアムなスマートフォンはクアッドコアに移行するという気運が高まっていますし、需要も急激に伸びています。現在の主流はデュアルコアのKraitを搭載したMSM8960なので、世界的に見てもMSM8960以上の数にはならないとは思いますが、年末からはクアッドコアの数が伸びていくと思います」と話す。「APQ8064にはモデムは含まれませんが、LTEモデムチップと組み合わせて使うことで、LTE、UMTS、CDMA2000にも対応します。この(APQ8064+モデムの)チップセットへの需要が秋以降に急激に伸びていくでしょう」と同氏はみる。

 現在クアッドコアCPUとモデムを分けているのは「タイミングによってはアプリケーションプロセッサーとモデムを切り離した方が、お客さん(端末メーカー)のニーズにより素早く応えられるため」だという。日本でも先述のとおり、GALAXY S II LTEやOptimus LTEなど初期のLTEスマートフォンにはアプリケーションプロセッサーとモデムを別々に搭載していた。「このころ投入した最初のLTEチップは、各キャリアのLTEサービス導入をサポートする役目を担っていました。LTEのネットワークを作るためには対応端末が必要ですが、そのトライアル用に使うチップでもあったので、冗長に作っているところがありました。LTEのいろいろな要望を満たしつつ、早く出さなければいけなかった。一方で、回路が冗長になることで、消費電力の面で甘くなってしまいました」と須永氏は振り返る。APQ8064には第2世代のLTEモデムであるMDM9215やMDM9615を組み合わせ、パフォーマンスの向上を図った。

 さらに、QualcommはクアッドコアCPUを備えた1チップの投入も準備している。これは「APQ8064と、第2世代のMDM9215やMDM9615が、そのまま統合されるわけではありません。より進化したモデムを統合させます」(須永氏)というので期待したい。

Snapdragonに最適化したコンテンツ開発も支援

photo Qualcomm CDMA Technologiesの海野尾氏

 クアッドコアが生きるリッチコンテンツの登場にも期待される。「スマートフォンは、どんなアプリが将来出てくるのか未知の世界でもあります。クアッドコアでなければお客様が満足しないようなアプリも将来は出てくるとみています。今のところそれほど流行ってはいませんが、シングルディスプレイからマルチディスプレイの表示になったり、シングルディスプレイを分割したりする用途も出てくるかもしれません。マルチスレッドのアプリも出てくるでしょう。その場合に負荷を分散して最適化する、アプリごとに最適なクロック数で動かすことを考えると、マルチコアの方が有効だと思います。(コアが)2つより4つあった方が良いユースケースは必ず来ると思います」(須永氏)

 特にクアッドコアが生きるコンテンツとして期待されるのがゲームだ。Qualcommは北米でSnapdragonに最適化したゲームを配信するポータル「GameCommand」を展開している。チップベンダーが展開するゲームポータルといえば、NVIDIAの「Tegra Zone」もおなじみで、こちらは日本でも利用できる。GameCommandの他国への展開については「検討はしていますが、国によってマーケットがまったく違います。日本はキャリアが展開するポータルもあります。そういった意味で、あまり日本においては弊社がそろえなくてもユーザーが十分にゲームを買う行為を理解できているし、ビジネスモデルそのものが成り立っています」と海野尾氏は説明する。

photo Snapdragonに最適化した100種類以上のゲームが配信されている「GameCommand」

 Snapdragonに最適化したゲーム自体は日本でも配信されており、「特に名前を出してプロモーションしているわけではありませんが、端末にプリインストールされているものや、キャリアが配信するものも含まれています」(海野尾氏)とのこと。GameCommandには現在100以上のゲームが配信されており、日本のコンテンツプロバイダーも参画している。「GameCommandは米国でのサポートを包括したサービスです。開発環境を提供したりデバッグのサポートをしたり、そういうサポートスキームともひも付いています。開発者と弊社が『このタイトルを最適化していきましょう』と最初に話をして方針を決めて、開発者はコンテンツ最適化、弊社はツールを提供するという仕組みです。それから開発者が(ゲームを)メーカーやキャリアに配信したり、Google Playに配信したり、独自ポータルを作ったりという対応になります。

 Snapdragonへの最適化とは「Snapdragonを搭載した端末でフルにコンテンツのパフォーマンスが出るようサポートをすること」(海野尾氏)。ただ最適化の方法は開発者によって異なり、独自のゲームエンジンを開発者が作っている場合や、サードパーティ製のエンジンを使って開発者が最適化する場合もあるという。「弊社もコンテンツだけでなく、ゲームエンジンというミドルウェアの開発をしている開発者との協力関係を持っています。弊社のチップセットに最適化したエンジンを提供し、コンテンツプロバイダーが使ってさらに最適化するという流れです」(海野尾氏)

 Snapdragonに最適化したコンテンツは、他のチップを搭載した端末でも動作するのだろうか。「APIがOpenGLなのでに他のデバイスでも動きますが、グラフィックスメモリを使うことでシステムメモリからデータを読み込まなくてよいなど、GPUとシステム全体をハードウェアの視点から最適化しています。これによって圧倒的にパフォーマンスが上がります。同じAPIで他のチップセットを使った場合、そういったメリットは得られません」(海野尾氏)

KraitとScorpionの違いとは

 Snapdragon S4のCPUは従来の「Scorpion」から「Krait」に進化したことで、パフォーマンスが向上している。「ScorpionとKraitを比較すると、同じMIPS値(=Million Instruction Per Sec:1秒間に実行できる命令数)を達成するためのクロック数は、Kraitの方が低いのです(つまり同じクロック数ならKraitの方がこなせる命令数が多い)。また同じクロックで動かしたときの消費電力も、Kraitの方が低く済みます」(須永氏)

 その理由は大きく2つあるという。1つが製造プロセスがScorpionの45ナノメートルからKraitでは28ナノメートルに変更されたこと。「微細化すると、回路がアクティブに動くほど消費電力に差が出ます」(須永氏)。実際、Qualcommが公開しているSnapdragonのホワイトペーパーでは、40ナノと28ナノのチップを比べ、28ナノの方が温度の上昇が緩やかであることがグラフで説明されている。2つ目が、「1クロックあたりの実行命令数(IPC=Instruction Per Clock)と、1コアの内部で行う処理数(Instruction Issue Per Core)がScorpionよりも増えたこと」(海野尾氏)だという。これによってパフォーマンスが向上している。

 また、これはCPUに依存するものではないが、MSM8960はCPUとメモリ(RAM)を結ぶバス(伝送路)が2本ある「デュアルチャンネル」構造になっている。これにより、データの読み出し速度全般が向上している。このメモリバスの太さは帯域幅(500MHzなど)で説明される。「バスは、どのアドレス空間にデータを入れるのか、読み出すのかといった、CPUからの命令を物理的に伝えるものです。CPUとメモリはこのバスでつながっています。一方で、GPUやマルチメディアなどメモリ以外のプロセッサーにバスが使われると混んでしまい、メモリからこういうデータが欲しいという命令を実行しても、なかなかデータが取れないこともあります」と海野尾氏は説明する。したがってメモリバスが2本あると、1本と比べて「クロックあたりに転送できるデータ量が倍になる」(海野尾氏)。具体的には電源を入れてから起動するまで、ブラウザの読み込み、ビデオのデコード、YouTubeの再生など、処理速度が全般的に向上するという。さらに、同じ通信方式に対応した異なる端末を使った場合、メモリバスの本数(チャンネル数)が多い方が、体感速度が上がることもあるそうだ。MSM8960搭載スマートフォンを使っていて「速くなった」と実感できる一因として、このデュアルチャンネルも関係しているといえる。

photophoto 28ナノメートルのチップの方が温度の上昇が緩やかで、発熱の臨界点に達するのも40ナノメートルよりも遅い(写真=左)。MSM8960の内部構成。デュアルチャンネルであることも明記されている(写真=右)

温度センサーで段階的にクロックを下げることも可能に

 スマートフォンが高性能化して負荷のかかる機能を使うほど、「発熱」や「消費電力」の面では不利になる。この点について須永氏は「クロックを上げると発熱するのは仕方がないので、臨界点までのMAXクロックやMIPS値を増やすことで負荷を減らせます。コアのパフォーマンスを上げることで、臨界点までクロックを使わずに大部分のことを済ませることが、究極のやり方ですね。現在も温度を検知するセンサーをチップに入れていますが、次世代のチップでは温度センサーの情報を読み込んで、自動的にクロックを上げ下げする機能を入れます。例えば、あまりにも温度が上昇して危険だと感知したら、パフォーマンスは落ちてしまいますが、自動でクロックを下げることができます」と話す。

 現在のスマートフォンも、一定以上の温度が上昇したら充電やWi-Fiを停止するといった仕様になっているが、将来投入する次世代のチップは「センサーがアダプティブに熱を感知することが違う」という。利便性を下げないよう、ある機能がいきなりオフになるのではなく、パフォーマンスが徐々に下がるイメージだ。「これはKraitだからできる、というよりは、チップセットの中に周辺回路を持つかどうかです。現在も温度センサーはありますが、アダプティブにはなっていません」(須永氏)。クアッドになってコア数が増えても、より優れた温度センサーで段階的に制御すれば、CPUへの負荷が下がり、発熱を抑えやすくなることが期待される。

 また、コアごとにクロックや電力を制御できる「非同期」の仕組みも、消費電力や発熱を抑えることに貢献する。「端末メーカーさんからは、(非同期にすることで)回路が複雑になるので発熱しやすくなるのでは? と言われることもあります。ただ、コアすべてをMAXで動かすことがどれだけあるのかを緻密に分析した結果、各コアの回路は少しは大きくなるかもしれませんが、トータルで見ると、非同期の方が消費電力を節約できるという結論に達しました。電力やクロックを供給するバスをコアごとに作らないといけないので、同期で動かすものと比べたら、クアッドコアなら単純に4倍になりますが、それは全体的なトランジスタ数から見ると非常に小さなものです」(須永氏)

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