日本通信はなぜ個人向けMVNO事業を手放すのか:石野純也のMobile Eye(8月8日〜19日)(1/2 ページ)

» 2016年08月20日 06時00分 公開
[石野純也,ITmedia]

 MVNOの老舗である日本通信が、U-NEXTに個人向けMVNO事業を譲渡すると発表した。今後は、日本通信がMVNEとして接続などの技術面を受け持ち、U-NEXTがMVNOとしてユーザーの窓口となる見込みだ。現時点では、交渉を始めた段階とのことで、「既存事業をどのように継承するかは、これから交渉する」(U-NEXT広報部)。「既存のユーザーにご迷惑をおかけすることはしないが、b-mobileのブランドがどうなるかも含め、協業が決まった段階」(日本通信広報部)と、詳細は今後、徐々に詰められていくようだ。

日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 日本通信のMVNO事業がU-NEXTに継承される

MVNEへと戦略を大きく転換させた日本通信

 この事業継承は、2016年1月に発表した日本通信の戦略に沿ったものだという。同社の福田尚久社長は、記者会見の場で「b-mobileの面倒を見てもらう方向もある」と語っていた。このときから、MVNO事業を他社に受け渡し、自らはMVNEに専念する道を模索していたことがうかがえる発言だ。コンシューマー向けに事業を行ってきたのは、「直接やらないと分からないことが多い」(同)ため。一方で、「そのノウハウは十分なところにきている」とも述べていた。

日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 1月に行われた記者会見では、福田社長から、日本通信の新たな戦略が発表された
日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡
日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡
日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 「格安SIM」と呼ばれるMVNO市場の競争が激化。日本通信も、自らの役割を「モバイル・ソリューション・イネイブラー」に再定義し、MVNEに注力する方針を語っていた

 確かに日本通信は、他社に先駆け、一般ユーザー向けの取り組みを行ってきた会社といえる。MVNO向けのスマートフォンがなかった時代には、Huaweiの「IDEOS(アイディオス)」を調達し、セットで販売。一般ユーザーが気軽に契約できる窓口としてイオンと協業し、LGエレクトロニクス製の「Nexus 4」をセットで販売したのも日本通信だった。VAIOらしさに欠けると批判を集めた「VAIO Phone」も、振り返ってみれば、こうした取り組みの延長線上にあるものだ。料金プランの面でも、単に安いだけでなく、データ通信料が段階制になる「おかわりSIM」を発売し、その後、同様のプランはFREETELやSo-netなどにも広がっている。

日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 SIMロックフリースマートフォンが一般的ではなかった時代には、自ら端末を調達。写真はHuawei製の「IDEOS」
日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 「箱」が先行して話題を呼んだ一方で、ごく普通のスマートフォンだったためユーザーが落胆した「VAIO Phone」
日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 使った容量に応じて自動的に料金が上がっていく「おかわりSIM」など、料金プランにも工夫を凝らしていた

 現在では当たり前になった、大手キャリアとの「相互接続」が実現したのも、日本通信の功績が大きい。接続料の算定を巡っては、当時ドコモと激しくぶつかり、総務大臣に裁定を求めるまでに至った。ドコモ関係者の中には、「乱暴だ」と日本通信の手法を批判する向きもあったが、結果として、こうした戦いがなければ、接続料がここまで低下することはなかったかもしれない。相互接続という形が実現しておらず、接続料が高止まりし続けていれば、MVNOの料金プランは、今よりもっと高くなっていたはずだ。

日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 接続料に関しては、総務大臣裁定を求めたほか、ドコモと裁判で争っていた経緯もある。写真は2012年のもの

 一方で、コンシューマー向けのMVNOは急速に「レッドオーシャン化が進んでいる」(関係者)市場でもある。事業者の数は200を超え、競合がひしめき合う状況だ。NTTコミュニケーションズやIIJといった大手MVNOの契約数は、既に100万を突破している一方で、業界関係者でも名前を聞いたことがないような会社も存在する。サブブランドとして、ソフトバンクの「Y!mobile」や、UQコミュニケーションズの「UQ mobile」が勢いを増す中、勝ち残るためには“宣伝力”や“ブランド力”も以前より重要性を増している。

 そのあおりを受け、日本通信のMVNO事業も、伸び悩みを見せていた。MVNOがまだ一部のコアユーザーにしか知られていなかったころは、シェアも高かったが、その後は後発の会社に抜かれていく。調査会社・MM総研のデータを見ると、2012年度末にはシェア1位を誇っていた日本通信だが、2013年度末にはNTTコミュニケーションズやIIJに抜かれ、3位に転落。2015年には4位になり、その後は「その他」でくくられるようになってしまった。

日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 MM総研の最新調査では、日本通信は「その他」になっている

 日本通信が決算で発表している資料によると、データSIMの契約者数が7万弱、音声SIMの契約者数が4万弱と、ポストペイドの契約者数は、11万を下回っている。2014年2月をピークに、その後、契約者数は漸減している状況だった。また、VAIO Phoneを自らが主導で開発したことがあだになり、2016年1月には在庫の評価減を迫られ、営業損益マイナス15億円と大幅な下方修正を発表していた。

日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡
日本通信がU-NEXTにMVNO事業を譲渡 決算資料を見ると、ポストペイドの契約者数が伸び悩んでいたことが分かる

 こうした状況の中、苦手とする一般ユーザー向けの事業を他社に譲り、MVNEに専念するというのは、生き残りをかけた戦略としても間違ってはいないだろう。自社でネットワークを直接持たないU-NEXTとは、相互補完の関係は築きやすい。MVNEとしてU-NEXTを支えていけば、そこから収益を得ることもできる。一般ユーザーに対する派手な広告宣伝や端末の調達などをしなければ、それだけ利益も出しやすくなるはずだ。

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