吉澤社長のインタビューでも触れた通り、NTTドコモのブース展示は自動運転バス、AIタクシー、ドローンなど、国内で進めているソリューションと5Gの展示が主役だ。ブースの規模自体はそれほど大きくはないものの、その内容は濃く、5Gに向けた業界トレンドをしっかりと押さえたものになっている。
日本は山間部や島々が多いため、アンテナ角度のチューニング方法など、独特なノウハウを現場レベルで持っている。そこでドコモは課題を抱える海外の通信事業者に対し、ネットワークに関するコンサルティングを行っている。
特に地震など大規模災害の経験値は大きく、「海外の事業者からは、地震対策や震災後の復旧について問い合わせをいただいている」(担当者)そうだ。
ドコモは九州大学、DeNA、福岡市の4者でコンソーシアムを設立し、2017年1月から九州大学伊都キャンパスで自動運転バスの実証実験を始めた。無人の電気自動バス車両を用い、広大なキャンパス内を走行する。
実証実験では、バス接近の危険性を知らせるP2Xのアラームを出しすぎていることが分かったため、AI(人工知能)を使って適切なタイミングでアラームを鳴らしていきたいとのこと。バスの運行ルートも今後、AIタクシー技術(後述)と組み合わせて実験していくという実証実験では、歩行者側の端末にバスの接近を知らせることにより、より安全な運行を実現する「P2X(Pedestrian to everything)」という新概念を提唱。また先読みオンデマンドによる新たな運行管制システムを採用し、運行管制センターが効率的なバスの配車を指示する。ブースを見た海外の参加者の反応は「自動運転とP2X、運行管制のどれも同じくらい興味を持っていただいている」(担当者)という。
AIを活用し、30分先の需要予測を500メートル範囲で行う実証実験が「AIタクシー」だ。需要の大きいエリアを可視化することで、タクシーの効率的な運用と乗客の利便性向上を目指す。
デモ展示では、実際に東京で実験中のデータがタブレット端末に表示され、リアルタイムで予測値が変化した。海外の参加者も「面白がって見てくれる」(担当者)という。まずは日本国内で2017年内の商用化を目指す。
ドコモの携帯電話ネットワークを利用するセルラードローンを活用し、離島に商品を届ける買い物代行サービスの実証実験も展示された。航行距離が長く、遠隔コントロールも可能なLTEネットワークの特徴を生かし、福岡市能古島と九州本島間の約2.5kmを移動する。
現在実験は一時中断し、検証の段階に入っている。「ドコモは買い物代行以外にも、防災や被災地支援などで利用できるドローンの飛行実験をしているため、それぞれの検証結果を合わせてやっていく」(担当者)という。
ドコモは農業のICT化を推進しており、その施策の1つがドコモのネットワークを活用した水田センサーと、稲作管理システムによるスマート農業だ。水田に一定間隔にセンサーを立て、水位などを定期的に計測。クラウドにデータを送ることで、タブレット端末やスマートフォンでアプリを介し、現場を見に行かずとも水田の状況が分かるようになっている。
センサーには1本ずつにSIMが入っているが、2017年度からメインとなるセンサーのみにSIMを入れ、データをひとまとめに集めてクラウドにアップロードするよう進化するという。ランニングコストの削減が狙いだ。
水稲向け水管理支援システム「Paddy Watch」(vegetalia製)。水田センサーは水位、水温、温度、湿度などを計測してクラウドにデータを送る。よりコンパクト化したこの形状のバージョンは4月から販売予定現在は大規模農家や自治体の試験的導入が多く、国内での普及には時間がかかると思われるが、今回の海外展示では「意外と立ち寄ってもらっている」と担当者は胸をなでおろす。東南アジアの参加者や、スペインで日本米を育てる参加者が興味を持っていたという。
5GはLTEに比べ低遅延になるため、VRの映像もほぼタイムラグなく見られるようになる。そこで産業用ロボットアームとVR端末を組み合わせ、遠隔で作業ができるシステムが開発されている。
デモでは実際に5Gの基地局をブース内に作り、VRゴーグルに映像を投射。隣に設置されたロボットアームとボールの動きを、360度の工場内の3DCG映像で、遅延なくスムーズに見られた。「将来的には人が立ち入りにくい災害現場での遠隔操作や、離れた場所にいる患者の遠隔手術など、さまざまな分野へ応用していきたい」(担当者)という。
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