インタビュー
» 2009年09月15日 11時00分 公開

iPodはなぜ世界を熱狂させ、新しいライフスタイルを作り出せるのか製品担当者が秘密を語る(2/2 ページ)

[林信行,ITmedia]
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人々の行動まで変えるアップルイノベーションの秘密

――あれはiPhone 3GSの発売1週間後だったと思うのですが、GoogleのブログにiPhone 3GSの発売後1週間で、YouTubeへの動画のアップロード量が4倍に増えたという記事が掲載されましたが、今回のiPod nanoもこの傾向を助長しそうですね。

エリス その通りですね。今、まさに世界ではパーソナル映像コンテンツの爆発が起きようとしていますが、iPod nanoはこの傾向をさらに加速してくれるでしょう。ご存じの通り、iPod nanoは世界で最もポピュラーな音楽プレーヤーで、多くの人が愛用して常に携帯しています。そこに今回の新しい動画撮影機能が加わると言うことは、より多くの人が、思い立ったときに、より気軽にビデオ撮影ができるということにほかなりません。

――一方でビデオカメラを内蔵している機器は何もiPod nanoだけではないですよね。例えば日本では、ほとんどの携帯電話にビデオカメラ機能が標準で搭載されています。しかも、その多くはスペック的にはiPod nanoを上回ってもいます。しかし、多くの人はその機能を眠らせていて使っていません。

 それがアップルがiPhoneを出すと、いきなり携帯電話からのフルブラウザ利用が一気に増え(Googleへのアクセスは初代iPhone発売から半年で50倍に増えた)、世界最大の写真共有サイト、Flickrへの写真の投稿が爆発してiPhoneが最も多くの写真を投稿したカメラの座に輝き、そしてiPhone 3GSではYouTubeアップロード4倍増を引き起こす。一体、アップルがそのように人々の行動を変えてしまう秘密はなんでしょう?

エリス 1つは、我々が非常に焦点を絞った企業だと言うことでしょう。ならば我々は製品開発のどこに焦点を絞り込むのか。それは「簡単に使えること」、そして「楽しく使えること」です。

 例えば、新しいiPod nanoの「ビデオエフェクト」機能はもう試されましたか? あれなどは「楽しく使える」ことを目指した好例でしょう。iPod nanoを箱から取り出してすぐに楽しめるビデオエフェクトが15個も搭載されている、しかもそれがほかの動画機能付きデバイスのような、ただビデオエフェクトをかけられる、というだけの機能でなく、リアルタイムで効果を楽しめるようになっている。これが楽しさをさらに倍増し、撮影している人がよりこの楽しさにハマりやすくなっているのです。

 人々の心をつかむような製品、簡単な製品、楽しい製品を作りたい――そう強く願って製品を作ることがアップルの強みなのかもしれません。そして我々のこの思いは、きっと日本のユーザーの方々にもしっかりと伝わってくれると思います。

ロウ そこにもう1つ加えるならば、アップルの伝統があると思います。アップルの伝統とはつまり、我々の“モノ作り”が単なるハードウェア作りでも、ソフトウェア作りでもないということ。それでは何かと言うと、「ハードとソフトが渾然(こんぜん)一体となってどのように用をなすのか」こそに本質があると知っている点です。こうしたアップルの伝統的な考えこそが、その秘密だと思っています。

 iPhoneやiPod nanoは、単に持ったときに手に伝わってくる感触だけでも人々を喜ばせてくれる素晴らしいハードウェアであると同時に、Mac OS Xのバリエーションであるパワフルなソフトウェアを内蔵することで、膨大な数のアプリケーションを簡単に利用できます。その2つを両立していることこそが素晴らしい製品を作り上げているのだと思っています。そのどちらが欠けても、よい製品にはならないのです。

エリス さらにもう1つ加えるなら、アップルはハードとソフトに加え、それらの連携やサービスもうまくからめて豊かなユーザー体験を実現しようとしていることにも注目してもらえればと思います。

 例えば世界的に大成功をおさめているiPhone/iPod touchのApp Storeもそうですし、iTunes 9の新機能であるGenius Mixの機能もその好例でしょう。

ロウ そうですね。我々はハードとソフトを溶かして1つのものにしてしまうだけでなく、例えばPCとiPodといった個別のものもiTunesとiPodの連携といった形でうまく連携させることで、トータルとしてのメディア体験を素晴らしいものにすることを目指しています。

 iPodはPCにケーブルでつなげば、iTunesと自動的に同期し、そのまま音楽を持ち出せるというのが魅力でしたが、欲しい音楽がすべて同期されずに困ったときには、今回から加わった同期機能の改善で、アーティスト単位やジャンル単位での追加といったことも可能になりました。また、Genius Mix機能をオンにすれば、ただランダムに選曲するだけでなく、あなたのお気に入りの曲ばかりのコレクションが自動的に生成されて転送されます。こうしたこともアップルならではの工夫だと思います。

――サービスで言えば、曲やアプリケーションに年齢制限をするためのレーティング機能を導入したりもしていますよね。そのような機能も実際に製品の購買に結びついているのでしょうか。

ロウ 購買に結びついているかは分かりませんが、そうした機能を用意したことで、子供に安心してiPodを買い与えることができる親がいることは知っていますし、そうした方のニーズには応えられているんのではないかと思います。

――アップルのモノ作りというと、1つ何か新しい革新を生み出すと、それをそこだけに停めずに、いろいろとほかの場所にも移植し始めますよね。例えば音楽コレクションを分析してお勧めの曲を教えてくれるGenius機能が、今度からiPhoneのApp Storeにも応用され、使っているアプリケーションのコレクションを分析してお勧めアプリケーションが見つけられるようになったりと、非常にやっていることがおもしろいです。

ロウ そうですね。Geniusは、確かにその好例だと思います。現在、2700万ユーザーが自分の音楽ライブラリ情報をアップルに提供することに同意し、我々が人々の音楽の聴視傾向などを分析する素晴らしいデータベースを作ることを可能にしてくれました。

 我々はそうして作り上げた財産を元に、これまでのように指定した曲に対して似た傾向の曲を教えるGenius機能だけでなく、あるユーザーが持っている音楽ライブラリ全体の傾向から、お勧めの音楽ミックスをつくりだすGenius Mixという機能を開発できました。これはまるであなたの趣味趣向を熟知したDJを雇うかのような機能です。おっしゃるとおり、アップルは何か1つのテクノロジーを生み出したら、それをいかに便利な機能に仕上げるかや、その技術の可能性をいっぱいいっぱいまで広げて、いかに多くの方法で顧客満足度につなげていくかという点に真剣に取り組んでいる企業かもしれません。

ハードウェアも音楽も最強のラインアップ

――iPod nanoについての質問が続いたので、iPod touchについても聞かせてください。なぜiPod nanoにはついているカメラ機能がiPod touchにはないのでしょうか。

エリス これもどこに焦点を絞るかの問題です。今回のiPod touchの焦点は、世界的に注目を集めているApp Storeの楽しみを、最も安価に提供できるデバイスにすることでした。

――それではiPod shuffleはいかがでしょう。

エリス こちらは2Gバイトで5800円という、さらに求めやすくなったことに加え、新しい3色のカラーバリエーションを用意し、ファッションとして楽しめるiPodという側面をこれまで以上に強化しました。また、Apple Store限定の光沢スチール仕様のスペシャルエディションも用意していますが、この製品は宝飾品を思わせるような気品を放った製品に仕上がっています。

――それぞれに異なるフォーカスを持った個性豊かな製品ラインアップとなっていますが、すでにiPodは大成功をおさめた製品として大勢の人が持っていますよね。現在はやはり2台目、3台目需要を狙っているのでしょうか。

エリス 必ずしもそうとは限りません。これだけ広まっているように見えますが、それでもいまだにiPodを購入している人の半分は、これまでiPodを使ったことがない人たちなのです。

 もちろん、2台目、3台目需要もあります。iPod shuffleは、初めて買うiPodとしても最適ですが、一方ですでにiPodを持っている人が、例えばワークアウトなどをしながら使うための、用途限定のiPodとして買うことがかなり増えています。

 また、そういう意味では、マルチタッチや加速度センサーといった話題の技術や、豊富なアプリケーションによって日々、さまざまな活用方法が広がっているApp Storeをぜひ試してみたいと、2台目のiPodとしてiPod touchを買う人も急増しています。

新しいiPod touch(写真=左)とiPod shuffle(写真=右)。shuffleには光沢スチール仕様の限定モデルが登場した

 もちろん、ビデオ撮影と言う新しいライフスタイルを可能にしてさらに磨きがかかったiPod nanoも、すでにiPodを持っているかどうかに関わらず魅力的に映るでしょう。そうやって振り返ると、我々はこのクリスマスシーズンに向けて最強の製品ラインアップを用意できたのではないかと自負しています。

――ハードウェアもそうですが、音楽を買う楽しみも増えましたね。iTunes LPは非常におもしろいと思います。あれは日本でも購入できるのでしょうか。

ロウ 現在、日本でも販売しているiTunes LPは4タイトルですが、もちろん、これは今後増やして行く方針で、我々はこのiTunes LPを作るために必要な開発ツールをレコード会社などにも提供しています。まずは国際的コンテンツの開発が優先されていますが、我々はすでにローカルコンテンツを作るべく日本国内のレコード会社と話す準備も進めています。

 現在、アップルはiTunes Storeで1100万曲の音楽を販売し、世界最大の音楽販売ビジネスに成長させましたが、このiTunes Storeはただ曲が多いと言うだけでなく、国際コンテンツにしても、日本向けのローカルコンテンツにしても、最高のセレクションがそろっている、ということもぜひ再認識していただければと思います。

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