とはいえ、PCの世界でマイクロソフトが強いのは自明だ。少し俯瞰(ふかん)してPCだけでなく、スマートフォンやタブレットといった端末を含むパーソナルコンピューティング全般を見たとき、マイクロソフトはどのような戦略を持っているのだろうか。
マイクロソフトは、各スクリーン(ゲーム機、PC、タブレット、スマートフォン)ごとに、多様な開発フレームワークとツールを提供しており、何をどのように使ってアプリケーションを作るかは開発者が自由に選べるようにしている。
コンシューマー市場に関しては、これらを駆使してWindows Liveとして提供してきたサービスやストレージを中心に、各スクリーンを統合していく絵を描いている。マイクロソフト自身が各スクリーン向けに提供している標準装備のアプリケーション、さらにはOfficeもサービスとの統合・連携を強めているが、加えてより重視されるようになってきたのがHTML5への対応だ。
3年前までのマイクロソフトは、マルチスクリーンでのアプリケーション展開を、Silverlightで行おうとしていた。Silverlightを多様な端末に移植していき、当時でいうRIA(リッチインターネットアプリケーション)をSilverlightで書いて、端末ごとのネイティブアプリケーションとともに提供する。
このやり方が合う分野はたくさんあるが、コンシューマー向けの幅広いニーズはカバーしきれない。そこで、現在は各スクリーンをつなぐアプリケーション構築フレームワークをHTML5に換えてきている(もちろん、XAML/Silverlightを捨てたという話ではない)。単にHTML5への対応をサービス側で進めるだけでなく、Windows 8、Windows Phone 8での対応も強化している。
すべてのスクリーンをマイクロソフトの製品だけで統一しなくとも、HTML5のレイヤーで異なるプラットフォームにも対応し、アップルやグーグルの端末が混在しても、大きくは機能を損なわないよう配慮し始めたというわけだ。その上で、各スクリーンごとにWindowsネイティブのアプリケーションでは、より高いレベルのユーザー体験や機能を提供していく。
もっとも、あらゆる面で順調かというと、そうとは言えない。Windows 8/RTタブレット、Windows Phone 8の2つのプラットフォームをほぼ同時期に立ち上げるのは、いかにマイクロソフトの規模をもってしても困難だ。現在のコンピュータは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスの連動性、すり合わせが重要なため、これまでWindows Liveを中心に展開してきたサービス全般のアップデートも行わなければならない。
例えば、Outlook.comはプレビューが開始された直後の現在でも、Webメールサービスとしては使いやすいものになっているが、スケジュールや連絡先管理など、他のWindows Liveサービスとの統一感がない。
今後は機能改善とともに各種サービスの大幅なアップデートがかかっていくだろう。しかし、それらがすべてそろってから、「これこそがWindows 8の完成形」と言ったとしても、再評価を広げていくことは容易ではない。クラウドで提供されるサービスは、日常的に機能の改善が進んでいくが、Windows OSのアップデートは数年おきでしかない。あらゆる要素をすべてそろえることは不可能だろう。
時間をかけて熟成していくことも必要ではあるが、コンシューマーユーザーはコンセプトだけでは評価しない。Windows 8とWindows Phone 8のすり合わせを含め、この2つのプラットフォームの立ち上げは、コンシューマー市場におけるマイクロソフトの現在の力量や位置付けを推し測るリトマス試験紙になるだろう。
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