ARを日常に広げる「SATCH VIEWER」、聞こえ方を変える「新聴覚スマートフォン」 KDDIが披露Mobile IT Asia(1/2 ページ)

» 2012年03月14日 10時00分 公開
[園部修,ITmedia]

 KDDIが3月14日から16日まで、東京ビッグサイトで開催される「Mobile IT Asia」で、ユーザーインタフェースを主軸に置いたブースを出展する。主に同社が積極的に取り組むARプロジェクト「SATCH」と、京セラと共同開発した「新聴覚スマートフォン」を、自身の目で確かめることができる。

 SATCHとは、KDDIが取り組んでいる、AR(Augmented Reality:拡張現実)の普及とオープン化を進めるプロジェクト。iOSやAndroid端末で利用できる画像認識型モバイルARアプリを容易に開発できる「SATCH SDK」を無償公開しており、ARアプリケーション開発を支援しているほか、3月3日にはSATCHに対応したARアプリやコンテンツを紹介・再生するAndroidアプリ「SATCH VIEWER」もリリースした。ARを、多くの人により身近なものに感じてもらえるような仕掛けを行っている。

※初出時に、SATCH VIEWERのリリース日を3月2日と記載していましたが、3月3日の誤りでした。お詫びして訂正いたします(3/14 13:00)

 一方新聴覚スマートフォンは、京セラが開発した「音声振動素子」を利用したデバイス。この素子は、骨伝導スピーカーとは異なり、骨に当てる必要はなく、耳に当てるだけの自然な所作で利用できるが、イヤフォンやヘッドフォン、耳栓などを装着した状態でも、それらを外すことなく電話の音声が聞ける点がユニークだ。なかなか体験できる機会は少ない。

 今回は、SATCHプロジェクトを担当するKDDI 新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 パートナーズ推進2グループ 課長補佐の伊藤盛氏、新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 パートナーズ推進2グループの清水翔太氏と、新聴覚スマートフォンのプロジェクトに携わったKDDI研究所 開発センター アプリケーションプラットフォームグループ 開発主査の若松大作氏に話を聞いた。

SATCH SDKやSATCH VIEWERを展示 体験コーナーも

Photo KDDI 新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 パートナーズ推進2グループの清水翔太氏と新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 パートナーズ推進2グループ 課長補佐の伊藤盛氏

ITmedia KDDIは以前から、日常の中にARをもたらすというコンセプトの下、ARサービスの普及のためにARプラットフォーム「SATCH」を立ち上げ、さまざまな活動をされていますね。iPhoneやAndroid向けのARアプリが開発できる「SATCH SDK」を無償配布しているほか、統合ビューワ「SATCH VIEWER」の提供もスタートしました。Mobile IT Asiaでは、こうした活動の成果に実際に触れることができる訳ですね。

清水翔太氏 はい。ブースではSATCH SDKを利用して開発されたアプリや、3月3日に横浜アリーナで開催された「東京ガールズコレクション」と連携したコンテンツ、SATCH VIEWERなどを実際にご確認いただけます。SATCHのモバイルオーサリングツールというものもあるのですが、こちらを体験いただくこともできるようにする予定です。

ITmedia 東京ガールズコレクションとの連携コンテンツというのはどういうものですか?

Photo 東京ガールズコレクションとの連携コンテンツ

清水氏 SATCH VIEWERを起動したAndroidスマートフォンを、会場で配布されていたパンフレットにかざすと、蝶々と花が現れるデモをご覧いただけます。また、3月15日以降は、パンフレットに掲載されている洋服の写真にかざすとモデルが出現し、洋服をタッチするとその場で服の購入画面に進めるようになる予定なので、そちらも体験していただけるようにします。

 アニメ「電脳コイル」とのコラボレーションもしており、雑誌「アニメージュ」の3月10日発売号に登場する電脳コイルのキャラクターにかざすと、電脳コイルのキャラクターが表示されると共に音声が再生される様子も確認いただけます。ちなみにこちらはゲームオンが提供するPC向けオンラインゲーム「電脳コイル 放課後探偵局」とも連携しており、表示された電脳コイルのキャラクターが示すキーワードのパズルを解くと、ゲームで利用できる限定アイテムが取得できるような仕掛けも用意しています。

AR空間を、日常にありふれたものに

ITmedia ARという技術は、一時期ものすごく注目を集めましたが、最近はやや停滞感があるように思います。KDDIはなぜSATCHに注力し、SATCHで何を実現しようとしていらっしゃるのでしょうか。

伊藤盛氏 SATCH自体は、モバイルARアプリケーション開発ツールです。「SATCH SDK」として、AndroidやiOS搭載デバイス向けの画像認識用ライブラリと、SATCH STUDIOという、画像認識エンジンを仕込んだアプリを作るためのオーサリングツールを用意しています。このSDKは無償で公開しており、誰でも使える状態にしています。将来的には、SATCH SDKがARアプリケーション開発ツールのデファクトスタンダードになることを目標にしています。

 なぜSDKの無償公開を始めたかというと、「ARを日常に広げたい」という思いがあるからです。KDDIが提携したTotal Immersionの画像認識技術を含め、現在競合他社を含めた各社が提供しているツールは、性能は非常にいいものの、ライセンス料が年間で150万円から200万円くらいととても高いのです。これがAR技術を採用したアプリなどの開発・普及に高い障壁になっていると感じています。

 無料で提供されている画像認識エンジンもありますが、こちらは認識精度が高くなかったり、トラッキングが弱かったりする。無料のものは、現在よくある、“かざしたらちょっと何かが出てくる”といったAR体験をさらに一歩進められるようなものは残念ながらありません。有料のものは可能性があると思うのですが金額が高い。ですから、KDDIが一括でライセンスを入手し、無料でSDKを配布することで、かざして何かが出てくるようなキャンペーン利用のちょっとしたアプリから、日常的に使えるARや画像認識技術、位置情報をなどを組み合わせた、イノベーションを起こせるようなツールまでが新たに生まれる環境を作りたいと思っているのです。

ITmedia なるほど。次なる飛躍をもたらすための環境を用意したわけですね。

伊藤氏 ARや画像認識技術というのは、リアルにある物体をネットへの入り口にするための鍵となる技術だと考えています。技術が進歩することで、立体物やシーンを認識し、コンテンツプロバイダなどが持つ大規模データベースと連携して、日常にある身の回りのものにチェックインしたり、適切なものから適切なタイミングで別な情報が得られたりできるサービスが出てくることを狙っています。

 アイデアはあるものの、なかなか手が出せなかったり、お金がなくて取り組めなかったりするのはもったいないと思うのです。お金がある企業でも、ARをどうサービスに仕立てていくかはまだ難しいところがあります。これまでにARや画像認識を活用したキャンペーンを展開したところは、いわゆるナショナルクライアントと呼ばれる大企業がほとんどでした。ですから、もう少しその先で、頓智・(とんちドット)の「セカイカメラ」が目指していたような、AR空間が現実空間を拡張して、その中で情報の取得やコミュニケーションが行われる単一のAR空間を作るのが最終ゴールです。

ITmedia セカイカメラは、登場したときはものすごくインパクトがありましたし、各所で話題になりましたが、毎日起動するようなアプリではないですよね。そういう意味では、技術はあるのに、その上に乗るコンテンツがないように感じます。

伊藤氏 もちろん技術にもまだまだな部分はあると思います。シーン認識なども研究レベルでは可能になっていますが、今手の届くところにある技術は、まだそこまでたどり着いていません。とはいえ、今ある技術とコンテンツプロバイダ(CP)のコンテンツを組み合わせることで、全然違う体験を実現することはできるんです。例えばAmazon.comは、米国で本の表紙を撮影するとその本の書評が見られるサービスなどを展開しています。Google Goggleなども一例ですね。ARや画像認識を、うまくツールとしてユーザーメリットがある形で提供しているサービスというのは出始めているんです。でも、まだ日本国内にはほとんどありません。そういうものが、SATCH SDKですぐに実現できるようにしたいのです。

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