「MVNOだから電波が弱いんですよね?」
MVNOが提供する格安SIMの利用を検討しているという方とお話ししていると、時々このような質問をいただきます。携帯電話会社の「質のよしあし」というと電波のことが取り上げられることが多いため、「MVNOは料金が安いからきっと電波が弱いに違いない」と思ってしまうのも無理のないことかもしれません。
また、実際に大手携帯電話会社からMVNOに乗り換えた後に、「なんだか電波が弱くなったような」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、実際にはMVNOが利用している「電波」は、大手携帯電話会社の電波と同じもので、特別に弱いわけではありません。
この連載の第3回でもご紹介したとおり、MVNOは携帯電話の基地局を持っていません。その代わりに、NTTドコモやKDDIなどのMNOが設置している基地局を借りています。基地局を借りているといっても、それぞれの基地局からMVNO専用の電波が出ているわけでもありません。MVNOはMNOが使っている電波そのものを使っているのです。
携帯電話では、基地局が出す電波を使って同時にたくさんの端末(スマートフォン、フィーチャーフォン)と通信を行うことができます。このたくさんの端末の中の一部に、MNOの端末があり、MVNOの端末があります。これらの通信は混在しており、MVNOの通信だけ電波が弱くなるということはないのです。
また、電気通信事業法には「不当な差別的取り扱いの禁止」という規定があります。この規定があるため、端末と基地局間の通信は、MNOであってもMVNOであっても平等に取り扱われることが期待できます。例えば災害時でもMVNOの利用者が、MNOの一般の利用者に対して通信を後回しにされたり、制限を受けたりするようなことはありません。
ここまで原理、原則を紹介しましたが、それでもやっぱり「MVNOだと電波が弱く感じる」方がいらっしゃるかと思います。
1つの原因は、基地局以外のMVNOの設備の混雑です。端末と基地局間の電波は平等に扱われていても、基地局から先、MNOとMVNOの設備が分かれる部分で混雑が発生していると、全体として通信が遅く感じます。これは決して「電波が弱い」わけではないのですが、利用者の視点で見れば「通信が遅い」理由の区別をつけるのは簡単ではありません。直感的に「電波が弱いから」と誤解してしまうこともあり得ます。
もう1つの原因は、SIMロックフリー端末と基地局で対応している電波の種類(周波数)がずれていることです。
携帯電話ではさまざまな周波数の電波を使って通信していますが、すべての基地局で同じ周波数の電波が出ているわけではありません。例えば、ドコモでは周辺都市や山間部では通信の需要があまり高くないので、遠くまで届く周波数の電波を使って少ない基地局で広いエリアを構成しています。一方、都心部では通信の需要が高いので、多数の基地局を使って複数の周波数の電波が重なり合うような形でエリアを構成しています。
MNOが自社ブランドで販売する端末はこういった電波の使い分けに合わせて設計されているため、周辺部でも都市部でもバランス良く電波を使えるような調整がされています。
一方、SIMロックフリー端末は、日本以外の国でも使うことを考慮されているため、必ずしも日本の電波の使い方に沿った調整がなされているわけではありません。特に、ドコモが都市周辺部や山間部で主に使用している電波は世界で使われている電波とはずれているため、日本用に調整された端末以外は通信に利用できないこともあります。こうした端末を都市部以外で利用していると、近隣の基地局の電波を利用することができず、「圏外」になったり、弱い電波しか利用できないことがあるのです。
これは、MVNOに特有の事象というより、SIMロックフリー端末に特有の事象です。ですので、SIMロックフリー端末と、MNOの通信サービスを組み合わせた場合でも、同じ現象が発生します。しかし、SIMフリー端末を使う方は一般的にMVNOのサービスと組み合わせて使うため、あたかも「MVNOの電波が弱い」というように見えてしまうのです。
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手がけてきました。
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