App Storeはカテゴリー型から検索型へ――AppGrooves「SearchMan」による効果的な対処法とは松村太郎のiPhone生活

» 2012年10月16日 13時46分 公開
[松村太郎,ITmedia]

 iPhone 5とiOS 6が提供されて間もなく1カ月が過ぎようとしている。ユーザーを中心に、地図問題に注目が集まる中で、iPhoneの環境に大きく影響する変更も加えられている。それが、iOS 6に搭載された新しいデザインのApp Storeだ。

Photo AppGroovesの柴田尚樹氏

 これを単なるデザイン変更と見ると、アプリの配信やマーケティングの方法を見誤る可能性がある。そう指摘するのは、シリコンバレーでAppGroovesを起業した柴田尚樹氏だ。同氏の会社では現在、アプリ開発者向けに「SearchMan」という、App Store内でいかにアプリを発見してもらいやすくするかを、キーワードから分析するサービスを提供している。

App Storeのパラダイムシフトとは?

 AppleはiPhone向けにアプリを配信するプラットフォームとして、2008年の「iPhone 3G」登場のタイミングに合わせてApp Storeを公開。開発者にソフトウェア開発キット(SDK)を提供し、無料もしくは有料で世界中にアプリを配信するプラットフォームとしてエコシステムを構築してきた。現在まで、実に70万本ものアプリケーションを取りそろえ、その数と質は他のプラットフォームを凌駕するスタンダードとなった。

 しかし、柴田氏の起業のきっかけだった「欲しいアプリをいかに手軽に発見するか?」というテーマについて、どうやらAppleも悩んでいるように見える。数が増えすぎたことで、App Storeそのものへのテコ入れが必要になっており、iOS 6のApp Storeのデザイン変更は、この問題に対処するための取り組みと位置づけることができる。

 しかしちょっとしたデザイン変更と軽視すべきではない。柴田氏は「App Storeのパラダイムシフトが起きている」と指摘する。

 「これまでのApp Storeはカテゴリーとカテゴリー内のランキングを軸にしたインタフェースを提供してきましたが、数が増えすぎたこととで、ユーザーに最適なアプリを提案する仕組みとして機能しなくなってしまいました。そこでiOS 6のApp Storeでは、これまでのカテゴリーを軸にした使い勝手から、より検索を主体とした使い勝手に変更されました。いわば、インターネットのポータルが、ディレクトリ型のYahoo!から、検索型のGoogleに取って代わったほどの大きな変化が起きた、と見ることができるのです」(柴田氏)

PhotoPhotoPhoto App Storeは、iOS 6になって、これまでのカテゴリーとランキングを軸にしたユーザーインタフェースから、検索とレコメンドを中心にしたインタフェースに変わった

 これまでApp Storeでは、よりたくさんのダウンロード数を積み上げるには、そのカテゴリーのトップのアプリになる、というアプローチが有効な手段だった。もちろんカテゴリー別の一覧はApp Storeの中に残されているが、階層が1つ深いところに配置されるようになり、ユーザーからアクセスしにくい位置に置かれるようになった。

 ここから、ランキングに頼らないアプリ発見の方法へ、Appleがシフトしつつあることが分かる。

「SearchMan」へのピボット

 しかしApp Storeは、その数や抱えるユーザー数、開発者数、そしてアプリ数の規模の大きさから、しばしば問題も表面化している。柴田氏は、これまでAppGroovesで、“膨大な数のアプリから、ユーザーがいかにアプリを見つけ出すか”というテーマに取り組んできた。

 「AppGroovesを起業して以来、私がこのテーマに取り組んでいるのは、私が普段iPhoneを使っている中で、App Storeから欲しいアプリを発見することができなくなっていることに気付いたからです。そこで、『AppGrooves』というiOSアプリでは、ユーザーが持っているアプリのデータを元にして、レコメンデーションを行う仕組みを提供しました。アプリ自体は一定数ダウンロードされ続けています。今回のiOS 6では、App Storeもメニューの中央にGeniusを配置してきました。Appleもレコメンデーションを推そうとしています。しかし的確にアプリを見つける手段にはなっていません」(柴田氏)

 一方で、開発者からは「どのようにしてアプリをユーザーにアピールすれば良いのか」「どのようにApp Store内で目立たせたり、本当に欲しいと思っているユーザーに存在を知らせれば良いのか」といった問い合わせも増えてきたという。中には、AppGroovesのアプリ内に広告枠があるなら、そこに出稿したい、という申し出もあったほどだそうだ。

 そこでコンシューマー向けから開発者向けに視点を移してサービスを始めたのが「SearchMan」だ。

「SearchManは、App Store内のアプリ名やアプリの説明文について、毎日100万キーワードの規模でデータを取り続けています。このデータを元にして、アプリ名や紹介文にどのような言葉を使えばいいかを最適化できるのが、サービスの特徴です。ディレクトリ型から検索型へ移行するApp Storeについて、検索結果の中でどのようにアプリの存在感を高めるか、に取り組むことができます」(柴田氏)

PhotoPhoto 他意はないが、ジョルダンの「乗換案内」を例にSearchManのダッシュボードを表示してみた。ダッシュボードではその日のキーワードでの順位と変化が一目で分かる。検索結果の順位を時系列のグラフで確認することもできる
Photo ジョルダンの乗換案内とナビタイムジャパンのNavitimeのキーワードを比較したところ。検索キーワードに対してそれぞれのアプリがどう表示されるかが視覚的に把握できる

アプリ開発前から使っておきたい、App Store対策の“コツ”とは

 もちろんApp Store内のキーワード検索の結果は、iTunesやiOSデバイスがあれば開発者も手作業で確認可能だ。しかし、1日100個のキーワードを検索するのは骨が折れる作業だ。これを自動化するのがSearchManの役割となる。活用できる情報は、蓄積されたキーワードの検索順位と競合分析。

 ユニークなのは、自分が競合だと思うアプリを指定して、自分のアプリとキーワードを比較しながら、おすすめのキーワードをレコメンドする点だ。競合が持っていて、自分が持っていないキーワードや、競合が使っていないキーワードを知ることができれば、より的確にユーザーの目に触れることができるようになるという。

 「これまで、カテゴリーで上位に入ることと同じように、検索でも大きなキーワードで1位になることが重要視されてきました。例えば「ポーカー」というキーワードでZyngaのアプリに対抗するのは大変です。しかし「ポーカー カジノ」と検索すると、他のアプリが1位になります。このような、勝てるキーワードを選んで検索対策をした方が、いい結果が得られるのです」(柴田氏)

 Webがディレクトリ型から検索型になり、ニッチな情報やニーズをかなえるページが支持を集められるようになった流れと似ている。App Storeの70万本のアプリはロングテールの状態であり、この中からアプリを発見する方法、発見される方法として、検索が重視されるのも、自然な流れと位置づけられる。

 検索対策というと、すでにでき上がったアプリをいかに広めるか、という活用方法が主だと思われるが、実際にふたを開けてみると、アプリを開発する前から競合分析を行っているユーザーも見られるという。

 「意外なことに、競合アプリのオーナーになりきってSearchManで競合分析をする人も増え始めました。すると、アプリをリリースする前、あるいはアプリを開発する前から、競争力があるアプリ作りに取り組むことができるようになります。こうしたアプリのデザインの参考材料に使われるとは思っていませんでした」(柴田氏)

 また、アップデートするごとにキーワードを変更することができるため、ユーザーの伸び具合が弱かった場合に次のバージョンで機能、あるいは紹介文を変えてみることもできるし、ダウンロード数が十分伸びていれば、既存のユーザー以外の新しい層にリーチするための対策を打つこともできる。

自分の問題を解決するアプリを作って広めることが、成功の秘訣

 柴田氏は多くのベンチャーや個人がApp Storeのエコシステムを支えており、小さな開発者にも使ってもらいたいとの想いから、社内で怒られながらも、1アプリあたり月額20ドルという価格を設定した。シリコンバレーでのアプリ開発の成功事例を俯瞰すると、共通点として、「自分の問題解決」が浮かび上がるという。

 「AppGroovesやSearchManもそうですが、自分、あるいは周囲の人が困っていることを直す、何とかするというのは、シリコンバレーで良く取られているアプローチで、共感を得やすく、成功しやすいアプリ作りにつながりやすいとされています。アプリ開発にとって、App Store内の検索対策はその1つの要素ですが、検索結果を通じて、同じ問題を抱えている人を見つけやすくしてくれるでしょう」(柴田氏)

 Appleが提供するiPhone向けのApp Storeについて、検索結果のデザインは変わらないようだが、Appleの検索は今後も良くなっていくと柴田氏は指摘する。いかに検索を通じて、共感を誘いダウンロードしてもらうか。そんな視点をアプリ開発に取り入れてみてはどうだろうか。

プロフィール:松村太郎

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東京、渋谷に生まれ、現在は米国カリフォルニアのバークレイで生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(Web/モバイル)の関係性について追求している。


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