Sales is Art & Science――。前回紹介した営業における科学性に引き続き、今回は営業におけるArt、すなわち芸術性を考えてみましょう。
「自分は営業に向いていない」と考える営業パーソンは多いようです。しかし、「口下手」な営業マンが「聞き上手」の能力を生かすことで好業績を上げることがあるのも事実。そこで今回は、営業の「芸術性」に着目することで、結果を出せるようになるヒントを紹介します。
前回の記事では、営業の科学的アプローチについて説明しました。科学的アプローチは、(1)営業のプロセスを明確にすること、(2)営業プロセスごとに数値化できる行動を洗い出すこと、(3)差が生まれているところにデータや数値を基にして着目すること――などです。
今回は、行動の場面で違いを生む「芸術性」についてです。芸術と言われると、アーティスティックなことを思い浮かべてしまうかもしれません。ここで、営業における“芸術性”とは何かを確認しておきましょう。
芸術を英語で言うと「art」。プログレッシブ英和中辞典によると「art=芸術、技術、こつ、要領」とあります。さらに「芸術」を大辞泉で調べると「芸術=特定の材料・様式などによって美を追求・表現しようとする人間の活動」とありました。
上記2つの視点から、芸術家と言われる人、芸術的と言われるモノから、わたしが受ける印象は、
などです。これらを営業の仕事に置き換えると、
と言えるのではないでしょうか。
「営業には向いていない」と言う人に対して取り組むことは、強み、特技、好きなことを聞き出すこと。聞き出すポイントは、小学校時代を含めた学校時代の経験や、アルバイトの経験です。
時期 | 内容 |
---|---|
学生時代の経験 | 1:習い事(習っていた年数) 2:部活動(サークル活動、委員会活動など) 3:得意学科(成績のよかったもの) 4:表彰を受けたこと(小さなことでも可) 5:よくほめられたこと(周囲から認められたこと) |
仕事 | 6:取り組んだアルバイト(または入社してから今までの仕事) 7:アルバイト(または入社してから今までの仕事)で楽しかったこと 8:アルバイト(または入社してから今までの仕事)でうれしかったこと |
趣味・特技 | 9:趣味(または長い時間取り組んでいても苦にならないこと) 10:特に好きなものの固有名詞(例:マンガを読むのが趣味⇒好きなマンガベスト3など) |
上記の質問には意図があります。角度や時間軸を変えて質問していくと、出てくる答えに、何かしらの共通点が見つかります。その点こそ、相手の突出した強みであり個性であることが多いのです。特に、学生時代に取り組んできたことは、一心不乱に取り組んでいることがほとんどです。しかし残念ながら、社会人になると、「新しい能力や知識を身につける」ことに意識が向いてしまい、過去に自分が取り組んできたことを生かそうという発想がなくなってしまいます。せっかく社会人になる前の20年ほどの時間を費やし、個性を醸成しているのに、それを生かしていないのです。
一例を紹介しましょう。先日行った金融機関の研修でのこと。営業の人とお互いにインタビューをするというワークがありました。わたしがご一緒した人は、20代半ばの男性で入社2年目でした。
彼を仮にSさんとします。Sさんは研修中に居眠りをしていて、はた目にも営業という仕事に疲れているように見えました。
なぜ今の仕事(金融機関)に就こうと思ったのでしょうか。「大学卒業後、専門学校に通ったけれども、その世界でやっていけるか分からなかった。ほかの就職先を探して、最初に内定の連絡をくれたのが今の会社だったから」とのことでした。
大学や専門学校についてより詳しくお聞きすると、学校は芸術系の大学で日本画を専攻していたそう。そして、専門学校はアニメーションの学校だったとのこと。今までやってきたことと金融機関では、随分とギャップがあります。
このギャップが気になってご家庭の話も聞きました。Sさんのお父さんは公務員、お母さんは教員。いわゆる“堅い”家柄です。
以下は憶測ですが、ご両親から「安定した職に就くこと」を期待され、無意識のうちに、自分がやりたかった芸術方面での仕事ではなく、世間的に安定した仕事と言われる金融機関の仕事を選んだのかもしれません。しかし、芸術方面の仕事は個性を徹底して伸ばすことを要求されてきた一方、就職先の金融機関の職場では、均質化を求められている様子。そのギャップに少し疲れを感じているタイミングなのでしょう。
Sさんに少しでも元気になって欲しくて、次のようなことを考えてもらいました。「芸術(絵画)を学ぶ中で使っていた能力はどのようなものがあったか」です。
その時に出てきたのは、
このように、1つのモノゴトに取り組む時には、無意識のうちにいろいろな能力を使っています。わたしは、その能力を1つ1つ明確にすることを『能力を分解する』と言っています。能力は分解することで、汎用度が高まり、仕事のあらゆるプロセスで生かせます。
そして、能力を明らかにしたところで、仕事の場面に応用できないかを考えます。例えば、Sさんからは次のようなアイデアが出てきました。
Sさんの場合は直接的に「絵」に関係するアイデアが多くなりましたが、例えば、試験が多い金融機関では、「集中力」「孤独な作業への耐久力」「表現する技術」を使って、試験勉強に生かすこともできるかもしれません。
部下や後輩が「自分はこの仕事に向いていない」という時は、部下や後輩の過去の話を聞いて、能力を分解してみてください(なかなか出にくい時は、仕事ぶりを見ていて、感心できることを伝えるのも有効です)。そして、仕事の場面に落とし込むと、取り組めることが増えます。できることが増えると、前向きに努力したい気持ちが芽生え、モチベーションが高まります。モチベーションが高くなり、能動的に仕事を進めていくと、以前とは違った手ごたえを感じることができ、結果につながりやすくなるのです。
個性を引き出し、際立たせ、磨き続けることは、仕事の過程における「芸術性」です。なお、能力を分解する作業は1人だとなかなか分かりづらいので、お互いにインタビューすることをお勧めします。部下や後輩の意外な面も見え、面白いですよ。次回は、個性を元に、お客様に対して働きかける「芸術性」を紹介します。
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
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