Evernoteが成功する5つの理由、不可欠だった“ギーク主義社会”
「コンシューマソフトウェアカンパニーとしては最高の時代」というのはEvernoteのフィル・リービンCEO。Evernoteを取り巻く状況について、CEOなりの分析を披露した。
「今は、コンシューマソフトウェアカンパニーとしては最高の時代」――。Evernoteを取り巻く状況について、米Evernoteのフィル・リービンCEOはこう話した。
2008年6月に始まったEvernoteは現在、全世界で870万人のユーザーを抱える。新規ユーザーは毎日2万人のペースで増加中だ。驚異的なのは全ユーザーの91%が自然増だったこと。
特にプロモーションすることなく、ブログやTwitterの口コミでEvernoteを知り、会員になってくれたのだ。8.4%は提携するガジェットからの会員。広告やプロモーションなどで獲得したユーザーは0.6%に過ぎないという。
5つの要素が生み出した“ギーク主義社会”
この成長をもたらした要因は「5つのユニークな事柄」(リービン氏)だ。
- App Store
- クラウドサービス
- オープンソースインフラストラクチャー
- ソーシャルメディア
- フリーミアムエコノミクス
App Storeの誕生によって「ソフトをどうやって売って行けばいいのか――パッケージの流通や販路、マーケティングなど――を悩まずに済むようになった」という。クラウドサービスの普及によって、起業のためにサーバやインフラを自前で用意する必要がなくなった。Evernoteを作るためのデータベースなどの基盤技術はオープンソースの恩恵を受けた。顧客へのリーチも今ではTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアでどんどん広まる。同じようなプロダクトを大手が出してきても、フリーミアムエコノミクスであれば、クオリティの高い製品を提供し続ければ、無料以下の価格競争には陥らない――というわけである。
「ギークメリトクラシー」――。こうした5つの要素が生み出した状況をリービン氏なりに表現した造語だ。ギーク(geek)とは米国の俗語で、あることに熱中して、人よりも優れた知識を持つ人のこと。「オタク」と訳すこともある。メリトクラシー(meritocracy)は能力主義、能力主義の社会などと訳される。
リービン氏の言わんとすることを推測すれば、何かに熱中するギークであることが成功への条件。つまり、Evernoteがソフト開発だけに注力し、ソフト開発のギーク度を高めたところに成功の要因があるという。
「素晴らしいものを作れば、成功できるという世界。マーケティングやロジスティクスなどの“小さな事”は心配しなくてもいい。(Evernoteは)そんなギークメリトクラシーだからこそ成功した。デザインやユーザーインタラクションに強みを発揮する日本企業もギークメリトクラシーで成功するのではないか。(日本企業は)ワールドワイドコミュニケーションやロジスティクスは強くなかったでしょう」
一番重要なことに集中できる時代。「ルネッサンス期に差し掛かっていると言ってもいいだろう」とリービン氏。能力主義社会ならぬ「ギーク主義社会」の到来である。
最高の価値は未来に存在する
これまでのビジネスは最初の価値が最も高くて、徐々に価値が減って行くものが多い。例えば一般的な中古車は新車に比べて安価である。製造した直後に最も価値があり、その後少なくなり、最後は廃車という流れだ。
こうした「価値逓減の法則」に捕われないのが「情報」という商材。新聞の年間購読を決めれば一定の月額を支払うことになる。インターネットや携帯電話、ケーブルテレビの利用料などもこうした範ちゅうに含まれるだろう。
一方、ギーク主義社会ではどうだろうか。クラウドサービスによって、ビジネスを始める初期コストは大きく下がり、無料で提供するフリーミアムエコノミクスが可能になった。リービン氏によると、最初の価値が低くても、その後の機能追加などによって徐々に価値が増えていくという状況になったという。「最高の価値は未来に存在する」というのである。
実際、Evernoteの有料会員(プレミアム会員)は、使い始めたばかりの1カ月程度では1%以下と低く、1年(12カ月)で約8%、3年(36カ月)では約23%にも達する。「無理やりお金を払ってもらうことはしていない。Evernoteを好きになってもらった人にプレミアム会員になってもらっている」
もちろん、Evernote側も製品を常に改善していかなければならない。だが、長く使ったユーザーほど価値を感じるビジネスこそが「クラウド時代のビジネス」だという。
今後、EvernoteではFacebookやTwitter、mixiなどといった「ソーシャルライフに貢献するサービスとの融合を強める」方針。個人個人のナレッジを溜めるツールとしてだけではなく、ソーシャルライフとも融合するという。
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